自分の病気を忘れている時間が欲しいのです

文:田中祐次 東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手
NPO血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
イラスト:杉本健吾
発行:2007年11月
更新:2013年6月

  
ももイラスト

たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている

さて、予告していた「わくわくハーブ」ですが、ちょっとその前に。

実は、ここだけの話、僕は患者さんに激しい抗議を受けたことがあります、実は何度も……。

そのなかで、今回はメールで抗議されたときのお話をします。

アメリカ合衆国ノースカロライナ州にあるDuke(デューク)大学に免疫療法の研究で留学していたとき(03年夏~06年)のことです。ノースカロライナ州はノース(North)と書いているのに北部ではなく南部に属し、緯度は東京とほぼ一緒で、ワシントンDCの下のほうに位置しています。東京と違って湿度が低く、汗っかきの僕としては過ごしやすい土地でした。

建物のなかは冷房で冷え冷え、移動の際はもっぱら車を使うから涼しい(ときに寒い)環境だったからかもしれませんが……。

僕の留学していたDuke大学は、病院としては、全米のなかでトップ10に入る実力です。「神の手」と称される脳神経外科の福島教授がいることで知っている方もおられるかもしれませんね。

さて、その留学中も日本の人たちと電子メールなどで交流を持ち続けていました。そのなかには、もちろん2000年に発足した患者会「ももの木」や2005年9月より始めた無料の相談メールで知り合った方々(患者さん、家族の方、医療者の方など)も入っています。というよりは、患者会などの方々とのやりとりがメインだったように思います。

ある冬の日、僕の発言にえらい剣幕で抗議のメールが来たのです。

ことの発端は、僕が患者さんたちに送ったメールでした。

「病気をして良かったことは?」と、患者さんたちに質問したことが要因です。患者さんの気持ちを理解している「つもり」でいた僕の大失言でした。このとき、多くの方は「無反応」であり、そのうち数名の方から大抗議のメールをもらいました。正直、驚きました。でも、その理由を知りたくて、昼夜を問わずメールをしました。時差の関係で、ノースカロライナと日本とではほぼ昼夜が逆。朝も昼も夜もメールをし続けました。

ある日、ほどけた心の糸のもつれ

イラスト

そうしたやり取りをするなかで、ふっとお互いの思いが通じた瞬間がありました。メールのなかの言葉を借りれば、

「頭から立ち上る湯気」と表現されていた怒りが、「私の心が、じんわり穏やか」に変わったと、その方がメールで表現していました。僕もまた同じ気持ちでした。

帰国後、その方に会いました。そして、いろいろな話から数多くのことを教えてもらいました(もうこのときは抗議ではないですよ)。

そのなかの1つに次の発言がありました。

「患者は入院していると24時間病気のことを考えている、だから病気を忘れられる時間が欲しい。その時間をなんとか有効に使いたい、誰かをなんとかして手伝いたい」というのです。

彼女が僕に打ち明けてくれた心中は、僕が他の患者さんから聞いた思い(「あなたは私に多くのものを与えてくれました」)と通じていました。そして、僕は、自分と患者さんとの気持ちのズレに気づいたのです。そして「病棟で何かをやろう」と思い立ちました。僕は単純に「アロマ」を考えましたが、患者さんにはアロマなどのこだわりはなく、ただ欲しいのは「忘れられる時間」だったんです。その観点を僕は見落としていました。考え直した結果行き着いたのが「わくわくハーブ」。そう、「わくわくしようよ!!」という思いを込めたネーミングです。

そうだ! みんなでわくわくしよう!!

 第2回「わくわくハーブ」の様子
第2回「わくわくハーブ」の様子です

企画は僕を含め3人で行いました。1人は企画立案・実行役、もう1人は病院との交渉役です。

「わくわくハーブ」は、院内で入院患者さんが参加できる形で行いたいと考えました。病院スタッフ以外のいわゆる部外者が行う企画を病院側に理解し、賛同してもらうために交渉役は必要かつ重要な役割を担っています。

企画の内容を考えるのは大変でもあり、楽しくもあります。しかし、初めてのことなのでとても細やかに、慎重に企画を練ってくれました。僕はほんのわずかな助言だけで、あとは実行役の人に任せていました。実際、そうしたことで、より素晴らしい企画が練られたように思います。任された責任という少しのプレッシャーが、元来のやる気に、ブースト(過給圧)が加わったのだと思います。

病院との交渉も思った以上に大変なところと、思った以上にスムーズなところがありました。それは、病院という、医療という壁の問題でもありましたが、実はそれ以上に人間同士の問題が大きく左右していたと思います。こちらの思いを病院側(とくに看護部の方)が受け止めてくれたことが大きな推進力になったと思います。いろいろな思いや偶然などをスパイスにして、そしてとうとう第1回「わくわくハーブ」が催されました。

点滴を下げながら、治療中でありながら参加してくれた患者さんたちの真剣な眼差し、無我夢中の30分。その姿はとてもすばらしいものであり、そして、それを企画してくれた2人、その気持ちに共感しお手伝いをしてくれた方々の思いがつながり伝わってとても温かな雰囲気でした!!

「わくわくハーブ」にはたとえ入院生活中であっても、病気を忘れる時間を作りたい、そして、楽しみたい、そんな思いがあるのです。

企画の準備などに時間と労力がかかり、残念ながら開催は不定期になっています。でも、こうした企画をご存じの方々の思いが伝わり、つながれば、「わくわくハーブ」がいろいろな病院で開催されていくのではないか、と夢を見る「ももセンセー」なのです。

「わくわくハーブ」を希望される方からの連絡をお待ちしております!!

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