「がんばらない」の医師 鎌田實とがん患者の心の往復書簡 松村尚美さん編 第5回

発行:2004年8月
更新:2013年9月

  

人は完治しなくても、精一杯生きようとします

松村尚美さん

まつむら なおみ
千葉県在住。50歳。1男1女の母。98年乳がん3期との診断を受ける2000年右鎖骨上のリンパ節に再発
現在抗がん剤治療を受けている乳がん患者会「イデアフォー」の世話人の1人でもある

がん患者・松村尚美さんから 医療者・鎌田實さんへの書簡

ガラス越しにゆれる葉の上に光が踊っています。新緑の季節を迎えて鮮やかに葉も花も輝いています。ちょうど1年前、『再発後を生きる』(三省堂出版)の本の執筆者の一人として同じ景色のなか原稿に向かっていました。

1年が過ぎました。仕事をして家事をしてと変わりのない生活を送っていますが、病気は進行しました。平成4年1月以来その進行の速度を速め、左乳房に巣くっていたがんは大きくなり皮膚を破って、絶え間なく滲出液と血液が流れ出ています。その乳房の傷と、左脇の下リンパ節転移の痛みはオキシコンチン(30ミリグラム)、ロキソニン(18ミリグラム)、就寝時にボルタレンサボ(25ミリグラム)でしのいでいます。

2~3時間おきに取り替える傷の当て布の臭いと、その行為、とりきれていない痛みに精神的に追い詰つめられていきます。シャワーをあびる際に、浴室の床を染める血の赤い色に不安になります。

これからどうなっていくのでしょう。

あるがままの人生を歩いています

「何がそんなに楽しいの」って会社で声をかけられます。

私はいつも笑っているようです。笑顔が印象に残るそうです。今でも、今でさえ。

なぜなのかと言えば、『再発後を生きる』の執筆者の一人、酒井さんのひと言に心を救われたこと。

「いい人生だった?」
明るい澄んだ声で電話の向こうから聞かれました。

ご自身大変な苦痛のさなかにいらっしゃるときでした。その声の邪気のなさに同じように明るく答えていました。

「素敵な人生です」

落ち込んでも明るく生きても、結果は同じですもの、と酒井さんはこの本に書かれています。

あるボランティアグループの世話人をしていること。

体調に不安がありますから、十分な活動はできません。むしろ迷惑をかけていると思います。この会に再発者の視点が加わればと願っています。病気、個人的な生活、社会的な活動で不都合な部分を客観的に見直す作業をすることで気持ちを立て直しています。

すばらしい仲間達ですが、厳しい存在でもあります。きっと問題にしたことは彼女達に受け継がれていくでしょう。高額な医療費のこと、緩和医療のこと、がん患者を抱えた家族のケア。

仕事をしていること。

生活を豊かにするために、あるいは誰かの夢を実現するための仕事です。楽しいです。ほとんど病気のことは忘れています。
食欲がないことも多いのですが、友人との昼食のひとときは楽しく過ごしています。若い人の旺盛な食欲につられて食べたり、彼女達の悩みを聞くのもみんな一生懸命生きているんだなって思います。

仕事ができる体力がまだあること、働きの場が与えられていることに感謝しています。

友人のこと。

私よりもっと私の病状を心配してくれる友人のメールが携帯に飛び込んできます。

心配させて申し訳ないって思います。元気だよって答えるしかないのだけど、「一人称の死は堪えられても二人称の死は堪えられない」という、言葉は重く受け止めています。つながりが深まれば深まるだけ、大切に時を重ねていきたいと思っています。

私の後に悲しみだけが残らないようにと願っています。

主治医のこと。

先日初めて出合った痛みと病状に強いストレスを感じていたとき、私はそのストレスを感じていることすら気付きませんでした。

「入院する?」と軽く言ってきます。「いつからですか」「いつでも、今日からでもいいよ」

1週間の入院でした。その間に身体の疲れと、不安を和らげることができたようです。

家や仕事から離れ別の世界、病院にいることで気持ちが落ち着きました。

診察室での会話はいつも楽しく、笑い声でいっぱいです。

往復書簡のこと。

いつも思っていることをとりとめもなく書き連ねています。書くことで気持ちを整理しています。この往復書簡を読んだ友人が「あなたはいいがん人生を送っているよ」と言ってくれました。娘は「鎌田先生もがんばらないっておっしゃってるよ」と何かにつけて言っています。

今の私を支えていることに、幸せなことにまだまだ気付いていないことがたくさんありそうです。

ある日、私はどうしてこんなに笑っているのだろうと思ったのです。

改めて周りに聞いてみると、同じこと、私がいつも笑っているらしいことを言います。再発をしたときに、願ったようにあるがままの私の人生を歩いているようです。

再発は想像するのと実際は異なっている

再発を不安に思っている方へお願いがあります。

再発をしたらと想像することと、実際に再発するのとは異なっています。

人それぞれ違いますので、こうだと断定できませんが、再発すると人生が終わってしまうわけではありません。

人はやはり完治できなくとも精一杯生きていこうとします。支えられるばかりの生活ではなく支えることもできるのです。
身体が思うように動かなくなっても自分の心を動かすことができます。

思うことで誰かの役にも立てるでしょう。

不安に思うことはやめて生きていきましょう。楽しい、心豊かな人生を生きましょう。

初夏を思わせる1日が暮れようとしています。暑さに疲れましたが、今日も1日美しい日でした。

ではまた

松村尚美

鎌田實様

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