鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

「あきらめた」からこそ、生きる力が湧いてくるのだと教えられた 小林弘幸 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
発行:2014年6月
更新:2018年8月

  

「あきらめない」医師 vs「あきらめる」健康法を提唱する人気医学部教授―その対論の行方

順天堂大学病院で6年半待ちの超人気「便秘外来」を開設している、外科医の小林弘幸さんが昨年出した、『自律神経を整える「あきらめる」健康法』が話題になっている。『がんばらない』という処女作を持つ鎌田さんの考え方と、小林教授の「あきらめる」健康法は通底しており、2人は意気投合し語り合った――。

小林弘幸さん「いま一度、呼吸の大切さを見直す時期なのかもしれませんね」

こばやし ひろゆき
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部教授。順天堂大学院医学研究科(小児外科)博士課程修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科勤務を経て、順天堂大学小児外科学講師・助教授を歴任し、現在に至る。著書に『自律神経を整える「あきらめる」健康法』『うまくいく人は、なぜ「自律神経」を意識しているのか?』『「怒らない体」のつくり方』『自律神経を変える「たった1ミリ」の極意』など
鎌田 實さん「『あきらめる』が結果的に『あきらめない』につながっていくわけですね」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

小児がん患者から学んだ「あきらめる」大切さ

鎌田 きょうは午前中に三島キャンパスで授業をされて、本郷キャンパスに戻られたところだそうですね。大変ですね。

小林 順天堂大学は東京・本郷に拠点があり、私はここで医学部の授業と大学院の修士・博士課程両方の授業を持っています。そのほかに保健看護学部が三島市と浦安市にあり、そちらでも教えています。それだけでも大変ですが、私は「医療安全と感染対策」の代表をやっていますから、これにも結構時間を取られるんです。

鎌田 それはまたストレスが多い役職ですよね(笑)。そういう多忙な毎日で、小林さん自身、交感神経と副交感神経のバランスは取れているんですか。

小林 そのあたりは、血液型がAB型のせいか、上手くストレスが抜けますね(笑)。忙しいという点については、もう半ばあきらめていますね。

鎌田 さて、自律神経とがんは密接に関係していると思いますが、がんと闘っている人たちは、自律神経の領域は難しいためか、案外無頓着になっているような気がします。小林さんは昨年、『自律神経を整える「あきらめる」健康法』という本を出されています。あきらめないでがん闘病生活を送っているがん患者さんたちに、何か良いヒントがいただけるのではないかと思います。

小林 実は私の母は、私が高校3年のとき、膵がんの手術中に亡くなっています。46歳でした。そのときに、がんになった人はこういう感じで悪くなっていくのだということを目の当たりにしましたから、その経験が「あきらめる」という考え方につながっているのかもしれません。

また、私は小児外科もずっとやっていましたが、小児がんというのはきついんですよ。ただ、小児がんは遺伝子で決まる先天的なものですから、ご両親もそれを受け入れるというか、一種あきらめて看病に専心される。そういう小児がんの患者さんを診ていて、「あきらめる」と「あきらめない」は表裏一体だと思いましたね。

鎌田 「あきらめる」が結果的に「あきらめない」につながっていくわけですね。

小林 長年がん患者さんを診てきて思うのは、がんになっても前向きに生きることができる人は、なったものはしょうがないという「あきらめ」がある。なぜがんになってしまったんだろうと考え込んでしまう人は、前向きに生きられない。そんな感じがします。

鎌田 がんになったとしても、1回、しょうがないとあきらめて見ると、視界が変わって見えてくるということでしょうね。

あきらめ受け入れると 闘病の力が湧いてくる

小林 私は以前、今は肝臓移植で治療できる胆道閉鎖症の患者さんを専門的に担当していたことがあります。当時はこの病気の子どもはミゼラブルで、ほとんどが20歳までに静脈瘤などを発症して亡くなっていました。私はその子たちから多くのことを学びました。その子たちは赤ん坊のときに手術し、入退院を繰り返して成長していますから、子どもの頃から自分は他の子と違い、他の子が当たり前にできることが自分にはできないことを知っています。

ですから、どこかであきらめながら、成長しているんです。そして、20歳になる前に亡くなっていく。この子たちにとって人生って何だろうと思いましたね。しかし、彼らはある部分ではあきらめているけれど、生きることについてはあきらめずに、一生懸命に生きていました。私は彼らから、ある部分をあきらめたからこそ、その生きる力が出てくるんだということを教えられました。

鎌田 がん患者さんの場合も、がんを宣告されてオロオロしてしまうだけでは、その後の生きる力が湧いてこない。一旦あきらめてがんを受け入れたところから、がん闘病の力が湧いてくるわけですね。

小林 私は、それがすべてだと言ってもいいと思いますね。

鎌田 あきらめると生きる力が湧いてくるというのは、科学的に言うとどういうことになるんだろう。

小林 患者さんはよく、「気持ちがすっと抜ける」と言いますね。「体の中に風が通った感じ」という名文句を吐いた患者さんもいましたよ(笑)。科学的に言えば、呼吸の問題だと思います。何かうつうつと考え込んでいるときは、人間ってあまり深い呼吸をしてないんじゃないかと思います。それがしょうがないかとなったとき、すっと気持ちが抜けて、ゆったりとした深い呼吸が戻ってくる。そうなれば、血流もよくなり、自律神経が戻ってきます。

鎌田 小林さんは本の中で、自律神経を働かせるには交感神経と副交感神経のバランスが大切で、ストレス社会では副交感神経が下がり気味になるから、ときどき、副交感神経を刺激したほうがいいとアドバイスされていますね。

小林 副交感神経を刺激すると、末梢の血流が良くなります。そうなると、呼吸が良くなってきて、気持ちも穏やかになりますからね。

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