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中医師・今中健二のがんを生きる知恵
第13回 大腸がん対策は、水分を上にあげること
大腸がんの罹患者数は長年、増加傾向。2018年の統計データによると、1年間に日本全国でおよそ15万2,000人が新たに「大腸がん」と診断されました。男性では、前立腺がん、胃がんに次いで3番目、女性では乳がんに次いで2番目。男女合わせると長年第1位で、2021年の罹患者数は15万6,000人を超えるとの予測も出ています。
食生活の洋風化が大腸がん増加の要因とも言われていますが、中医学の視点で見ると、大腸がんという病はどう捉えることができるのでしょうか。治療と対策とは? 今回は「大腸がん」に焦点を当てて考えていきます。
陰陽、両タイプのがんが起こり得る
がんは、体のどこにできようと、「*陽タイプ」と「*陰タイプ」の2種類しかありません(第1回 病は「胃」から始まる参照)。
体の上部に発生する「乳がん」や「肺がん」は、発生メカニズムから陽タイプがほとんどであることは、前回までにお話してきました(第10回 なぜ乳がんになるの? 再発予防法・第12回 「肺がん」になりにくい体質を手に入れる参照)。
とすると、大腸は体の中では下部に位置するので、陰タイプのがんができるのだろうと想像された方は、これまでの話を理解していただいていると思います。
結論から言うと、それは半分正解。確かに大腸がんは陰タイプの発生頻度が高いことは間違いありませんが、実は「陽のがん」「陰のがん」ともに起こるのです。このことについて、まずは説明していきましょう。
*陽と陰:中医学の根本的な考え方。陰陽論では「万物は、陰陽という対立する要素を両方持ち、その割合を刻一刻と変化させながらバランスを保っている」と捉えます
陽タイプは早期なら内視鏡で
大腸に異変が起こる1つ目は、食べ過ぎなどで栄養過多になったとき。
この場合、胃の中に籠った熱が胃の*経絡を伝って流れ出します。そのとき、胃の経絡のスタート地点に比較的近い咽頭や乳房、または肺などに炎症を起こすことが多いわけですが、そこを通り過ぎ、もしくはそこに炎症を起こした上で、さらに熱が下へおりていき、大腸まで到達することがあるのです(図1)。
熱が大腸にまでおりてくるときは、熱だけでなく、湿(水分)も一緒におりるのが特徴。湿と熱が合わさって湿熱(しつねつ)となり、大腸まで熱が届くというメカニズムです。そして、大腸に熱性のポリープを作り、それが、ときに大腸がんへと移行することがあります。これが陽タイプの大腸がん。
平常時から体温や血圧が高めな人は、熱が籠りやすいタイプ。加えて、足の裏に真っ赤な水虫ができやすい人は、下半身に熱だけでなく、湿も溜まりやすいタイプと言えるでしょう。湿と熱がともに下におりてくるため、水分はむくみとなり、そこに熱が加わって、じゅくじゅくの水虫になるのです。
同様のものが大腸にできると大腸ポリープ(陽タイプ)。それらはときに悪性化して、がんになることがあります。しもやけになりやすい人も、湿熱が下におりやすいと考えられます。
ちなみに、この陽タイプの大腸がんは、血気盛んでエネルギーが溢れている若年層に多いのが特徴。熱が溢れるので、上にも昇るけど、下にもおりてきてしまったというパターンです。ただし、熱は基本的にまず上に昇るので、実は熱性(陽)の大腸がんだけができることは珍しいのです。
陽の大腸がんができるということは、熱が上に昇るだけでは行き場がなくなり、下におりてきてしまったことが原因。つまり、大腸がん以前に、体の上部の肺や胃、乳房などに炎症(がんを含む)があって、さらに、熱が溢れて下におりてきて大腸がんも発生した、というケースが多いのです。
とはいえ、陽のがんは熱が籠った状態から生まれるので、血液が固まって乾燥し、膿(うみ)のような状態になった熱性ポリープから派生します。ですから、早期であれば内視鏡で切除することができます。つまり、早く見つけさえすれば、怖くないがんと言えるでしょう。
*経絡(けいらく):気血が流れるエネルギーの通り道。経絡は全部で12本あり、頭や顔、内臓や手足を繋ぐように体中に張り巡らされている
陰タイプのがんの難しさとは
やっかいなのは、陰タイプです。大腸は体の下部にあるので、水分が下に落ちて溜まり、むくみやすいのです。キュウリを長時間、冷蔵庫に入れたままにしておくと、下に水が溜まってジュクジュクになってきますよね。人間も同じ。まずむくみやすいのは、腰や足です。
体のいちばん下に位置する内臓が大腸。中でも、肛門に繋がる直腸からS状結腸にかけてが最も下部に当たるため、水分が溜まりやすく、むくみやすいというわけです。
この部分がむくんでくると、便の通り道が狭まり、便が出にくくなって、細長いものやコロコロと小さいものに。また、むくみによって筋力も衰えるので、その傾向は顕著になっていきます。
そんなむくんだ状態の大腸に、水が溜まった袋(ポリープ)ができると、破れて周辺が潰瘍(かいよう)になることがあります。これは、塊(かたまり)を作り出す陽のがんと違って、炎症と正常組織の境目がはっきりしない状態を引き起こし、そこから陰のがんが発症することがあるのです。
こうなってしまうと、むくみと、そこから溢れる水分で粘膜の組織自体がふやけてしまうので、たとえ水性のポリープを切除しても、状態は何ら変わりません。内視鏡や手術でがんだけを取り除くことが難しいのが、陰タイプのがんの特徴であり、難しさと言えるでしょう。
陰のがんになりやすい体質と生活習慣
では、どのような人が、陰のがんになりやすいのでしょうか。
座り仕事が多い人、長距離ドライバー、腎臓や膀胱が弱くて排泄がスムーズでない人。また、血液をサラサラにする薬や降圧剤、痛み止めといった、水分を下に落ちやすくする薬を常用している人に多い傾向があります。むくみを下腹部に溜めやすい体質や生活習慣が影響しているのでしょう。
下腹部に水分が溜まりやすくなると、その人の弱い部位にむくみとなって現れ、そこから潰瘍を発症して陰のがんに移行してくことが考えられます。
子宮が弱い人は子宮がん、卵巣がむくみやすければ卵巣がん、大腸ならば大腸がん、大腸の周辺がむくみやすいと腹膜がんという形かもしれません。とにかく、水分が下におりてきて溜まってむくみとなり、そこから陰のがんに移行していくというメカニズムです。
理論的には、お腹をパカッと開けて、乾いたタオルで水分を拭いてやり、ふやけた内臓を取り出してキュッと絞れば治るのです。大腸を絞って水分を捨てることさえできれば、すべて解決。だけど、実際にはそんなことはできませんからね。