鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談
モデル・MAIKOさん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2011年7月
更新:2013年9月

  

乳がんに罹り、スキンヘッドになった一流モデルが語る「美しくがんと闘う方法」
抗がん剤をやって何かが抜けた。つらいけど得るものがありました

MAIKOさん

MAIKO
1969年、東京生まれ。本名 高橋麻衣子。高校卒業後からモデルを始め、『FENDI』『Chloe』『ヒロコ・コシノ』『ジャン・ポール・ノット』など数多くのファッションショーに出演。現在『ミセス』などのファッション誌、広告、CMなど、幅広い分野で活躍中。食や癒しへの関心が高く、「環境セラピー・ジュニアセラピスト」「ビューティーライフ・セラピスト」「ベジフルビューティセルフアドバイザー」など多彩な資格を持つ。2009年、乳がんの手術を受け『モデル、40歳。乳がん1年生。』(KKベストセラーズ)を刊行した

鎌田實さん

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数


176センチの長身のMAIKOさんは、20年以上、第一線で活躍している一流モデルである。2年半前に乳がんを発症し、温存手術を受けて以来、抗がん剤、分子標的薬、放射線、ホルモン療法と、がん治療のフルコースを体験してきたが、その体験を語る表情は5月の空のように突き抜けている。鎌田實さんが、MAIKOさんの突き抜けた表情の内面に迫った――。

鎌田  「重い病気を乗り越えると、絶対、そこに何かあるんですよね」

MAIKO  「病気になってから、何か突き抜けたような気がします。腹黒さが抜けたんでしょうか(笑)」

「95パーセント大丈夫」が「悪性乳がん、全摘を」に

モデル、40歳。乳がん1年生(KKベストセラーズ)

鎌田  『モデル、40歳。乳がん1年生。』(KKベストセラーズ)の表紙に、MAIKOさんのスキンヘッドの写真が使われていますが、眼力があって良い写真ですね。この写真、仕事で撮ったものですか。

MAIKO  いえ、プライベートで記念に撮りました。2009年の8月ごろの写真です。抗がん剤治療が終わって、毒が抜け始めたころですね。

鎌田  この本を出された最大の目的は?

MAIKO  私が体験したことを、同じ病気の人に少しでも伝えたいと思ったのです。がん治療は怖いイメージがありますが、こうすれば乗り越えられるということを伝えたいと思いました。

鎌田  手術をされたのは?

MAIKO  2009年の2月です。

鎌田  手術に至るまでに、ちょっとバタバタしたようですね。

MAIKO  最初に検査を受けた病院では、「95パーセントは大丈夫です」と言われていたのに、検査の結果はそうではなかったのです。

鎌田  そのときはつらかった?

私が体験したことを、同じ病気の人に少しでも伝えたいと思ったんです

「私が体験したことを、同じ病気の人に少しでも伝えたいと思ったんです」(MAIKO さん)

MAIKO  そうですね。自分は大丈夫なんだと、テンションが上がっていましたから、いきなり奈落の底に突き落とされた感じでした。

鎌田  最初は自分でしこりを見つけたんですよね。

MAIKO  はい。2008年の10月に自分でしこりを見つけました。友だちにも、「私もしこり、あるよ」と言う子がいたんですが、彼女たちも一応病院で診てもらい、がんではないと言われていました。ですから、私も1度診てもらわなくてはと思い、病院へ行ったのですが、乳腺科ではなく、行きつけの婦人科へ行ってしまいました(笑)。その先生が女医さんなので、相談しやすかったということもあったんです。

鎌田  それで専門の病院を紹介されて、検査を受けたところ、最初は「95パーセントは大丈夫」と言われたんですね。その気になって、1週間後に病理検査の結果を聞きに行くと、乳がんを宣告され、しかも「かなり悪い」と言われた。

MAIKO  私がイメージしていたがんの宣告は、家族を呼んで一緒に話を聞くというものでした。普通に1人で気軽な気持ちで結果を聞きに行ったら、突然、「悪性乳がんで、全摘をお勧めします」と言われ、とてもショックでした。

鎌田  特別な環境の中で告知されると思っていたのが、さらっと言われちゃった(笑)。

MAIKO  「えっ! そんなに簡単に宣告されるんですか」という感じでした。先生たちは1日に何10人という患者さんを診ていらっしゃるわけですから、いちいち感情を込めていては大変でしょうが、私にとっては先生は1人ですから……。

乳がんの先輩たちを見て全摘を受容する覚悟決める

MAIKO さんがスキンヘッドで現れなくて少し残念そうな鎌田さん

MAIKO さんがスキンヘッドで現れなくて少し残念そうな鎌田さん

鎌田  乳がんを宣告されて、どんな気持ちでしたか。

MAIKO  がんイコール死という思いが、ぱっと浮かびました。

鎌田  やっぱり。言ってる医師のほうはそうは思っていないんですけどね(笑)。その後、事務所からセカンドオピニオンを勧められ、2番目の病院で検査を受けたけれども、同じ診断をされた。そこで、さらに、元夫のお母さんのツテで、サードオピニオンを求めて聖路加国際病院へ行ったんですね。

MAIKO  はい。そこで穏やかで優しい矢形寛先生に出会い、この先生にお任せしようと決めました。ただ、検査の日の最後に、「まだ、はっきりとは言えませんが、全摘の可能性が高いかな……」と言われて、落ち込みましたけど(笑)。

鎌田  全摘とか温存とか、自分でいろいろ調べましたか。

MAIKO  自分で調べたり、乳がんの先輩に聞いたりしましたね。ただ、私の周りには温存手術をした人はいなかったんです。でも、全摘手術をした人でも、皆さん以前より元気だし、再建して立派な胸になっていますし、ああこういう人生もあってもいいのかな、と思いました。ですから、全摘手術と言われても、大丈夫という感じでした。

鎌田  初めから全摘でも受容できた。すごいな。性格的に潔いところがあるんだ(笑)。全摘になったらモデルとして困るな、という気持ちはなかった?

MAIKO  多少、心配はありました。たとえば片側だけでは、洋服に支障が出るかなといった思いはありました。ただ、もともとそんなに大きくはないので(笑)、何とか仕事は続けられると思っていました。

鎌田  私がMAIKOさんに会いたいと思ったのは、「美しくがんと闘う方法」があるのではないかと思ったからです。ともすると、がん患者さんは命がけでがんと闘おうとしがちです。でも、乳がんになったとき、美しくがんと闘うことができれば、患者さんとしてはそのほうがいい。MAIKOさんから、そのあたりのヒントが得られるのではないかと思ったのです。もう1度、お聞きします。全摘でもモデルの仕事は続けられると。

MAIKO  思っていました。

鎌田  楽天的なんだね( 笑)。それが大事なんだろうね、多分。

MAIKO  あまりいろいろ考えすぎると、自分を失ってしまいそうになるじゃないですか。でも私の場合、一瞬落ち込むのですが、じっくり出口を探して、出口の光が見えたら、その方向に一気に走るという感じです。

「温存で行ける」と言われ転移・再発を心配したが

鎌田  いい性格してますね。しかし、聖路加病院でも初めは全摘の可能性を言われていた。検査の結果、温存療法になった。そう言われたときは、どんな気持ちでした?

MAIKO  「エッ!」と、びっくりしました。全摘の覚悟で検査結果を聞きに行きましたから。先生、この前まで「全摘」って言っていたのに、今さら何言ってんだろうと思いました。それに、私の母が乳がんで、反対側にも転移して、両方を摘出しているんです。それで、温存にすると転移・再発は大丈夫なんだろうかと不安でしたから、先生に「大丈夫ですか」って、聞いたんです。すると、「ボクが大丈夫って言うんだから、大丈夫だよ」って言われました(笑)。

鎌田  そうか。お母さんの乳がんを見ているから、最初の手術でできるだけのことをしてもらおうと思っていたんだ。だから、「温存で行ける」と言われ、一瞬戸惑った。でも、温存で行けるのならそれでいいやと、また思えた。

MAIKO  思えましたね。

鎌田  やっぱり、いい性格してる(笑)。

MAIKO  ふっふっふふふ(笑)。

鎌田  温存で済むと決まったときは、やはりうれしかったでしょう。

MAIKO  乳がんの先輩に連絡して、「温存になりました」と報告すると、「良かったじゃない! 絶対、大丈夫よ」と言われましたし、先生の決定をありがたく受け入れ、先生について行くことが大事だと心に決めました。ただひとつ、「術後に抗がん剤」と言われたときには、「それ以外の治療法はないんですか」と聞きましたね。母が抗がん剤で苦しむのを見ていましたから。先生は、「やっぱり抗がん剤で徹底的に叩いておいたほうがいいからね」と言われました。それで抗がん剤治療もやむを得ないかと思いましたが、数日間、悩みました。

抗がん剤治療で体験した吐き気・便秘・味覚障害

鎌田  腫瘍の大きさは2センチ、早期がん。転移はなし。手術のための入院期間は?

MAIKO  4泊5日です。

鎌田  手術代が保険が利いて4~5万円で、個室が1泊3万5000円。手術代が安くて申し訳ないと思った(笑)。

MAIKO  お部屋代は別にして、手術の費用など、もっとかかると思っていました。トータルの支払いが意外に少なくて、本当にこれで病院やっていけるのかと思いました(笑)。

鎌田  術後の抗がん剤治療は、結構つらかった?

MAIKO  私は昔から注射で苦労するんです。抗がん剤の注射の針って太いですよね。なかなか入らなくて苦労しました。そして、液が入ってくると、口の中にもわっと臭いが広がってきて、1回目のときは本当に気持ち悪かったですね。それから、鼻の粘膜がピリピリするんです。家に帰れば帰ったで、気持ち悪さがドドドーッて大きくなって、便秘にはなるは……。

鎌田  便通には苦しんだようですね。

MAIKO  トイレに座っているんですが、出ないんです。お腹が究極の張りで、キリキリと痛むのですが、でも出ない。

鎌田  味覚障害もつらかった?

MAIKO  味覚障害はさほどつらいとは感じませんでした。3日ほどで治りましたが、最初はお水も苦く感じました。臭いはするけど、味はしないという、経験したことのない不思議な感覚を体験しましたね。

鎌田  吐き気は一定時間だけ襲われるの?

MAIKO  いえ、1日通してそんな感じでした。強い吐き気ではないんですが、二日酔いの後のような、なんかすっきりしない感じでした。

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