「がんばらない」の医師 鎌田實とがん患者のこころの往復書簡 金子淑江さん編 第2回

発行:2005年9月
更新:2013年9月

  

ここで死ぬ訳にはいかない。娘の成長をまだまだ見守っていきたいのです。

金子淑江さん

かねこ よしえ
広島県在住。48歳。2女の母。2001年に卵巣がんの診断を受け手術。術後化学療法後の02年再発。再手術を受け術後化学療法を受ける。04年肝転移の診断を受け、現在も抗がん剤にて治療を受けている

がん患者・金子淑江さんから 医療者・鎌田實さんへの書簡

先生、鎌田先生。

私に少しでも有利な情報を、というお気持ちで、ずいぶんと卵巣がんの治療について調べてくださったのですね。ありがとうございます。

私の「がん」の細胞組織は先生の推察されたように、大変ポピュラーな漿液性線がんです。

1年後の再発がどういう意味を持っているか、充分承知しています。だから、再発が判ったときは、初発以上にショックでした。これで、5年生存はかなり厳しいという思いで、全身から血の気が引いたのを覚えています。

5月はやはり、ポイントになる時期でした。連休中に腹水が溜まり始めました。このことが持つ意味も、私にはよく解っています。

私のような病状の進行状態で、この時期腹水が溜まってきて、復活した人を私は知りません。少なくとも、私が今まで身を置いてきた既存の治療をしている病院では……。

先生、化学療法は診療科を超えて行われるべきだと思いませんか?

これまで、日本の化学療法は診療科毎に行ってきました。腫瘍内科医を育ててこなかったことにも原因はありますが、それぞれの診療科が化学療法をしてきたことで、臓器別の抗がん剤承認といういびつな形態になってしまったということはないでしょうか。

がんの治療は診療科での手術、腫瘍内科での化学療法という、スッキリとした形に確立して欲しいと望みます。

先生、私の下の娘はまだ小学生です。上の娘にしたところで、今春、看護学校に行き始めたばかりです。

ここで、死ぬ訳にはいかない。私はまだ、死ねないのです。

恵まれていることに私のような人間を、まだ生きなさいと周囲で応援してくださる方がいます。また患者の元に届きにくいような情報が、方々から入ってきます。

その中に、未承認薬を使った治療という選択肢がありました。

トライアルな治療でもやってみる価値はある

私の主治医は、婦人科医です。現在、がんセンターではドキシル(一般名リポソーマルドキソルビシン)の治験も行っています。しかし、治験は条件を同じにしなくては、意味がありませんので、私は適用からはずれてしまいます。

今の病院で、ドキシルでの治療は望めないのです。もちろん、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)も保健適用でないので、使うことはできません。そんなとき、ドキシルとジェムザールを使った治療をしてくれるという、腫瘍内科医をある人を介して知りました。この出会いが奇跡をもたらしてくれるかもしれません。

彼が示した治療は、

 (1)ドキシル+ジェムザール
 (2)アバスチン(一般名ベバシズマブ)+ドキシル
 (3)ジェムザール+アバスチン

の3種類です。お勧めは (1)ですが、かなり骨髄抑制の強いコンビネーションということです。ASCO(米国臨床腫瘍学会)に今年発表された、ガンビーノのレポートによれば、40パーセントの奏効率となっています。これは、すごい数値ですが、臨床試験に参加した患者は、無症状で社会活動ができる状態ということなので、私の全身状態よりは、はるかにいいと言えます。

今の私のような状況で、どのような効果と副作用があるかは、正直な話やってみないと分からないと思います。

腫瘍内科医の先生は、この治療に関するあらゆる情報を提示してくれました。決定するのは私ですが、判断する材料は多いにこしたことはありません。

まだ、第2相試験で、トライアルな治療といえるでしょう。でも、やってみる価値はあると思うのです。

このまま、婦人科の枠を出ることなく、治療を続けていても、結果は見えています。

絶対ではありませんが、これまで私が見てきた多くの仲間たちが辿った道を、そのまま辿る可能性は充分だからです。先生も、ドキシルとジェムザールでの治療には、関心と期待を持っていらっしゃるということでした。その言葉に、また勇気付けられた思いです。

私にも自分の生きる意味が欲しい

先生は経済的な面でも心配してくださっていましたね。本当にそうです。再発がんを闘う患者は、働くことができなくて収入がない上に、命を繋いでいくためには治療を続けなくてはいけません。そのためには、お金が必要です。

本来なら私など、とうに治療を諦めていてもおかしくありません。ましてや、未承認薬となれば自費負担ですから、さらに必要な金額は多くなります。ところが本当に有難いことに、こんな私を支援してくださる方がいるのです。どれほど感謝しているか知れません。

そんな方々に助けられ、私は新たな世界に踏み出そうとしています。

これから私が受ける治療は、既存の治療のその先です。私は、婦人科を離れることで、治療の可能性が広がるのか、それを検証したいと思っています。

今、再発卵巣がんで治療薬のリストがなくなっている人に、もうひとつの選択肢として私の試みが、希望になれば……。再発卵巣がんを闘うひとつのモデルになれば……。おこがましいのは分かっています。

でも、私にも自分の生きる意味が欲しい。

私が生きてきたことが、卵巣がんになったことも含めて、誰かの何かの役に立つなら、私がこの世に生を受けたことに、そして、卵巣がんという病に出合ったことに、意味があると思えるから。

私はつくづく周囲の方に恵まれていると思えます

治療の準備は着々と進んでいます。抗がん剤を投与するための、ポートを埋め込み、骨髄抑制のために、4.9まで落ち込んだヘモグロビンを輸血で治療し、白血球はG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の注射で上げて血液状態を治療可能なまでに回復させました。

今回からの治療の後方支援も今まで同様、家から近い、初発のときお世話になった総合病院にお願いしました。N先生は初発のときの主治医ではありませんが、再発で転院した専門病院で出会った先生で、そのときも主治医ではありませんでした。

でも、いつも穏やかな物腰で、担当患者でない私にも、よく声を掛けてくれる先生でした。縁とは不思議なものですね。

この病院なら、入院していてもこどもたちが来てくれます。こどもの顔を見ることは、私にとって何よりの免疫療法なのです。

N先生は、未承認薬での治療を決意した私の気持ちに理解を示し、婦人科を離れて治療することも承知の上で、後方支援を快く引き受けてくださいました。治療のための準備がスムーズに運んだのも、ポート埋め込みの外科依頼や、血液管理を治療のスケジュールに照準を合わせて行ってくれたおかげです。

こう考えると、私はつくづく周囲の方に恵まれているなあと思えます。

ベッドに寝ていても、携帯メールに私を気に掛けてくださる方たちの、励ましや応援、さらに治療方法の情報などが、入ってきます。有難いことだと思います。

また、N先生や、がんセンターの私の主治医や担当レジデント、それに今回出会った腫瘍内科のI先生、そして鎌田先生。私にとって、力強い協力者です。

鎌田先生が、とても良い関係と言ってくださったように、これまで私の治療に携わってくれたレジデントは、本当に私の支えでした。1年間という長い期間、海を越えて治療に通えたのは、彼の存在が大きかったと思います。

勿論、主治医の患者に対する姿勢が、彼をそういう医療者に育てたのでしょう。

今、新たな場面を迎え、新しい治療体制を作っていく中で、彼が直接いないことに寂しさを感じています。

でも、まずはドキシルとジェムザールでの治療に向かいましょう。

そして、時計の針を逆回転させましょう。こどもたちと、少しでも長く時間を共有するためにも。また、人生の沢山の楽しみを経験するためにも。

娘の成長をまだまだ見守っていきたい

つい先日、上の娘の成人式の写真撮影の前撮りをしました。いつもはノーメイクでジーンズにTシャツというしゃれっ気なしの娘が、きれいにメイクしてもらい、髪をアップに結い、3月に一緒に選んだ振袖を着た姿には、感慨深いものがありました。

ここまで大きくなってくれたことに、ただ感謝するとともに、こんなにも美しく、いい子に育ってくれた娘の成長を、まだまだ見守っていきたい。下の娘の着物姿も、どうしても見てみたい。強く願わずにはいられませんでした。

先生もご存知のように、夏には『チャーリーとチョコレート工場』が公開されます。

ジョニーの映画ですから、なんとしても観なくてはいけません。

あの映画で共演する少年は、今年のアカデミー賞にノミネートされた『ネバーランド』で、ピーター役を演じたフレディ・ハイモアです。彼はジョニーに請われて、また共演が実現したのだと聞いています。確かにフレディ・ハイモアが画面に出るだけで、私の涙腺は緩みっぱなしでした。

あの、演技派のジョニーをうならせた少年ですから、『チャーリーとチョコレート工場』は今から楽しみです。監督もジョニーとは相性の良い名匠ティム・バートンということで、先生ぜひ観に行ってくださいね。

そして、また、お手紙で感想を話し合いましょう。私はまだまだ、人生を楽しみたい、欲張りな「がん患者」ですから。

金子淑江

鎌田實様

  

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