私が目指すがん医療 4
~専門職としての取り組み、患者さんへの思い~

さまざまな疼痛コントロール法を組み合わせて がんの痛みで動けなくなる患者さんを減らしたい

上島賢哉 NTT東日本関東病院ペインクリニック科医長
取材・文●吉田燿子
発行:2014年8月
更新:2014年11月

  

かみじま けんや 1996年香川医科大学(現・香川大学)卒業後、横浜市立大学医学部附属病院麻酔科に入局。2002年よりNTT東日本関東病院ペインクリニック科に勤務。日本麻酔科学会麻酔指導医、日本ペインクリニック学会認定医

海外の医療機関と比べると、日本ではがんに伴う痛みのケアはまだまだ十分とはいえない。そんな中、NTT東日本関東病院のペインクリニック科では、神経ブロック療法を中心にがんの痛みのコントロールを行うかたわら、骨転移に対する新しい治療法も模索している。同科の上島賢哉さんに、がん疼痛ケアについて話を聞いた。

骨転移の痛みを和らげる新しい治療法

痛みを伴うがんの骨転移に対しては、以前から放射線治療が行われてきました。しかし、放射線治療は同じ部位に1度しか行えないため、再発すると治療法がなくなってしまいます。このため、痛みがとれないばかりか、動けなくなって常に床につく生活になる人も多いのが現状です。

そこで新たに開発されたのが、当科でも取り組んだ「経皮的椎体形成術」や「骨ラジオ波焼灼術」などの新しい治療法です。

経皮的椎体形成術は、皮膚から脊椎に針を挿入し、X線(レントゲン)やCTなどの画像を見ながら骨転移によって溶けた骨の中にセメントを注入して、椎骨を安定させる治療法です。この治療は痛みを和らげる効果は高いのですが、骨の中に腫瘍があると、骨を有効に固定できないという問題がありました。骨の中にセメントを注入しても、腫瘍が邪魔をして、セメントが骨の外に押し出されてしまうのです。

そこで考案されたのが、経皮的椎体形成術と骨ラジオ波焼灼術を組み合わせる方法です。まず、骨の中に針を差し入れ、先端からラジオ波で腫瘍を焼きます(骨ラジオ波焼灼術)。こうして、腫瘍を取り除いてできた骨の中のスペースにセメントを入れるわけです。この治療法は、骨転移の痛みを取り除く上で大変有効です。しかし残念ながら、骨ラジオ波焼灼術は保険適用外なので、当科を含め、国内ではあまり普及していないのが現状です。

現在、同科の治療の中心となっているのは、即効性のある「神経ブロック」だ。

神経ブロックとは、痛みの原因となる末梢神経に麻酔薬を浸透させ、痛みの伝達をブロックする方法です。効果を長く保てるように高周波熱凝固療法という治療を行うこともあります。従来はX線の画像を見ながら神経ブロックを行っていたのですが、当院ではより正確さを増すために、超音波(エコー)画像を見ながらブロックする最新の方法を採用しています。この治療法は主に神経痛などの治療に用いられますが、がんの痛みにも有効ですので、もっと生かすことができればと考えています。

局所治療と全身治療の併用がポイント

現在、がん治療の現場で広く行われている疼痛ケアは、薬によるものです。これは全身治療なので、投与量が増えると眠気やふらつき、吐き気などの副作用が出てきます。これに対して、神経ブロック療法は局所治療なので、副作用が比較的軽いというメリットがあります。

がんの疼痛ケアは、主治医が患者さんに鎮痛薬を処方し、それでも痛みがとれない場合に、ペインクリニック科で神経ブロック、その他の局所治療を行うのが一般的です。しかし、局所的に治療をして楽になっても、がんが進行すると別の部位に痛みが出てくることがあります。このため、局所治療と全身治療の併用が必要になることもあります。ペインクリニック科としては、主治医の先生方にも鎮痛薬について助言を行うなど、様々な形でサポートができればと考えています。

疼痛治療の普及を目指す上島さんには、がんの疼痛治療への思いがあるという。

痛みは周囲の人からは見えない症状です。がんによる痛みであっても、療養を支える家族から理解されにくいことも少なからずあります。痛みで動けなくなってつらい思いをする患者さんを減らしたい。
痛みの専門家としては、患者さんを孤立させないためにも、しっかりと痛みのケアを行っていきたいのです。

神経ブロック治療も有効性が高いにもかかわらず、がん患者さんにはあまり行われておらず、骨ラジオ波焼灼術はいまだに保険に適用されていません。こうした治療法を普及させ、日本の疼痛ケアをレベルアップさせるためにも一層努力したいです。

Let’s Team Oncology ― 患者さん・医療従事者のみなさんへ

リハビリや緩和ケアと連携を密に

がんの疼痛ケアには、主治医や緩和ケアチーム、リハビリ医との協力が欠かせません。患者さんの詳しい病状を把握してこそ、有効な疼痛ケアが実践できるので、主治医と相談し合える関係を作ることは大変重要です。また、患者さんが日常生活で使う機能を回復するためには、リハビリで筋力をつける必要がありますが、骨転移の痛みが悪化するとリハビリ自体ができなくなってしまいます。このため、緩和ケア医やリハビリ医と密に連携して治療にあたることが大切と考えています。

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