「患者会」―次世代の患者会の姿を提案いたします―

文:田中祐次 東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手
NPO血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
イラスト:杉本健吾
発行:2007年3月
更新:2013年4月

  

ももイラスト

たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている

立ち上げた“仲良しグループ”の中で受けた衝撃

ももの木は、「せっかく仲良くなったのだから、退院後も会いたいな」という気持ちで、僕自身が企画して始めた集まりです。まず、知り合いの患者さん数名に声をかけ、次に10人程度での食事会(実は居酒屋での飲み会)を開催しました。その会では、幸運にも僕とは別に院内の環境改善をしたいと考えていた患者さんと知り合うことができ、彼が縁の下の力持ちとして患者会の運営を支えてくれることになりました。

その後、食事会は交流会へと名前を変え、不定期に集まり、ご飯を食べながら語り合いました。そこでは仲良しグループみたいに楽しいときをすごすことができたのですが、ある人の一言によって、自分の考えの甘さを痛感させられました。

「患者同士って、表面では仲良くしていても、心の底では決してそうではない。だって、みんながお互いに嫉妬しているからね」

もちろん、その嫉妬には程度の差があるのでしょう。しかし、こうした考えすら浮かばなかった自分の甘さを恥じました。患者さんとの集まりなどを主宰することで、あたかも自分は「患者さんの気持ちを理解できる、いい先生!!」だという幻想を抱いていたのですから……。

加えて、ある患者さんから「ももの木の交流会に出たいけれど、やっぱり敷居が高くて、途中まで出かけたけど引き返してしまった」と、教えてもらいました。それまで、ももの木は患者さんにとって垣根のない(低い)集まりを目指し、それを実現できていると自負していました。けれども、それは思い違いだったのです。

「患者ってね、先生、看護師さん、家族、そして友人にも気を遣っているんだよ。本音は誰にも言ってない」

これもある患者さんの言葉で、僕に衝撃を与えました。患者さんは本音を言ってくれてない……と。たしかに、病院の中では言いにくいことだと思います。

「どうして、言えないの?」と訊ねたときに、「言える訳がないよ、もちろん先生は信頼しているけど、でも、もし嫌われてしまったらと思うと……」

と即答されたこともありました。

院内患者会は患者・患者OBが織り成すサポート体制

イラスト

僕は、ももの木という交流会(食事会)によって仲間となった患者さんの気持ち(本音)を少しは教えてもらうことができたように思います。

患者さんは病院の中で言いたいことが言えないけれど、外でなら話せるのかもしれません。もしくは、患者さんの話を真剣に聞く人が院内に存在すれば話してくれるのかもしれません。

他の人から、私自身が患者さんの本音と思っていた言葉も「まだまだ本音が含まれていないのでは?」と指摘を受けたことがあります。たしかにその通りなのかもしれません。しかし、患者さんから教えてもらった言葉を他の患者さんに話すと、大きく首を縦に振ってくれることがあります。そういうときは、その言葉が患者さんに共通する思いなのだと実感します。患者会で患者さんと話すことで、医療界に存在しない考えを教えてもらいました。つまり、医療界の認識と患者さんの気持ちにはズレがあるのです。

また、交流会では小人数で輪になって、さまざまなテーマの話題を共有します。換言すれば、同様の病気・治療方法・副作用・家庭環境・医師などを持った者同士が共通の話をしているのです。しかも、皆が聞くだけではなく積極的に話し合っています。

こういった状況を踏まえ、同じテーマを2~3人で話し合うグループカウンセリング、ピアカウンセリングができないものかと模索し始めました。その結果、あるテーマに関して語り合いたい患者さん数名が2時間に渡り集う「ももカフェ」という場を設けました。その第1回は初対面同士の人が多かったのですが、最後の30分には我先にと話し出し、2回目は初めから多くの人が我先にと語り始めました。このようなことから、共通な話題での語らいの場が求められていることを認識しました。

ももの木の交流会のことに話を戻しますが、患者会を一緒に立ち上げ縁の下の力持ちとして支えてくれている彼は、常に病院の中のレストランを利用しようとしていました。僕はあまり考えずに近くの居酒屋を会場に決めていました。そこで、彼に院内のレストランを選ぶ理由を訊ねると、「自分が入院患者のときに、このような語らいの場が欲しかったので、できれば交流会に入院患者さんも参加して欲しいからだ」と言うのです。これは、患者OBによる現役患者へのサポートシステムといえます。もちろん、患者さんは医学的な情報も求めていますが、交流会や、ももカフェで皆が興味を示して話し合っているのは、医学・医療以外の情報もあります。何を食べていいのか・いけないのか、マスクはしたほうがいいのか、就職問題、家族の問題、恋愛相談……。このようなことから、ももカフェのように共通の話題で語り合える空間、さらには入院患者さんも参加できる場としての「病院内の患者会」の重要性を認識しています。

05年の秋に東京女子医大の患者さんから相談を受け、彼女自身が病院内の患者会を立ち上げました。そして、06年には、東京大学医学部付属病院、虎の門病院、都立駒込病院、日立総合病院、倉敷中央病院、筑波記念病院での立ち上げに協力し、会にも出席しています。

これらの7つの会では病院ごとにさまざまな問題を抱えながらも、それぞれの特徴を持ちながら運営が続いています。このような病院ごとの患者会を全国に広げていくのが今後の目標です。

今、7つの患者会の設立状況を踏まえ、患者会に関する「設立ハウツウ本」や「ルールブック」を作成しています。それを参考にするのはもちろんのこと、必要であれば僕が出向いてお手伝いをさせていただきます。

さらに、その場に医療者も加わり、患者さん・家族の本音を知ってもらいたいとも思います。そのためにも、全国の病院に院内患者会が産声をあげることを願っています。


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