鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談
北里大学医学部外科学教授・渡邊昌彦 VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:向井 渉
発行:2008年4月
更新:2019年7月

  

明るく前向きの人ががんを克服し長生きをします
大腸がんは転移しても、ステージ4でも決してあきらめる必要はありません

渡邊昌彦さん

わたなべ まさひこ
1979年慶応義塾大学医学部卒業。慶応義塾大学病院、国立がん研究センター研究所、東京電力病院、米国ワシントン州立大学を経て、1992年慶応義塾大学医学部助手、2000年同講師。2003年北里大学医学部外科教授。2007年北里研究所付属病院内視鏡手術センター長併任。大腸疾患とくに大腸がんの診断・治療を専門とし、内視鏡外科手術手技は国際的に高い評価を得ている。患者さんにやさしい外科治療を念頭に、治療の第一線で活躍すると同時に、次世代の育成にも精力的に取り組んでいる

鎌田實さん

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)

大腸がんが増えたのは食事の欧米化が一因?

鎌田 最近は大腸がんになる人が増えています。2003年には女性のがんで大腸がんが1位になりました。その後男性も増えて、近々男女合わせて大腸がんが1位の時代が来るようです。大腸がんが増えているのはなぜですか。

渡邊 よくわかりません。1つには食生活が変わってきたことがあると思います。昔はエネルギー摂取をでんぷんに頼っていましたが、戦後は脂肪食に頼るようになりました。それが1つの遠因だろうと思います。食べ物の何が大腸がんに結びつくのか、特定することは難しいのが現状です。ただ食べ物が欧米化したことが原因の1つであることは、あながち間違ってはいないと思います。

鎌田 以前、食事が欧米化したことによって、植物性繊維の摂取が減ったことが、大腸がんの原因になっている、と言われました。しかし、最近は、ポリープのある人が小麦ふすまのビスケットを食べていると、ポリープの腺腫ががん化する率が強まるという研究データも出ています。繊維質を摂っていれば大腸がんの予防ができる、というエビデンス(科学的根拠)は、なさそうだという考え方になってきています。ただ、自然な食事の中で繊維質を摂るのは必要なんでしょうね。

渡邊 バランスの取れた食事をする中で、繊維を十分摂ることは大事だと思います。

鎌田 自然な形で繊維を多く摂り、脂肪を減らすことは大事ですね。

渡邊 もちろんです。もし便の中に化学的に発がんさせるようなものがあったとしたら、便通をよくして、それに曝露される時間を短くしたほうがいい。また、乳製品によって腸内細菌叢(腸内フローラ)を安定させておくことも重要だと思います。

症状が現れにくい右側の大腸がん

鎌田 大腸がんを早期発見するためには、どんな症状に気をつければいいのでしょう。

渡邊 大腸は右の大腸、左の大腸に大きく分けられます。左の大腸は肛門に近く、便が堅くなった状態で、右の大腸は肛門から遠く、まだ便も流動物の状態です。肛門に近い左の大腸にがんができると、便が通るとき、そこがこすれて脆弱な組織が崩れ下血がみられます。がんがもう少し大きくなると、便秘気味になります。便秘と下痢を繰り返す便通異常になったり、排便習慣が変わったようなときには注意が必要です。
また、肛門近くにがんができて腸が狭くなると、便が細くなったり、細切れになったりします。要するに、肛門に近い左側の腸で起きる異常は、ある程度目に見える形で出てきますから、自覚症状が出やすいといえます。
問題は右側の腸です。これは目に見える形で症状が出てきません。腸が鉛筆が通らないぐらいに細くなっていても、右側の大腸を通るときは便はまだ水のような流動物ですから、通ってしまうわけです。

鎌田 大腸の真ん中より肛門寄りの下行結腸、直腸に関して言えば、便通の異常が起きたときには要注意で、肛門よりずっと離れた上行結腸などでがんが起きているときには、症状が出ないことが多い。ということは、症状がないときも疑わなくてはいけない、ということですか。

渡邊 そうですね。

便潜血検査で陽性なら必ず精密検査を受ける

写真:小社主催の「大腸がん市民フォーラム」
写真:講演を行った渡邊さん

2007年12月9日小社主催の「大腸がん市民フォーラム」で渡邊さんは「大腸がんの治療最前線」と題して講演を行った

鎌田 症状がある人は、今すぐ検診を受ける必要がある。症状のない人は、どれくらいの間隔で検診を受ければいいのですか。

渡邊 年1回、市町村で40歳以上の人を対象に便潜血の検査が行われています。この便潜血の検査は、もっとも簡便で科学的な根拠のある検査です。ただ、便潜血検査によるがんの発見率は100パーセントではありません。ですから、40歳、遅くとも50歳を過ぎたら、毎年便潜血の検査を受けながら、数年に1度、大腸検査をすることですね。

鎌田 せっかく大腸がん検診を受け、しかも便潜血反応が陽性だったのに、そのあと大腸ファイバーとか注腸造影の検査を受けない人が結構いますね。

渡邊 そういう例は多いです。がん検診に非常に力を入れている宮城県の報告の中に、便潜血検査で要精検という結果が出たのに検査に行かなかった人と、ちゃんと検査に行った人との間に、生存率で差が出ていました。ちゃんと検査に行った人のほうが、明らかに生存率がよかったという結果でしたね。

鎌田 そうですか。やはり検診を受けて、陽性だったら、びくびくせずに精密検査を受けることが大事ですね。精密検査をして早期発見すれば、開腹手術をせずに、内視鏡で治せるようになっていますからね。もう1つ、内科外来ではCEA(がん胎児性抗原)など腫瘍マーカー検査が行われます。先年、別の種類の腫瘍マーカーで天皇陛下の前立腺がんが発見されたことで、腫瘍マーカーが注目されるようになりましたが、大腸がんの場合、どうですか。

渡邊 大腸がんの場合、検診に使える腫瘍マーカーはないと考えたほうがいいと思います。いま、前立腺がんのPSA(前立腺特異抗原)が検診に使えるかどうかという議論が行われていますが、あれだけ鋭敏なものでもまだその程度です。大腸がんの場合、CA19-9という腫瘍マーカーもよく知られていますが、検診に使えるものではありません。

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