あなたは私に多くのものを与えてくれました

文:田中祐次 東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手
NPO血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
イラスト:杉本健吾
発行:2007年10月
更新:2013年4月

  

ももイラスト

たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている


患者さんにしかわからないこと

僕自身が敬愛する京都在住のちょんまげ先生がいます。自称、忍者の末裔、近江商人の血を受け継ぐという方で、これまでも色々なことを教えていただいています。先日、患者会のことなどでアドバイスをいただいていたときのことです。僕たちは京都の気持ちのいいレストランでお昼ご飯を食べていました。アドバイスといっても、お互いに軽口をたたいているときにでてくる言葉が僕に染み入るのですが、そのなかで「give and take」の話題が出ました。

生まれてきたときは自分1人では何もできない、だから多くの人からたくさんのものをいただいて育つ。その後、いつしか自分が人に対して何かをすることができるようになり、与え始める。年をとれば人からの助けもあるけれど、その一方で人に与えることもできる。結果的には、与えるものともらうものとがイコールになる。

ところが、患者となったらいただくもののほうが多くなるのだ、と。それが「give and take 」ということだそうです。なるほどと思いました。これは患者さんでなければわからない、気が付かないことなのかなと思うのです。ちょんまげ先生は僕の倍ほどのお年の方でした(あれ、怒られるかも……)。ちょんまげ先生は、昔から患者さんと一緒に過ごしてきたんだな、と実感しました。そして、僕にもこの「give and take 」を実感できる機会がありました。

「ももの木」にメール相談を寄せた患者さんと話したときのことです。話の途中患者さんが僕にくれた写真を使って作ったカレンダーのはがきのことが話題になりました。では、すこしこの写真のエピソードを……

カレンダーのはがき写真
カレンダーのはがき写真
野山を背景に、入院中に作ったぬいぐるみを写真撮影

あるときに部屋のなかでレース編みを教えてくださる患者さんがいたそうです。レース編みは、いつしか毛糸の編み物になり、それを使って写真のぬいぐるみを作り始めたそうです。

その患者さんは入院中にいろいろな患者さんからお見舞いを受けました。そして、医師や看護師だけでなく多くの医療者に支えられました。そのことに対して心から感謝していました。一方で、きっといろいろな人に気を遣っていたんだろうなーと僕は想像しました。

というのも、以前ほかの患者さんから、

「先生、患者さんって先生に気を遣って、看護師さんに気を遣って、家族にも友人にも気を遣っているんだよ」と聴いたことがあったからです。そして、その患者さんはつぶやきました。

「みんなに気を遣ってもらって、自分が何もできないことが……」

そう、自分は社会人として働き、社会に貢献していた、それなのに、病気になった今は人に頼ってばかり、だというのです。患者さんは病気と闘い、心身共にぎりぎりまで追い込まれながら、それでも1人踏ん張っています。僕らは周りの人に頼って当たり前、と思うのですが、患者さんたちは、なんというのか、そうではない感覚を持っているのです。

その患者さんは、退院後に思い立ち、入院中に作ったぬいぐるみを持ち野山にでて写真を撮り始めたそうです。普通のデジカメだそうですが、何枚も何枚も納得するまでシャッターをきり、ときにしゃがみこんだり、這いつくばったり、ちょっとしたリハビリにもなったりしたそうです。そして出来上がった写真を使ったはがきでカレンダーを作り、お礼とともにみんなに送ったのです。それが、「give and take」 なんですね。

医療者の視点は必要ありません

イラスト

このエピソードを紹介して、読者のみんなにもそうしてもらいたいとかそういうことではありません。リハビリに有効だというのでもありません。ある1人のエピソードのなかにあふれている気持ち、それを是非知ってもらいたいと思っているのです。

リハビリに有効だという話をすると必ず医療に結びつけよう、結びつけなければ、ということになりがちですが、このエピソードをそうするつもりはありません。

たとえば、僕は以前、患者さんがお母さんに足を揉んでもらっているのを見て、そして、海外(ヨーロッパ)の病院では院内エステができることを聞いて、これらのことから、うちの病院でもエステだ!! と思い立ったことがありました。知り合いのエステシャンの方に病院に来てもらってちょっとしたマッサージをしてもらうという企画です。僕も最初に試しにフェイスマッサージをしてもらいました。その感想は……、実は気持ち良すぎてすぐ寝てしまったので……。感想をあえて言うとするならば「すぐ寝てしまうほど気持ちが良い!!」ですね。

この企画は僕が留学で日本を離れるまでの短期間しか実行できませんでしたが……。

ある患者さんがむくんだ足を揉んでもらっていました。マッサージによってそれが細くなりましたが、それも一瞬の話で、時間がたてば再びむくんできます。それを見て、マッサージは有効なのか、無効なのかと考える人がいますが、いえいえ、そんなことはどうでもいいのです。有効性を考えるのは、やはり医療者の視点になってしまっているからでしょう。

気持ちよい、それでいい。足のむくみが一瞬でも改善された、それでいいのです!!

そうです、同じことをほかの人から言われたことがあります。それが、わくわくハーブです。 わくわくハーブの話は次回に続けますね!!


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