鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

生きてる限りこのファッションスタイルを貫きたい 福祉美容師・篠田久男 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2013年5月
更新:2018年8月

  

「篠田さんが元気になったら、1度、ボクの髪の毛をやってよ」の約束が果たせて

2年半前の本誌2010年10月号で、この対談に登場いただいた福祉美容師の篠田久男さん。悪性リンパ腫と闘う姿、苦労を積み重ねてきた人生に、ホストの鎌田さんが涙し、最後は感動的なハグで終わったことを憶えている読者もおられるだろう。そのとき2人が約束した、鎌田さんの髪のカットが実現した。シャキ、シャキという篠田さんのハサミの音とともに始まった2度目の対談は、親しい間柄の美容師と客の「床屋談義」のように、時間の経つのも忘れて流れていった。

 

篠田さんと鎌田さん

「前回の対談で『いつか篠田さんが元気になったらボクの髪をやってよ』って言ったら篠田さん、とても嬉しそうな顔したんだよ。憶えてる?」と話す鎌田さんに「もちろん憶えています」と返す篠田さん
しのだ ひさお
1955年、神奈川県生まれ。中学を卒業後、靴店に就職。その後、美容師の資格を取り、3つの店を持つカリスマ美容師となる。1992年、介護訪問美容師としての活動に対し、社会福祉法人全国心身障害児福祉財団より感謝状を授与される。2008年、静脈瘤の手術後、悪性リンパ腫と診断され、がん闘病生活に入る。抗がん薬治療を受け、退院後、店を閉じ、正式に福祉美容師として各施設を回っている。著書に『余命1日まで』(文芸社)
かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

2年半前の対談でした、男の約束を果たそう

鎌田 篠田さんとは2010年10月号で対談しましたよね。悪性リンパ腫のステージⅣ、リンパ腺が腫れ、尿管も詰まって、両側に尿管ステントが入っている。医者の立場から正直言うと、なかなか大変だなぁと思った。だから今回、私が主宰しているJIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)の事務所に恐る恐る電話して、「篠田さん、連絡ある?」って訊いたんです。すると、「時々、応援してくれてます!」と言うから、失礼な話だけど、「あっ、まだ生きてるんだ!」と(笑)。

篠田 そうなんですか。先生の中では、いつの間にか、ボクは死んでたんですか(笑)。

鎌田 いや、ホント、生きているとは思わなかった!

篠田 ボク自身でさえ、そう思ってました(笑)。

鎌田 やっぱり、そう思った?

篠田 前回対談させていただいたとき、80パーセントは厳しいだろうと思っていました。でも心の隅には病に負けたくないという気持ちも強くありました。

鎌田 いや、それで、篠田さんが元気でいると聞いて、とても嬉しくなってね。この雑誌の私の対談で、2回登場してもらった人は、まだいないわけだけど、篠田さんの元気な姿は読者を勇気づけると思って、またお願いしたわけです。

篠田 ありがとうございます。

鎌田 前回の対談の最後のほうで、私が軽いジョークのつもりで、「いつか篠田さんが元気になったら、1度、髪の毛をやってよ」と言ったら、篠田さん、とても嬉しそうな顔をしたんだよ。憶えてる?

篠田 もちろん憶えてます。それもボクの目標の1つでもありました。

鎌田 それで約束を違えてはいけないなと思って、きょうは髪の毛をやってもらいながらの対談にしたんです。

篠田 ありがとうございます。先生の髪をやらせていただけるなんて、光栄です。ふだんは行きつけの有名な理容師のところで?

鎌田 いや、私はもう20年以上、床屋さんに行ったことがないんですよ。いつもウチの奥さんにやってもらっている。忙しくしていて時間がないから、床屋さんとか美容室に行く暇がないんですよ。多分、25年ぶりぐらいだね。しかもカリスマ美容師に(笑)。

篠田 いや、ボクはカリスマじゃないですよ。ボクがカリスマだったら、ボクの友人たちは全員カリスマですよ(笑)。ボクなど、毎日、レッスン、レッスンです。またボクの心や技術など不足している所を探し出して補うためのスキルアップもできることなので楽しいですし、やりがいもありますね。

尿管ステントをはずし痛み、血尿から解放

鎌田 きょうは思い切って茶髪で、モヒカンにしてもらう覚悟なんだけど(笑)。

篠田 最近、日本テレビの「スッキリ」の司会をされている、極楽とんぼの加藤浩次さんの斬新な髪型が話題になっていますが、彼の髪は6ミリで刈り上げていると思います。先生の場合、9ミリがナチュラルでいいんじゃないでしょうか。

鎌田 それでモヒカンになる?

篠田 モヒカンっぽくします。先生の髪の毛はソフトですから、9ミリで大丈夫です。

鎌田 カッコよかったら、中高年のおじさんがモヒカンをやり出すかもね(笑)。

篠田 いや、先生だからできるんですよ。

鎌田 私は髪を短めにしたとき、後ろは坊っちゃん刈りふうに、少し長めにするんです。奥さんや娘には評判は良くないですね。「僕が死んだとき、後ろ髪を引っ張ってくれれば、生き返るかも知れない」って言うんだけど、「切ったほうがいい」と言われる(笑)。しかし、友人の画家の原田泰治さんなどは、「後ろを伸ばしたほうがカッコイイ」って言ってくれますよ。私はその間に入ってオロオロしながら、個人的にはそっと楽しんでいるという感じですね。

鎌田 前回の対談の頃は、80%はダメだろうと感じていたということですが、治るというイメージがなかった?

篠田 治るとは全然思わなかったですね。

鎌田 それが今は、とても元気そうに見える。

篠田 尿管ステントが抜けたことが大きいですね。ステントが取れて、小便が出たときは、「やったぁ!」と思いました。それによって、痛み、血尿から解放されました。1年ちょっと前のことです。ボクにとっては大きな一歩。前進できた気持ちになりました。

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