がん医療新潮流 2

「がん難民」は救済できるのか?――(後編)

監修●高野利実 虎の門病院臨床腫瘍科部長 ●花井美紀 NPO法人ミーネット代表
取材・文●黒木 要
発行:2014年4月
更新:2014年7月

  

「患者さんのサポートを継続していくには行政や医療機関を巻き込み、地域ぐるみでサポートしていくことが重要」と話す NPO法人ミーネット代表の花井美紀さん

「薬物療法だけが『希望』と思わせる風潮が がん難民の原因」と主張する高野利実さん

がん体験者が、患者さんと医療の隙間を埋める

近年、がん患者さん・家族への支援活動として行われているピアサポーターによる「がん相談」。

ピアとは「同じ立場」「仲間」の意。傾聴をはじめとして相談支援の訓練を積んだ闘病中もしくは闘病を終えたがん体験者が、がん患者さんと同じ立場で相談者の不安や悩みに対応する。

がん患者さんが体験を分かち合いつつ、学び合う名古屋市がん相談情報サロン「ピアネット」を2009年3月より名古屋市と協働運営しているNPO法人ミーネット代表理事・花井美紀さんは、その意義について次のように述べる。

「患者さんやご家族が相談したいことの中には、医療者には訊きたくても訊けないこともあります。ですが同じ病気体験を持っていて、親身になって話を聞いてくれる人がいれば、問題整理の手助けとしてとても頼りになります。相談に来られるがん患者さんの中には、ピアサポーターに話をすることで、ご自分で答えを見つける方が多いと感じています」

「ピアネット」で活動している伊藤和直さん(65歳)もピアサポーターの1人だ。47歳のとき腎がんの手術を受け、5年目に肺へ再発転移。経過観察ののち、11年目に定位放射線療法(ノバリス)を受けた。翌年からピアサポーターとして活動を開始。昨年(2013年)再び肺への転移が見つかり、再度手術を受けた。

「自分の経験が役に立つのは嬉しいし、やりがいを感じます」という伊藤さんは週1回のピアサポーターとしての活動を5年間続けている。

昨年、同じ進行がんに罹患した患者さんがサロンに来た。この人は、医者を含めいろんな人から「希望を持って」と言われたり、「覚悟も必要だ」と言われたりして、いったいどうしたらいいのかと苦しんでいた。

これに対し、伊藤さんは、希望を持つことも、覚悟をすることもどちらも必要だ、と答えた。この応答をきっかけに、相談者は吐き出すように次々と思いをぶつけてきたという。

この相談事例について、花井さんは次のように話す。

「医師や医療者は覚悟が必要とはなかなか言えません。ピアサポーターならではの、それも同じように進行がんを抱えた深刻な病状にある伊藤さんならではの答えが、相談者の心を捉えたのだと思います。ピアサポーターには伊藤さんのように社会経験豊かな人が多く、総合的な人間力で相談に対応しているように見えます」

患者さんや家族のピアサポートの相談ニーズは多く、それも強固なものがある、と花井さんは感じている。

「患者さんが抱える悩みや問題は、がんが見つかったときから治療中やその後の療養に至るまで、時系列で変化します。それも治療のこと、生活上のこと、精神的なことと多岐にわたります。そのすべてに医療が答えを出せるとは限らないし、それを求めるのは限られた医療資源を疲弊させかねない。そうなって困るのは私たちです。患者さん同士・家族同士が分かち合うこと助け合うことで答えが見つかることもあります。ならばすべてを医療任せにせず、私たちが担える部分は精一杯やっていこうと思うのです」(花井さん)

同じつらさを持つがん体験者という存在は、患者さんと医療者の隙間を埋め、がん難民化せんとする患者さんの手をしっかりと握っているのかもしれない。

ピアネットの活動の認知は広がり、院内での出張相談の依頼が多くなった

傾聴=カウンセリングなどにおけるコミュニケーションスキルの1つ。相手の話をただ聞くのではなく、注意を払ってより深く丁寧に耳を傾けること。相手が話したいこと、伝えたいことを受容的・共感的な態度で聴くこと

行政と医療機関を巻き込むことの意味

そんな花井さんらの思いが結実したのが「ピアネット」だ。「地域に根ざしたがんサポート」が中心理念で、その意義を名古屋市議会に請願書を出して討論をしてもらい開設にこぎつけた。相談活動を担うピアサポーターの人材不足も想定、その養成活動を同時にスタートさせ、養成プログラム制作で医療者に協力を要請。医学的な裏付けのあるプログラムが出来上がった。

行政と医療を巻き込んだのは、一ボランティア団体としての活動に限界を感じたからだという。

「多くの人の相談を受け、継続してサポートしていくには、点としての活動ではなく、線としての活動つまり地域ぐるみのサポートが必要で、それを患者さんや家族は求めているのです。そのためには行政や医療機関と一緒になってやるのが一番と思いました」(花井さん)

「ピアネット」には、週1回ほどの活動が可能なピアサポーターが開設時には27名おり、オープン後3カ月間で約700件の相談を受けた。

一方で、当時は今ほどその意義が認知されていなかったこともあり、医療者の間には活動を不安視する声が少なからずあった。だが徐々にその活動が認められ、病院の一角での出張相談を定期的に開いて欲しいという依頼も次々と舞い込むようになった。

現在は愛知県がんセンター中央病院をはじめ、県内13施設で毎月平均20回ほどの「院内ピアサポート」活動を行っている。

厚労省が指定しているがん診療拠点病院でもピアサポートを行っているところが増えている。各都道府県に原則として1つずつ設置されているセンター的拠点病院では曜日や期日を決めて相談を行っている施設が多い。しかし、センター以外の拠点病院では活動を行っていない施設もまだある。

厚労省が昨年末に行ったアンケート調査によると、小児がん拠点病院を含む412施設中、回答のあった177施設中53施設(30%)が、ピアサポーターおよび院内のがんサロン活動で進行役をするファシリテーターの確保・育成が課題と答えている。

ピアカウンセリングの相談風景

がん患者さんにタオルをかぶせてあげるピアサポーター。つらさを同じように知っているからこそ、分かち合えることがある

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