鎌田 實の「がんばらない&あきらめない」特別トーク

他人のために生き、日々感動することで生きる力が湧いてくるのです がんサポート編集発行人・深見輝明 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2013年7月
更新:2018年8月

  

志なかばでがんに倒れた深見編集長への私の想いとがん患者さんへのメッセージ

「がんサポート」の編集発行人であった深見輝明が、創刊10周年を目前にしながら、盲腸がんで急逝してからちょうど3カ月が経った日、故人から生前、〝遺言〟とも言うべき宿題を与えられていた鎌田實さんが、故人を偲んで、特別トークに応じてくれた。故人から日本のがん治療の目指すべき方向を聞き、とくに、がんと闘いながらも楽しく豊かに生きる「エンジョイヤー」支援活動への協力を託された鎌田さんは、「エンジョイヤー」は「がんばらない&あきらめない」と共鳴すると、決意を新たにしていた――。

 

鎌田 實さん

鎌田 實 かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

がんに倒れた編集長が私に残してくれた宿題

「がんサポート」の編集長であり、経営者であった深見輝明さんが亡くなったのが、2月16日でしたから、今日でちょうど3カ月になります。私は、深見さんから「どうしても話しておきたいことがある」と言われ、深見さんが亡くなる10日前に、エビデンス社に出向いて対談しました。その対談は「がんサポート」2013年4月号に掲載されました。

実は、深見さんが1月に盲腸がんでがん研有明病院に入院した直後に、会って話したいと言われたんです。そのときは深見さんが抗がん薬治療に入った直後に、脳梗塞を併発し、済生会中央病院へ転院したため、いったん、対談が流れてしまったという経緯がありました。

しかし、深見さんは奇跡的に短期間で脳梗塞から回復し、2月6日に私との対談が実現したのでした。深見さんはまだ脳梗塞による失語症が残り、言いたいことの7割ぐらいしか話せない状態でした。加えて、盲腸がんの発見が遅れたために、がんが肝臓、肺、骨などに転移し、苦しみの中での対談でしたが、深見さんはもどかしい思いをしながらも、ご自身のがんに関わる話を一生懸命語りました。

そして、対談の後半に、がん治療に関わる人たちへのメッセージを、私への宿題という形で熱っぽく語ったのです。それは、2013年11月号で、創刊10周年を迎える「がんサポート」が、これからの10年で取り組むべき目標でもありました。それが図らずも深見さんの遺言となってしまいました。

深見さんは、がん治療の目指すべき方向として、4つのポイントを挙げました。

第1のポイントは、がん治療と緩和医療の併用です。この場合の緩和医療は、現在ホスピスで行われている狭い意味の痛みのコントロールではなく、4つの痛みを緩和することです。

体の痛みはもちろんですが、心の痛みも、スピリチュアルな痛みも、失業などの社会的な痛みも、すべてを含めた緩和医療です。

私は、これは大変すぐれた視点だと思います。この10年で、日本のがん治療はものすごいスピードで進歩してきました。ただ、手術における合併症や、抗がん薬治療や放射線治療による副作用を防ぐことや、がん患者さんの心を支えるといったことは、まだ決して十分とはいえない。そのことを深見さんも感じていたと思います。

その深見さんが、抗がん薬治療を始めたとたんに、副作用の脳梗塞を発症し、ジャーナリストとして致命的だと苦悩した。そういう意味では、がん治療には体の痛み、心の痛み、社会的な痛み、霊的な痛みをトータルにやわらげる緩和医療の併用が不可欠だということを、深見さんは身をもって体験し、第1の願いとして主張したわけです。

がん患者会を連合体にしてメッセージ力を高めたい

病をおして対談に臨んだ深見編集長とその思いの丈を聞く鎌田さん(2013年2月6日弊社応接室にて)

第2のポイントは、がん拠点病院の充実です。近年、がん治療の中核病院である拠点病院が充実してきていることは事実ですが、全国の拠点病院の実態を把握している深見さんは、その内実に随分差があることを見抜いていました。

例えば、一応緩和医療チームが組織されていても、患者さんの体の痛みや心の痛みに有機的に対応できていない拠点病院がある。また、化学療法の専門医がいなかったり、婦人科がんや骨肉腫など特定の疾患の治療ができない拠点病院もある。

さらに、社会的な痛みの相談を受けるケースワーカーはいても、十分な役割を果たせていないとか、がんに特化した精神腫瘍科医のような医師がいないとか、がん拠点病院はまだまだ強化・充実する余地がたくさんあることを、深見さんは気づいていたのです。

第3のポイントは、がん治療のスローガンは「早期発見・早期治療」だけでなく、遅れてがんが見つかった人に対しても、適正な治療を行う、「遅期発見・適正治療」を確立すること。がん患者さんの中には、何らかの理由でがんの発見が遅れてしまう人が出てきます。そういう末期がんの患者さんでも、決して見捨てず、適正な治療をしてほしいということです。

まさに深見さんは、盲腸がんという特殊ながんだったために、「遅期発見」となってしまった。がん専門病院で、顔なじみの先生たちから、治療を受ける予定になっていたようですが、残念ながら、本格的な治療を受ける前に亡くなってしまったわけです。「遅期発見・適正治療」のメッセージには、深見さんの最後の心の叫びが込められているような気がします。

第4のポイントは、がん患者さんに対する支援活動の拡充です。がん患者さんに対する支援活動は、乳がんの患者会のように充実した組織もありますが、多くはがんの種類ごとに、病院単位や地域単位でできた小さなグループが、やっと組織を維持しているという例が少なくありません。

深見さんはそれを統合し、組織力をパワーアップして、政治に対して患者の立場に立ったがん治療のあるべき姿をアピールするとか、社会へのメッセージ力を高めるといったことを構想していた。さまざまながん患者会の緩やかな連合体を、「がんサポート」を結節点として新たにつくろうとしていたわけです。

これは、がん患者さんのためにをモットーに、「がんサポート」を10年続けてきた深見さんの強い思いだったはずです。

「がんサポート」は今まで以上にがん患者会の情報を取り上げ、読者の皆さん、さまざまながん患者会のスタッフの人たちの協力を得ながら、患者会同士の有機的な関係づくりに努めるべきだと思います。

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