鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

がんと闘う免疫力を上げるには腸内環境を整えることが大切 辨野義己 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
発行:2015年5月
更新:2018年8月

  

大便研究の第1人者が語る。がんを始めあらゆる病気の原因が腸内細菌と関係があるという驚き

〝STAP細胞〟事件で耳目を集めた特別行政法人・理化学研究所で、全世界から8,500件からの大便を集めて、腸内細菌の役割を調べている特別招聘研究員がいる。その名も辨野義己(べんのよしみ)さん。腸には免疫細胞の6割が集中し、「21世紀は腸の時代」と力説する辨野さんに、鎌田さんが切り込んだ――。

辨野義己さん「動物性脂肪の摂取量と大腸がんには相関関係があります」

べんの よしみ
1948年、大阪府生まれ。酪農学園大学獣医学科卒、東京農工大学大学院経て、独立行政法人理化学研究所に入所。バイオリソースセンター微生物材料開発室室長などを務め、現在、イノベーション推進センター辨野特別研究室特別招聘研究員。40年以上にわたり、腸内細菌学・微生物分類学の研究に取り組んでいる。主な著書に『大便力』『整腸力』『腸がスッキリすると絶対やせる!』『腸を鍛えれば頭がよくなる』『「腸内細菌」が寿命を決める』『免疫力は腸で決まる!』など多数
鎌田 實さん「水洗トイレの水に浮くウンチが野菜をちゃんと食べてるいいウンチです」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

世界一のウンチ収集家「今日もウンチは空を飛ぶ」

鎌田 今日のゲストは便の研究をしている辨野義己(べんのよしみ)さん(笑)。

辨野 「ペンネームですか」と言われることもあります(笑)。もう43年間も人の大便を研究対象にしているんですが、いちばん興味があるのは腸内細菌です。腸内細菌がどんな役割を果たしているかについて、ずっと研究してきました。

鎌田 最初から便の研究だったんですか。

辨野 私はもともと獣医の免許を取っており、動物の病気をやりたかったんです。ところが私のボスだった光岡知足(ともたり)先生から、「人と動物を含めた研究をするのが公衆衛生で、いちばん崇高な仕事だよ」 と言われ、騙されて理化学研究所に入り、便の研究を続けてきたわけです(笑)。大学院のときから理研で研究をしていましたから、就職の苦労をまったくしないまま、理研に入ってしまいました。

鎌田 いままで何件ぐらいの便の調査をしてきたんですか。

辨野 8,000~8,500 件になりますね。

鎌田 世界一?

辨野 世界一でしょうね。

鎌田 外国人の便もありますか。

辨野 もちろんです。海外から便を持ち込むんです。検疫がうるさいだろうと思われる方もいらっしゃいますが、人の便は一切チェックされません。というのは、出入国する人が体内に持っている便は一切チェックされませんからね。それと同じです。

ただ、米国で9・11 同時多発テロがあった日に、私は中国・広州から中国人360人分の便を運ぼうとしていました。説明しても、税関がなかなか通してくれない。それで広州、中山医科大学の先生に来て説明をしてもらい、やっと持ち帰ったことがあります。その後、テロの日にウンチを運んだということで、「今日もウンチは空を飛ぶ」という文章も書きました(笑)。

米国に半世紀以上遅れて 大腸がんの時代が到来!

鎌田 先生から公衆衛生を勧められたとしても、なぜ腸内細菌の方向へ行ったんですか。

辨野 最初に言われたのは、大腸がんに関する腸内細菌の研究をしてほしいということでした。当時、大腸がんと腸内細菌の関係について研究している人は、日本にはほとんどいなかったんです。しかし、1960年代当時、アメリカでは大腸がんの患者さんが多く、盛んに大腸がんに関与する腸内細菌の研究が行われていたのです。

鎌田 当時、アメリカ人に大腸がんが多かった原因は肉食ですか。

辨野 そうです。アメリカでは第1次世界大戦後の1920年代に冷蔵庫が普及し、肉の摂取量が急激に増えたのです。その結果、アメリカは大腸がん患者が増え、1960年代には大腸がんに関する腸内細菌研究のメッカになっていたわけです。

鎌田 現在、日本で大腸がんは女性のがんの1位、男性では3位ですよね。日本で冷蔵庫がテレビ、洗濯機と並び「三種の神器」と言われ、普及し始めたのは、ちょうど60年前の昭和30年ですが、その後、日本でも肉の摂取量が増えてきて、アメリカから半世紀以上遅れて大腸がんの時代になっているわけですね。

辨野 あと10年も経てば、男女共に大腸がんが1位になるでしょうね。やはり動物性脂肪の摂取量と大腸がんは相関性があります。

鎌田 なぜ動物性脂肪を多く摂ると大腸がんになるんですか。

辨野 まだエビデンスは十分ではありませんが、脂肪を摂ると胆汁が出てきて、その一部を腸内細菌がプロモーター(発がん促進物質)に変えてしまうのではないかと言われており、腸内細菌と大腸がんは非常に密接な関係にあります。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!