鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

「幸せホルモン」の分泌を促すには、おしゃべりやスキンシップが大切 有田秀穂 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
発行:2014年9月
更新:2018年8月

  

セロトニン、オキシトシン研究の第1人者が説く「幸せホルモン」の効用とは

最近、セロトニン、オキシトシンといった「幸せホルモン」「愛情ホルモン」が話題になっているが、これらの効用を早い時期から推奨していたのが、東邦大学医学部名誉教授で、現在、東京・台東区上野に「セロトニンDojo」を開設している有田秀穂さんである。セロトニン、オキシトシン効果に着目している鎌田實さんに聞いてもらった。

有田秀穂さん「セロトニンの分泌を活性化すれば、心身は快調になり、病気も未然に防ぐことができます」

ありた ひでほ
1948年東京生まれ。東京大学医学部卒業後、東海大学病院で臨床、筑波大学基礎医学系で脳神経系の基礎研究に従事。その間、米国ニューヨーク州立大学に留学。東邦大学医学部統合生理学で坐禅とセロトニン神経・前頭前野について研究を続け、2013年に退職、名誉教授。セロトニン研究の第一人者。メンタルヘルスケアをマネジメントするセロトニンDojoの代表。主な著書に『脳からストレスを消す技術』(サンマーク出版)、『ストレスすっきり!脳活習慣』(徳間書店)、『セロトニン欠乏脳』(NHK生活人新書)など。
鎌田 實さん「セロトニンは自分の心がけで自然に分泌されるので、こんなありがたい物質はありませんね」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

セロトニンを分泌すれば 病気も未然に防げる

鎌田 早速ですが、ここ「セロトニンDojo」はいつ開設されたのですか。

有田 5~6年前です。まだ現役教授として大学(東邦大学医学部)で教えているときでした。ただ、きちんとやり始めたのは、定年で大学を離れた1年ちょっと前からです。

鎌田 Dojoではどういうことをされているんですか。

有田 2つのことをやっています。1つは、メンタルヘルスに問題をかかえた人に対する指導です。まず私の面談を1時間ほど受けてもらいます。そして、私のところでは薬は使いませんが、病院で薬を処方されている人に薬の使い方を指導したり、呼吸法、ヨガなどを教えたりしています。

もう1つは、セロトニン・トレーナーの養成で、現在20人ぐらいの生徒がいます。3カ月かけて、セロトニンに関する正しい情報を、自ら発信したり指導したりできるトレーナーを養成しています。

鎌田 がん患者さんの中には、闘病の過程でうつ病になったり、うつ的症状になる人がいます。また、がん告知を受けてから、よく眠れなくなったという話もよく聞きます。幸せホルモンと言われるセロトニン、愛情ホルモンと言われるオキシトシンに関するお話は、がん患者さんやその家族にとって、大きなヒントになると思います。セロトニンは一般的に幸せホルモンと言われていますが、どんな働きをする物質ですか。

有田 人間はストレスによっていろんな病気になることがありますが、セロトニンは心に安定をもたらし、爽快な元気を心と身体に与える、自然の特効薬ともいうべき脳内物質です。セロトニンの分泌を活性化すれば、心身は快調になり、病気も未然に防ぐことができます。だから幸せホルモンと言われるんです。

鎌田 有田さんは『50歳から脳を整える』(成美文庫)の中で、脳の主要な役割として、仕事脳、学習脳、共感脳、切り替え脳の4つを挙げていますが、セロトニンは切り替え脳と関係しているそうですね。

有田 切り替え脳は人間に特有な脳の働きです。現実でどうしようもない状況になったとき、現実に即して考え方を切り替え、そのハードルを越えていく。そこで立ち止まって前に進めないのは問題です。セロトニンが十分出ていれば、切り替え脳が働き、ハードルを乗り越えることができるのです。

セロトニンを出すためには 30分でも太陽光に当たる

鎌田 例えば、がんの手術をした人が、その後転移が見つかり、放射線療法をしようか、化学療法をしようか、選択を迫られることがあります。その場合、セロトニンがしっかり出ている人は、自分でいろんな情報を集めて、治療の切り替えについてきちんと自己決定ができるわけですね。

有田 そういうことです。それができないと、患者さん本人はそこでフリーズしてしまい、いっそうストレスをためることになる。ですから、その状態から切り替えて、もう1歩前へ進もうとするときに、セロトニン活性が必要なんです。

鎌田 うつ的症状に陥るがん患者さんが少なくありませんが、最近はセロトニンが関係しているうつ病の薬も多いようです。でも、有田さんの本を読むと、薬を飲まなくても、自分の脳内にセロトニンを出せるんですよね。

有田 要素は3つあります。第1は、太陽の光。部屋に閉じこもっていないで、たまには外へ出て、太陽の恵みを浴びましょうということです。

鎌田 がん患者さんも外に出たほうがいい。

有田 長い時間は必要ありません。30分程度でいいんです。また、直接外へ出なくても、陽の当たる窓辺でもいい。第2は、身体を動かすこと、いわゆるリズム運動です。ウォーキングでもいいし、歌を歌うことでもいい。呼吸のリズム運動をしっかりと行う。しっかり噛んで食べる咀嚼のリズム運動も大事です。

鎌田 呼吸のリズムでは、吸うことより吐くことが大事だとか。

有田 セロトニンが増えるのは、息を吐くときです。歌を歌うときも、座禅をするときも、お経を読むときも、吐くことが基本になっています。呼吸するときも、吸うときは横隔膜に任せ、吐くときは意識的にしっかり吐く。この呼吸を最低5分続けると、セロトニンが分泌されてきます。

鎌田 第3は?

有田 スキンシップです。

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