鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談
『泣き笑い健康法』著者・吉野槇一さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2010年3月
更新:2013年9月

  

頭の中を真っ白にすることで精神的ストレスを解消する「泣き笑い健康法」
泣いて、笑って、よく眠り、楽しいことに熱中する「脳内リセット」効果

吉野槇一さん

よしの しんいち
1939年、東京都生まれ。1965年、日本医科大学卒業。東京大学医学部整形外科学教室に入局。その後、都立墨東病院リウマチ科医長、米国ルイジアナ州立大学整形外科客員教授、日本医科大学リウマチ科教授などを歴任。元•吉野記念クリニック院長、日本医科大学名誉教授、東京電機大学客員教授。主な著書に『脳内リセット! 笑って泣いて健康術』『新版 リウマチ』『人工膝関節の合併症』『万病のストレスを解消する! 泣き笑い健康法』など

鎌田實さん

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)

もともと人間に備わっているストレスへの3つの対応法

鎌田 吉野さんの『万病のストレスを解消する! 泣き笑い健康法』(中経出版)を読んで、すぐにお目にかかりたいと思いました。吉野さんはリウマチを専門にされていますが、この本はがん患者さんやその家族にも役に立つと思ったからです。まず、最初におうかがいしたいのは、病気のストレスを解消するために、私たちの身体の中に3段構えのシステムができているという点です。この3段構えというのは、どういうことですか。

吉野 人類がここまで進化してきた過程を考えるとき、いちばん最初に生命が現れたときの形は単細胞です。それが多細胞になり、脊椎動物となり、脊椎動物のいちばん進化した形が人間だと言われています。人間はその進化の過程で、さまざまなストレスを受けてきましたが、そのつど、ストレスに対応する方法を身につけてきました。その対応法には、細胞レベルの対応、身体レベルの対応、精神活動レベルの対応と、3つの段階の対処法があります。それを私たちは全部持っているということです。

鎌田 地球上に生命が誕生した38億年前の単細胞の時代から、生命はストレスに対応する方法を獲得してきた。それを現在の私たち人間も受け継いでいる、ということですか。

吉野 そうです。私たちの身体にはこれらストレスへの対応法が仕組まれています。

鎌田 人間にとって、ストレスとはもともとどういうものですか。

吉野 私たちの心と身体の内部環境を乱すものは、すべてストレスです。ですから、病気自体がストレスです。そして、病気によって引き起こされる精神的な乱れもストレスです。人間が他の動物といちばん違うのは、精神的なストレスを獲得したということじゃないでしょうか。

鎌田 人間は脳(扁桃体など)で嬉しい、楽しい、寂しい、悲しいといった感情を感じていますが、それによって他の動物よりストレスを受けやすくなっているわけですね。

吉野 前頭葉は知・情・意をつかさどる器官で、人間はそれによって高い文明を築いたと言われています。しかし、その反面、考えることによって精神的なストレスを生むというマイナス面もあります。私たちは精神的ストレスから自由になることはできません。鎌田さんも私も、大なり小なり、精神的ストレスを持っているわけです(笑)。問題は、病気になったときなど、異常なストレスがかかったとき、どう対応するかということです。

病気の精神的なストレスが3つの系に悪影響を及ぼす

鎌田 たとえばがんになったとき、体内のがんそのものがストレスになると同時に、がんを告知されて治療のことを考えたり、今後の生活や家族のことを考えたりすることによって、精神的なストレスも受ける。この二重のストレスへの対応は難しいですよね。

吉野 がんそのものは身体的ストレスですが、それを認識したときに精神的なストレスが加わるのです。しかも、その精神的ストレスは、自律神経系、内分泌系、免疫系に悪い影響を及ぼすのです。

鎌田 その3つは、がんと闘っていくうえで、大事な働きをするものですよね。

吉野 そういうことです。現在のがん治療には、外科治療、放射線治療、抗がん剤治療などがありますが、最近、がん治療において免疫ということが強調される傾向があります。私は、それはちょっと間違いではないかと思います。たしかに免疫は大事ですが、免疫だけでは立ち向かえない。免疫系は自律神経系、内分泌系とスクラムを組んで、病気と闘っているのです。免疫系が働くためには、自律神経系、内分泌系のサポートが絶対必要です。3つは同等なんです。

鎌田 なるほど。ストレスが加わると、内分泌系はどういう影響を受けるのですか。

吉野 いろんな内分泌系がありますが、ストレスに対応する主な内分泌系は、視床下部・下垂体・副腎軸で、副腎皮質や副腎髄質からホルモンが分泌されます。

精神的ストレスが加わると副腎からホルモンが分泌

鎌田 脳の中に視床下部・脳下垂体という器官があり、ストレスを感じてホルモンを分泌するよう命令を出す。その命令は最終的にお腹にある副腎という臓器にいって、ホルモンを分泌するということですね。副腎皮質からはコルチゾールというホルモンが分泌されるようですが、コルチゾールが分泌されると、身体にどういうことが起きるのですか。

吉野 コルチゾールは別名ストレスホルモンと呼ばれています。コルチゾールの最大の役割は、身体の恒常性を維持することです。

鎌田 ストレスがあるとき、コルチゾールが分泌されるのは、基本的には良いことですよね。

吉野 良いことです。

鎌田 ただ、大きなストレスが加わって、コルチゾールがたくさん分泌されると、まずいこともある。

吉野 コルチゾールが多量に分泌され続けると、それが脳に働いたときにウツになってしまうこともあります。また、コルチゾールが働きすぎると、免疫系にも悪い作用が出てくるケースがあります。

鎌田 副腎髄質からはアドレナリンが出るんですよね。

吉野 そうです。ストレスには急性のものと慢性のものがありますが、アドレナリンは急性のストレスに関係します。思わぬ事態に遭遇したとき、アドレナリンが分泌されて、それに対応するためにいろんな反応を引き起こします。

鎌田 たとえば、道で突然殴りかかられたとき、アドレナリンを出し、血圧を上げながら必死に抵抗し、自分を守ろうとする。このことは決して悪いことではありませんよね。

吉野 人間が生き抜くために絶対に必要な反応です。この反応は「キャノンの闘争・逃走反応」と呼ばれています。

鎌田 しかし、がんのように、ストレスとの闘いが長期戦になると、そういうホルモン分泌の働きが疲弊してくるわけですね。

吉野 そうです。だから、がんの場合は、ストレスをいかに取るかが大事だと思います。そこで、きょう鎌田さんに聞いてみたいと思っていたのは、医療をどう定義するか、ということです(笑)。

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