鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談
埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授・大西秀樹さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2008年9月
更新:2013年9月

  

がん患者さんの半数が薬の副作用よりうつ症状の苦しみに悩まされています
人間は治す力を持っている。それを最大限発揮できるようにすることが大事

大西秀樹さん

おおにし ひでき
1986年、横浜市立大学医学部卒業。横浜市立大学医学部講師、神奈川県立がんセンター精神科部長を経て、現在、埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授。がん患者と家族の精神的なケアを専門とする、国内でわずか数10人の精神腫瘍医の1人。家族ケアの一環として始めた全国初の「遺族外来」が話題を呼んでいる。著書に『がん患者の心を救う――精神腫瘍医の現場から』(河出書房新社)

鎌田實さん

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)

がん患者さんの半数近くが精神疾患に悩まされている

鎌田 大西さんのように、がん患者さんを専門に診ている精神腫瘍医は、日本に何人ぐらいいますか。

大西 数10人でしょうね。全員の顔がわかります。

鎌田 日本精神腫瘍学会というような学会はありますか。

大西 あります。日本サイコオンコロジー学会というのがあります。会員は800人を超えています。全員が医師というわけではありませんが……。

鎌田 その中で、がん患者さんを専門にしている先生は数10人ということですね。がん患者さん専門の精神腫瘍医は、どんなことをするのですか。

大西 一般的に、がん患者さんの約半数が精神科医に罹ると言われています。私たちの仕事は、ひと言で言えば、非常に苦しい思いをされるがん患者さんを援助するということです。

鎌田 へぇーっ、がん患者さんの半分が精神科医の診察を受けているのですか。

大西 1983年にアメリカで、215人のがん患者さんを診断したところ、47パーセントに精神疾患がみられたという、有名な論文が出ています。その状況は今も変わりません。治療中のがん患者さんの2割から4割が不安・うつ症状を呈しているようです。ですから、メンタルケアが重要なんです。精神疾患で苦しむがん患者さんは多いです。

鎌田 大西さんはもともと精神科医ですが、いつ頃からがん患者さんを専門に診る精神腫瘍医になったのですか。

大西 私は昭和61年に横浜市立大学医学部を卒業していますが、学位は遺伝子でした。その後、精神病院で働き、平成7年に遺伝子の研究を深めるために大学に戻りました。そのとき、がん患者さんを治療している後輩の医師から、「がん患者さんがつらそうだから診てほしい」と言われたのです。
がん患者さんの病室に行くと、本当につらそうで、苦しんでいらっしゃる。それで徐々にがん患者さんを診るようになり、がん患者さん専門の精神腫瘍医になったわけです。

鎌田 がん患者さんの中に苦しんでいる人が多いことは、がん患者さんを治療している内科医も外科医も、よく理解しておく必要がありますね。

大西 がん対策基本法ができ、がん患者さんのメンタルケアも十分行うように指導していますから、これからはそういう知識を持って治療していくことが求められます。私たちにはそれを広めていく責任があります。

がん患者さんすべてが抑うつ状態を体験する

写真:大西秀樹さん

鎌田 がん患者さんのご家族も、うつ的な傾向にあるらしいですね。

大西 そうなんです。がん患者さんの家族は、がんに罹った家族の皆さんが精神疾患になりがちなことを知っておく必要があります。がん患者さんの家族の3割がうつ病になる、という論文も発表されています。がん患者さんの家族が「第2の患者」になる可能性は少なくないのです。

鎌田 精神科医のキューブラー・ロスが『死ぬ瞬間』という著書の中で、助からないがんだとわかった瞬間、患者さんの心の変容が起きると書いていましたよね。まず、自分はがんではないと否認する。そして怒り、取引、抑うつと心が変容し、最後は受容するというわけですが、その5段階の変容の中にも、抑うつ状態があります。

大西 その抑うつ状態というのは、生理的な反応としての抑うつです。適応障害、うつ病とは別と考えたほうがいいと思います。うつ病と診断されていないがん患者さんの中にも、抑うつ状態を経て受容に至った人がたくさんいるわけです。

鎌田 適応障害とうつ病との違いは、どういうことになりますか。

大西 これはなかなか線引きが難しいところです。多くのがん患者さんは、がんを持ちながら、社会生活に戻って行かれますが、その途中で、不安や鬱々した気分から、今までのような活動ができない状態に陥ることがあります。それが適応障害です。その状態がもっと深まり、なおかつ食欲不振、不眠、全身倦怠感といった身体症状が現れ、やがて「死にたい」と洩らすようになる。それがうつ病の症状です。

鎌田 キューブラー・ロスが書いた抑うつ状態というのは、多くのがん患者さんが1度は通過する過程なんですね。

大西 すべてのがん患者さんがそこを通ると思います。医療が進歩しても、がんと言われることはすごいショックですし、死を意識しますから、皆さん、抑うつ状態に陥るのです。これは正常な反応です。

鎌田 その上に病気としてのうつ病になる患者さんが、かなりいらっしゃるということですか。

大西 そういうことです。うつ病になったがん患者さんは苦しまれます。

鎌田 うつ病を乗り越えて、がんを受容できた人は、もう精神腫瘍医は要りませんか。

大西 難しいところですが、1回でも精神腫瘍医に会っておくと、気分的にラクだと思います。

鎌田 会っておけば、うつ病を早く乗り越えられる?

大西 いえ、そうはならないと思いますが、そういう支援者がいることを知っておくことは、気持ちの上でラクになると思います。ただ、精神腫瘍医は数が少ないですね。

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