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院内患者会は既存の患者会と異なる役割を担っています
たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている
院内患者会のメリットとデメリット
本連載1回目・2回目では、次世代の患者会の姿として、院内患者会を紹介させていただきました。すでに、数多くの患者会が立ち上がっていますが、それらの大部分は同じ病気の患者さんごとに集まったものです。こうした既存の患者会の多くは、最新の治療や診断などの情報交換が行われるなど、何らかの目的を持っています。
患者会の会員の方々のパワーにはすごいものがあり、同じ病気と闘っている仲間意識があるからか結束力も強固です。そして、そのエネルギッシュな活動は、ボランティアによって継続しています。
もちろん、こういった既存の患者会の活動は是非とも継続して欲しいと、僕は思っています。そのうえで、院内患者会の活動が活発になることも願っているのです。
というのも、院内患者会と既存の患者会の求めていることが異なっているので、両者が協力し合うことで、患者さんや家族の方々にとって、より素晴らしい医療環境がつくられると思うからです。
(実際、それは医療者にとっても素晴らしい環境となるに違いありません)
僕が提案している院内患者会と、既存の患者会の大きな違いは、病院ごとの集まりなのか、病気ごとの集まりなのか、ということです。実際に院内患者会でお話をする方々のグループのテーマは、病気のことや治療方法のこと、病院での生活のことなど多岐にわたります。このようにテーマが分散することが、長所だと思うのです。
しかし、逆に言えば、同じ病気の方と話をしたい……、という思いが実現できないことでもあります。
とはいえ、入院中の患者さんは病気以外の話題で言葉を交わしたいはずです。だから、僕が参加する院内患者会では話が尽きず、終了予定の時刻に散会することはなかなかありません。それは世話人の嬉しい悲鳴にもなっています。
院内患者会と既存の患者会 交流が互いを発展させていく
患者の集いを病院外ではなく病院内で行うことのメリットとして、「やすい」ということがあります。これには「参加費がやすい」だけではなく「参加しやすい」、そして「話しやすい」などといった意味があります。
それに病院内で集まれば、入院している患者さんも参加することができます。このことは、連載1回目で紹介した「ももの木」という僕が理事長になっている患者会の交流会の場所選びと同じことです。僕が会場を手配する場合は病院の外にあるレストランや居酒屋などでした。
けれども、患者さんに会場を設定してもらうと、病院内のレストランを予約していました。つまり、入院患者さんも参加できるように配慮していたのです。これは入院中、院内で行われている患者会があるのなら参加してみたい……、と思っていたその患者さん自身の経験から来ているそうです。
それと、院内の施設を使用すれば、会場費はほとんど必要ありません。ペットボトル1本を持参すればいいので、気軽に参加できるのです。なかには世話人の方々が菓子類を用意してくれる会もありますが、それでもせいぜい数100円といった話で参加者の負担は少額ですみます。そして、そこに主治医がいたり、担当もしくはよく見かける看護師さんがいたり……。この安心感が、参加しにくいと思っていた集まりへの敷居を低くしてくれるはずです。
院内患者会の集いを行う場合は、世話人の仕事を減らす意味で、定期的な開催をお勧めします。たとえば「偶数月の第1土曜日の14~17時、○○病院×階会議室」などと決めておけば、世話人の手間も少なくなり、運営しやすくなります。
こういった「おしゃべり会」の場を設けている既存の患者会があります。その1つが「グループ・ネクサス」(悪性リンパ腫患者・家族連絡会)です。
この患者会は充実した内容の情報提供を行ったり、会場を借りての講演会などを全国で開催したりしています。その一方、悪性リンパ腫の患者さんとその家族が参加し、定期的に「お茶会」という名目でおしゃべりをする会を開いているのです。
私自身「グループ・ネクサス」の「お茶会」に参加したことがあります。ある病院のレストランで開かれた「お茶会」は、40名を超える参加者がコーヒーを飲みながらおしゃべりをしていました。参加者は皆、よく聞き、よく話し、ボランティアで活動している幹事の方を気遣いながら会を進めていました。
この集いは、僕が提案している院内患者会ではありません。それでも、この会に参加して、患者さんや家族の方は皆、おしゃべりや情報交換をする場を求めていると実感したのです。
また、ある院内患者会に参加した方からは「会に参加できて本当によかった」「勇気と元気とパワーを貰うことができてよかった」「是非、継続して開催して欲しい」などといった言葉が寄せられたと聞きました。僕は、参加者がこのような感想を持ってくれる会を広めていきたいと強く思っています。
僕が提案しているのは、馴れ合いの場ではありません。心の触れ合い・時間を越えた情報交換の場です。今後は、さらに患者さんや家族の方が求めていることを実現していきたいと考えています。そのためには病院ごとの患者さんによる会づくり、つまり院内患者会が必要です。
院内患者会は、既存の患者会と異なる役割を担っています。もちろん、両者とも患者さんとその家族の方が必要としている会であることは間違いなく、両方の会に参加している方はたくさんいらっしゃいます。 院内患者会と既存の患者会。僕はこの異なるタイプの患者会の交流が深まっていくことが、互いの発展につながると信じています。