患者さん側から医療者に思いや気持ちを教えてほしい

文:田中祐次 東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手
NPO血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
イラスト:杉本健吾
発行:2008年5月
更新:2013年4月

  
ももイラスト

たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている

患者さんや家族の方の持つ情報、「知」がいかに素晴らしいものであるのか、前回に書かせていただきました。それは、病気に真剣に向き合っているからこそ出てくる思い、気持ちだからだと思うのです。そんな思いをもっともっと医療に生かしていければいいのに、と思っています。

なぜならば、それがこれからの医療を良くしていくからです。思いを大切にすれば、医療者は患者さんや家族の方に対して「気づき」があると思います。その気づきがあれば医療者から患者さんや家族の方へ今の医療に加えて新しいケアができるようになる。

そして、患者さんや家族の方はよい医療を受けることができ、その環境のなかで、医療者も気持ちよく働くことができ、十分に実力を発揮できる。こういったよい循環が始まると思うのです。

患者会の素晴らしさは「自立」

とはいえ、医療現場において(医療現場だけではないのですが)人の気持ちはたやすくは伝わらないのも事実です。では、どうしたらいいのか。

1つには、いままで書いてきたように“場”を作ることです。その場で1人ひとりの触れ合いが生まれ、気持ちが伝わり始める、そう思うのです。

場を作る、とは、患者会です。患者会の素晴らしさは「自立」だと思っています。患者会とは多くが任意団体です。中央に何か患者会をコントロールする団体やシステムがあるのではなく、たぶん、数名の方が、「こういうことしたいね」から集まったのがはじめではないでしょうか? これが「自立」につながっています。

多くの会が資金難に苦しんでおり、参加者が自腹をはたいていることが多いでしょう。でも、自分たちの思いを実現するためにはやはり「自立」が大切だと思います。

そして、各地でそれぞれの思いを具現化するために集まりができ上がってきました。

多くの会が求めてきたのは情報のインプットでした。以前は、医療情報があまり世の中に出回っていなかったので一生懸命集め、みんなでシェア(共有)しました。

今は、インターネットなどの発達とカルテ開示なども含めて社会情勢の変化から情報があふれているために、どの情報が信頼できるのか求めています。でも僕は、患者会にはそれ以上のことがあると思っています、それは、患者さん同士、家族の方同士が、お互いに「知」をインプットとアウトプットをしていると思われるからです。

医療者と患者さんが1対1で触れ合える“場”が大切

患者会と医療界とのかかわりも同様に、患者会の情報のインプットだけではなく、患者会と医療界でお互いにインプットとアウトプットが必要だと思うのです。患者さんや家族の方、そして医療者が患者会(というか、患者さんや家族の方個人)から貴重な情報や知が得られるのだ、ということを知るべきだと思います。

患者さんや家族の方からの情報や知は、とてもローカルな内容が多いと思います。全国共通の、という最大公約数はわずかでしょう。だって、患者さんや家族の方は個々違うからであり、実はその違いがとても大切なのです。100人の声を集めるのではなく、1人ひとりの声を大切にし、それが100集まった、とすべきです。

だからこそ、医療者と患者さんが1対1で触れ合える機会を増やしたいと思いました。患者会にもっともっと医療者が入ってきてほしいですね。

僕が進めている院内患者会は院内にこだわっています。それは、医療者に入ってきてほしい、という思いがあるからなのです。

学会に参加して思いを反映させてほしい

イラスト

さて、もう1つの場として考えたのが、学会です。学会とは研究者が集まり学問を作っていく場なのに、そこに患者さんが入らなければいけないのか、と思わないでくださいね。

患者さんはもともと研究者でない方が多いと思います。でも、患者さんだからこそ、家族だからこそ学会を支えてほしいのです。そうすることで、学問のなかに患者さんや家族の方の思い、気持ちが反映されてくると思います。 院内患者会は医療現場で患者さんや家族の方の思い、気持ちを反映させるための場、そして、学問のなかに反映させるための場が学会です。

いろいろな人に相談したところ、チャンスがめぐってきました。それは、今年の10月に開催される日本血液学会総会です。場所は京都国際会議場です。そこで、「患者学」のセッションを企画させていただけることになりました(企画を進めてます)。

今までは市民講座という形で患者さんや患者家族の方の参加できる場がありました。今回はその延長で、研究者が参加する場として「患者学」のセッションができたのです。

僕自身の思いは、このセッションが今後も継続していくこと、そして他の学会でも取り入れてもらうことです。

内容としては、患者さんや患者家族の方と研究者が交じり合ってほしいと思っています。そうすることで、研究者に患者さんや患者家族の方の思いを、気持ちを知ってほしいのです。

その思いや気持ちを学問にしていくのはもちろん研究者ですが、思いと気持ちの根っこが患者さんや家族の方でなければ、でき上がる学問が患者さんや家族の方に受け入れられない、そういう学問であれば医療に生かされない、そう思っています。

患者さんや家族の方が情報交換し、そこから生まれてくる本物を世に出して、医療に生かしてほしいと願っています。

ただ、実はここにも問題が潜んでいます。もっとも大きな問題は、もし患者さんや家族の方と医療者、研究者が交じり合っても、思いや気持ちが伝わらない可能性があります、残念な事に。医療者や研究者のコミュニケーション能力の問題かもしれませんが。

だから、ももセンセー先生からお願いします。患者さんや家族の方が医療を良くしていきたい、と考えてくださるのであれば、学会に参加し、医療者や研究者と交じり合い、そして、患者さんや家族の方から思いや気持ちを教えてあげてくれないでしょうか?

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