コミュニティの最小単位は2人でいいのです

文:田中祐次 東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手
NPO血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
イラスト:杉本健吾
発行:2007年8月
更新:2013年6月

  
ももイラスト

たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている

祖母と母から受け継がれた『1つの思い』」で、ももセンセーのルーツのエピソードも踏まえながら患者会は Community(コミュニティ) ではないか? と、ももセンセーの考えを投げさせていただきました。今後作られていく患者さんの集まりについてですが、ももセンセーは、患者会というよりもコミュニティと考えたいのです。

多くの患者会が求めているもの、それは「情報」でした。

10数年前の日本は、がん告知さえもどうしたらよいのか揺れている状況でした。そのような時代に出来上がった患者会には、情報を欲する人たちが集まったと思います。

今は、状況も変わり、逆に情報は溢れています。インターネットの情報は、情報の発信源が医療者であったり患者であったりと様々ですし、また内容も医療情報からブログなどに書かれている個人の思いなどと多様化しています。そこで、現在では情報が足りない(ない)というよりも溢れる情報のなかから、より自分にあった情報を欲するようになってきました。患者数の少ない、もしくは注目が集まらない病気に関しては、残念ながら依然として情報は少ないままですが……。

仲間捜しのためのコミュニティ

このような変化のなかで患者さんやご家族は、自分と似ている境遇の人と話したい、その人からの情報を得たいと考えているのではないかと、ももセンセーは考え始めました。仲間探しをするために集まる コミュニティが重要になると思ったのです。

ももセンセーのすすめている院内患者会は病院という環境を同じにした仲間が集まるコミュニティです。院内患者会といっても集まる人数は病院により、開催日により変わりますが、実は2人以上集まれば十分だと実感しています。というのも、院内患者会に参加してみると分かるのですが、交流会のフリートークの時間では、多くが2~3名のグループで話をしています。4人以上の人がいるグループでは話題が2つ以上になり2人で話していることをよく目撃します。みなさん自分でおしゃべりしたい主題がたくさんあり、話を聞き、自分でも話し、共感し、新しい情報を得てということを「おしゃべり」のなかで行っています。同じ主題を持った人であれば話題は尽きないのです。

患者さんやご家族がお互いに話したいと考えている内容は、個人のプライバシーに踏み込んでいる関係上誰にでも話をするというわけにはいきません。しかし、院内患者会という場では、そのコミュニティのなかに存在するお互いの信頼感が強いため、深い内容でも話すことができ、聞くことができるのでしょう。

実際にこの現象は、仲良くなった大部屋のなかでもすでに起こっています。退院後もときどき再会している仲良しグループがありますが、これもコミュニティです。ただ、この場合は、コミュニティ内にいるのは同じ治療フェーズの患者さんだけなので、違う治療フェーズの患者さん同士の情報伝達ができません。つまり、治療後の患者さんが、1番情報を欲している治療中・治療前の患者さんに自身の経験談を伝えることができないのです。その点、院内患者会という形をとると、退院後の患者さんも入院中の患者さんも参加できますし、時間を超えた情報を伝達することが可能です。

院内患者会というのは1つの大きなコミュニティですが、小さなコミュニティはほかにもたくさんあります。病院の大部屋のなかでも、廊下でも、ときには個室に遊びに入っている患者さん同士でも、踊り場での家族同士でも、2人集まれば院内患者会です。そのコミュニティには言葉に出さない共通認識や考え方があり、それを踏まえた信頼感があります。

これからの医療において、この患者コミュニティは非常に重要な存在であると考えています。

イラスト

医療者や研究者は、学会というコミュニティをすでに作っています。そしてそのなかで論文という形を使って思いを文字にし、多くの研究者に伝えています。論文の価値、研究の価値をこのコミュニティは作り出しました。

患者コミュニティも独自の価値を創造すればいいと思っています。その価値は、まだ活字化されていませんが、患者さん自身の中にはすでに存在しています。その価値の1つが「信頼感」ではないかと思います。この価値があるからこそ、退院後の患者さんがあえて自分の時間を使って院内で開催される患者会に参加してくれるのです(実際に、遠方より治療前の患者さんが治療の相談に来られたときには、平日の昼間にもかかわらず10人もの患者OBの方々が自身の経験を話すために集まってくれました)。

みなさん自信をもっていきましょう! すでに皆さんは価値を持っているのです。

コミュニティが育む患者学

Medicina Nova(メディキナ・ノワ)の知力はこうしたコミュニティのなかから生まれてきます。それはまさに現場からでてくるのです。さらに、患者さんだけではなく、臨床の現場で働く医療者が当たり前に持っている暗黙知(本音)でもあります。

このような暗黙知を持つ現場の医療者はなかなか研究会や学会などのアカデミックな活動ができない(論文の発表ができない)ために、暗黙知を研究者のように形式知(活字)にできず、人に伝わっていません。

患者さんだけではなく、患者さんのご家族の方、そして医療者が暗黙知を形式知にすることが今後の医療にとって大切です。それを実現できるのがコミュニティ だと考えています。

Medicina Novaは、今までのエビデンス・ベースト・メディスン(科学的根拠に基づいた医療)を超えた存在です。それは臨床の現場にいる、医師、看護師、薬剤師、検査技師、ヘルパーの方々など多くの医療者だけでなく、患者さんや家族の方もふくめて、それぞれの立場で知っていること、それを形にしたものです。その1つの形として、Medicina Nova では、研究者のコミュニティ(学会)に患者・家族のコミュニティをくっつけたハイブリッドなタイプのものの構築を目指しています。

Medicina Nova(メディキナ・ノワ)=ラテン語で「新しい医学」という意味。ももセンセーの唱える広い意味での患者学

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