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TNM分類の意味
臓器ごとにがんの進行度を示す合理的な分類法
すわ くにお
東京大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学などを経て、帝京大学教授。医学博士。専門は麻酔学。著書として、専門書のほか、『パソコンをどう使うか』『ガンで死ぬのも悪くない』など、多数。
がんを分類する方法にTNM分類というのがあります。「がんの進行度を分類する方法」といえるでしょう。よく使われるがんの「ステージ分類」に関係していますが、専門家は別として、このTNM分類自体が一般の方々には知られていないので、調べて紹介します。
TNM分類の基本
この分類自体は、国際対がん連合(UICC)が提案しているもので、専門家の間では広く使われています。TNMの3文字は以下の内容を意味します。
T "tumor"つまり腫瘍(固まり)で、T0の腫瘍なし(固まりを作っていない)レベルから、がんの大きさと浸潤(*)の程度によりT1~T4に分けます。どう分けるかは、各臓器別に決まっています。
N "lymph nodes" つまりリンパ節で、N0のリンパ節転移なしから、リンパ節転移の程度によりN1~N4に分けます。数が増すほど遠いリンパ節に転移していることを示しますが、正確には各臓器別に分類します。
M "metastasis"つまり遠隔転移で、M0の遠隔転移なしとM1は遠隔転移ありの2種類で、このパラメーターはM2以降の数や臓器別の分類はありません。
なお、TNMの数値に"X"という付値をつける場合があり、この文字は「分類しない」あるいは「分類不能」を指します。たとえば、"NX"は「リンパ節転移の有無が不明」を意味します。
*浸潤= がん細胞が周辺の細胞にしみこむように広がっていく
TNM分類は臓器ごとに当てはめられる
もう1つ、この分類には臨床分類と病理分類があり、前者は治療開始前、後者は手術などで情報がそろった段階で適用します。臨床分類の場合は文字の前に"c"をつけて"cT"とか"cN"と書き、病理分類は文字の前に"p"をつけて"pT"とか"pN"と書きます。"c"は"clinical(臨床的)"、"p"は"pathological(病理学的)"の略号です。
また、分類は時間経過で変化して当然ですが、1度分類したらそれをさかのぼって変更することは許されません。
ここまでみる限り、それなりに明快ですが、不思議なことに、このTNM分類の総論的な解説があまり載っていません。ここにお示ししたのは、「がんの進行度分類について」と「医学生のレポートやっつけサイト」という2つのサイトから抽出しました。
たとえば、国立がん研究センターのホームページで「TNM分類」というキーワードを入れて検索すると、いきなり個々の臓器のがんの解説になってしまい、TNM分類全体に対する解説がみつかりません。この分類は基本的に臓器ごとの分類に当てはめるもので、それが全体の記述を欠く理由と解釈します。
なお、基本的にかたまりをつくらない白血病など、全身に広がるのがあたりまえの悪性リンパ腫、それにリンパ節への広がりや転移の面で特殊な態度をとる脳腫瘍などには、このTNM分類を適用することはあまり行わないようです。
国際対がん連合のサイトでみつかる情報
本家本元の国際対がん連合のサイトにアクセスすると、いろいろな情報がみつかりますが、当然すべて英語です。現在第7版の分類は2010年1月施行のものでTNM-7と表現し、臓器ごとに分けた詳細な解説が書籍として販売されており、定価は37.90ポンド、日本円で5,600円くらいでしょうか。日本語訳もあると書いてあります。
この本自体は電子公開されていませんが、第7版と第6版との比較が電子的に公開されており、ダウンロードできます。46頁の文書でもちろん無料。「変化なしの項目」、「新しい分類」、「改訂した項目」などがあって、ある程度わかります。また、この分類法がどのように使用されているか、評価されているかの紹介も載っています。
国際対がん連合の元のサイトからいくつかのサイトにとんで情報をダウンロードできます。とくに有用なのが"FAQ(frequently asked questions)"、つまり想定質疑応答の記事で、14頁あって内容が豊かです。
たとえば、「高度の変性所見をがんとみなすか」という質問に対して、「担当医師が変性だけと限定すればがんではないが、変性またはがんと表明するならがんということとなる」と担当者にゲタを預けています。さらに「TNMの使い方」という文献が3種類あって、全般のものが2頁、医療担当者用と患者と家族用が各1頁あります。
これによると、記述の文字がいくつか追加されています。
y 化学療法を使った場合につけます。"yM"というふうになります。
R 治療、とくに手術で残存組織がある場合に使います。"R"は"residual(残存する)"という意味の形容詞です。原発の腫瘍を取り切れなかっただけでなく、リンパ節が残存する場合もここに分類します。
r 再発を意味する記述文字。"r"は"recurrence(再発)"です。他にも文字が加えられていますが煩雑になるので省略します。
胃がんの分類とTNM分類の関係
例として、「国立がん研究センター 胃がん TNM」というキーワードで検索してみました。国立がん研究センターがん情報サービスのサイトの「胃がん基本情報──胃がん診療の流れ」という記事には詳細な情報が載っています。もちろん日本語です。
そこの「検査・診断」のページに、臨床病期(ステージ)の解説として「日本胃癌学会編『胃がん治療ガイドラインの解説(一般用)』」という表があり、これでステージとTNM分類の関係が明快にわかります。
表の横軸はリンパ節転移の度合いを4段階に分け、N0(リンパ節への転移がない)、N1(胃に接したリンパ節への転移がある)、N2(胃を養う血管に沿ったリンパ節への転移がある)、N3(さらに遠くのリンパ節への転移がある)です。胃がんにはN4という分類はありません。
縦軸は元の腫瘍の広がり方の分類で、T0(腫瘍なし)、T1A(腫瘍が胃の粘膜に限局しているか、腫瘍が胃の粘膜下層に達している)、T2B(腫瘍は筋層か漿膜下層までで胃の表面には出ていない)、T2(腫瘍が漿膜を超えて胃の表面に出ている)、T3(腫瘍が胃の表面に出た上に他の臓器にもがんが続く)、T4(肝、肺、腹膜など遠隔臓器に転移)と分けます。
横軸方向(N)が4通りで縦軸方向(M)が6通りの合計24通りの分類で、1番軽いのはT1AとN0で、これがステージ1Aです。N方向M方向がそれぞれ進むと重症度がまして、最後はステージ4ということになります。
胃がんの場合は上のとおりですが、他の臓器でも基本の考え方は類似しているものの同一ではなく、書き方も違っています。このようにリンパ節転移と原発腫瘍の広がりの組み合わせで合理的に分類されていることを、初めて明確に認識しました。
今回おじゃましたサイト
※ホームページのURLは、2011年7月25日現在のものです。26日以降のURL変更等につきましては、ご容赦ください