鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談
脳機能科学者・苫米地英人さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
(2010年1月)

  

心と身体を一体のものとして考える医療――そこに新たな地平が開かれる
治ったあとに自分が活躍している世界、それをゴールにする

苫米地英人さん

とまべち ひでと
1959年、東京生まれ。脳機能科学者。上智大学外国語学部卒業後、イェール大学大学院博士課程を経て、カーネギーメロン大学大学院博士課程に学び、同大学院でPh.D.を取得。その後、徳島大学助教授、株式会社ジャストシステムなどを経て、現在、ドクター苫米地ワークス代表の傍ら、コグニティブリサーチラボCEO、全日本気功師会名誉校長などを務めている。著書に『洗脳原論』『夢をかなえる洗脳力』『脳にいい勉強法』など多数

鎌田實さん

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)

がんばっているときはIQは下がります

鎌田 苫米地さんはがんとはあまり縁がありませんか。

苫米地 いや、私は1985年ころにイェール大学で、人工知能を利用する初期のプロジェクトとして、肺がんの自動検診サポートシステムをつくっていました。医師の所見の英語の文章を人工知能に理解させて、その後、検診画像を認識させると、意外に検診の助けになるということでした。

鎌田 そうでしたか。実は、私が苫米地さんにお会いしたいと思ったのは、苫米地さんの本を読むと、「脳はがんばる人より、楽しむ人に味方する」とか、「がんばるのをやめるとIQが上がる、効率が上がる」などと書いてあったからです。私は10年ほど前に『がんばらない』という本を書いて、それがベストセラーになり、テレビドラマにもなったりしましたが、脳機能科学者の苫米地さんからすると、「がんばらない」ということは、どういう意味づけになるのか、それを教えてもらいたかったわけです(笑)。

苫米地 がんばっているときは、IQは下がります。

鎌田 IQは波のように動いているのですか。

苫米地 IQはそのときの脳の1つの出力みたいなもので、アクセルを踏むとパワーが上がるように、常に一定しているものではありません。だから、IQテストはかなりまやかしですね(笑)。本来の意味のIQとは前頭前野での思考能力のことで、サルやウマのIQは意味がない。前頭葉のロジカル・シンキング(論理的思考)をつかさどる重要な部分の働きは、がんばることによってストレスを感じ、確実に下がるのです。

鎌田 子どもの頃、私のIQテストの結果を、担任がこっそり教えてくれて、あまり高くなかったのですが(笑)、ワンポイントで見てもあまり意味がないのですか。

苫米地 ほとんど意味がないですね(笑)。アインシュタインがIQテストで高い点が取れたかどうか、怪しいですね。コツをつかんでしまえば、IQテストはやさしいのです。私は子どもの頃から、アメリカで飛び級にさせられて、何回もIQテストを受けさせられましたが、そのうちにIQテストは「こんなもんか」とわかってしまいました(笑)。

鎌田 IQテストにはコツがあるのですか(笑)。

苫米地 私はいまIQテストをつくる側に回っていますから、ほぼ満点を取れますよ。ただ、本来のIQを測定する試験をつくるのは、とても難しいですよ。そして、そういう難しい試験をつくったとしても、午前・午後、疲れているとき・疲れていないときで、成績は違うでしょうね。広い抽象空間でまんべんなく集中できる脳の状態をつくることができたとき、点数は上ります。しかし、点数が高いからといって天才ではありません。

音楽や絵画の世界では五感を分化させない時代

鎌田 IQが高くても天才ではない? 苫米地 天才は5年、10年に1度、すごいことをする人です。その日にIQテストを行えば、高い点数が出るかもしれませんが、その日に当たる確率は低いわけです。私はブラームスの音楽が好きですが、天才という点ではモーツァルトです。彼はどんな音楽の伝統にも属さない人で、「モーツァルトの前にモーツァルトなく、モーツァルトの後にモーツァルトなし」というぐらいの特別の人です。多分、宇宙の仕組みが見えた人で、音を光としてとらえ、音楽に表現したのだと思いますが、それが一生続いた珍しい大天才です。通常は、5年、10年に1回、そういう瞬間があれば、天才です(笑)。

鎌田 うーん、モーツァルトは光を音に表現したんですか……。
苫米地さんの本を読むと、匂いに音を感じる人もいるということですね。

苫米地 います。昔は1万人に1人と言われていましたが、最近では、1000人に1人、100人に1人ぐらいいるかもしれません。脳の発生から考えると、もともと全員共感覚のはずです。それが次第に五感が分化していくわけです。何らかの原因で五感の分化が遅れた人は共感覚が残って、光や匂いに音を感じるような人もいるわけです。
音楽の幼児教育では、わざと分化させないようにしているところがあります。分化が早まるのは2~3歳からで、5~6歳には終わりますから、幼児の間に、絶対音感を付けさせるために、音程教育に色を使うとかしていますね。良いか悪いかは別にして、教育の中で五感の分化を止めているわけです。音の周波数は細かく区別できませんが、光の周波数はコンピュータでも1670万色に分けられます。したがって、音を光の周波数に変えたほうが、音の精度は上がりますから、音楽家にとってはそのほうが有利なんです。

鎌田 小説家だって、文字で音や匂いを感じることができれば強いですよね。

苫米地 強いです。21世紀はそういう意味の情報表現が、ますます自由になるでしょう。そういう人はとてつもない間違いをするので、敵や猛獣に囲まれた原始時代には生き残れなかったと思います。しかし、現代はそういうリスクはないので、音楽や絵画などの世界では、あえて五感を分化させないほうが有利かもしれない。私たちの日常生活の中でも、そろそろそういう時代が始まっているのかもしれません。

情報空間の臨場感世界から引き戻すのが脱洗脳だが……

鎌田 さて、本日のポイントは、脳を味方につけて、がんに負けない生き方をしよう、ということですが、そこへ行くまでに、脳のお話を少しうかがいたいと思います。もともと苫米地さんの名前を知ったのは、例のオウム真理教事件のときの脱洗脳の一件からでした。まず、洗脳と脱洗脳についてうかがいたいと思います。

苫米地 無責任にやるのが洗脳で、責任感を持ってやるのが脱洗脳です(笑)。本質的な技術はほとんど変わりません。ただ、洗脳のほうがラクです。自分たちが思っている価値観に染めてしまえばいいわけですから。脱洗脳は自分の価値観のほうに導いたらダメなんです。たとえば、オウム信者を特定の仏教宗派、キリスト教宗派に改宗させることは、社会的にはそれでもいいのかもしれませんが、本質的には脱洗脳ではありません。20歳のとき入信した30歳のオウム信者には、20歳のときの価値観に戻してやるのではなく、30歳の価値観を持たせてやる必要があります。その場合、極力自分の価値観は入れず、世間並みの価値観を持たせるというのは、とても難しいことで、責任感が伴います。

鎌田 親が子どもを躾け、育てる場合、自分の価値観は絶対に入るからね(笑)。それで、脱洗脳を行う場合、ポイントは言葉ですか。

苫米地 いや、言葉はあまり使えません。同じ「山」を表す言葉でも、日本人、中国人、アメリカ人が思い浮かべる山は違いますし、「愛」を普遍的に定義することもできません。言葉は抽象度が低いのです。私は、言葉は五感とは異なる、第六感だと思っています。

鎌田 とすれば、脱洗脳は五感と第六感を働かす?

苫米地 全部使います。洗脳は広い意味の催眠現象です。情報空間の臨場感世界を物理世界と同じように感じてしまうのです。それは私たちが日常、小説、映画、テレビなどで体験していることですが、私たちは読み終わったり、見終わったりすると、すぐに現実の物理世界に戻ることができます。しかし、洗脳されると、仕掛けを仕掛けられているため、その情報空間の臨場感世界から戻れなくなってしまうのです。
それを解くためには、まず臨場感世界が何かを解明し、この世の物理世界に引き戻さなければなりません。しかし、私は私の人生を知っていますから、私自身の物理世界はわかりますが、相手の物理世界は私にはわからないのです。その難しさが1つあります。また、洗脳にはいくつかの仕掛けが掛けられていて、それによってすぐに元の洗脳状態に戻ってしまう。例えば、鏡で自分の顔を見ただけで戻るわけです。そうした仕掛けを探して、1個1個解きほぐしていくのです。

鎌田 そういう脱洗脳の作業をすると、もう臨場感世界に戻らなくなりますか。

苫米地 なります。渋谷で月給1000円で花を売っていたような人が、まったくただの人になり、テレビのバラエティ番組を見て過ごすようになります。私は宗教には寛容ですから、宗教に入って聖人的な生活を送っている人を、脱洗脳で物理世界に引き戻そうとは思いませんが、オウムの場合はテロリスト集団でしたから、脱洗脳を行い、普通の人に戻したわけです。



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