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患者のためのASCO特集
ASCO 2011で注目される5つの報告
質の高い生活を長期にわたって過ごすための新知見発表!
ASCO最新報告
米国臨床腫瘍学会(ASCO)の第47回年次集会が、6月3日~7日の5日間にわたって、米国シカゴで開催された。
今年のテーマは、「Patients(患者)、Pathway(経路)、Progress(進歩)」。インターネット記者会見で紹介された今年注目の5演題を紹介する。
がんを慢性疾患と捉え、長く付き合う時代へ
2010~2011年度のASCO会長でインディアナ大学教授のジョージ・スレッジさんは、インターネット記者会見の冒頭で、「今年は、がん研究への多大な新規投資につながった法令・ナショナルキャンサーアクトが署名されて40周年にあたる。がん患者は今や、かつてないほど長く、質の高い生活を送ることが可能になってきている。がんの進展や特性についての理解が高まるにつれて、この疾患は、何年にもわたって生きることが可能な、いわば慢性疾患になってきているともいえるだろう。ここで発表される研究は、新たな個別化治療から、検査や予防のための新たなアプローチまで、いずれもがんという疾患に対抗するための進歩の1例である」と述べた。
子宮頸がん発見には細胞診検査よりもHPV検査のほうが有用
検査結果 | 5年後の 発症リスク | HPV検査 | 細胞診検査 | 5年後の 発症リスク | |
---|---|---|---|---|---|
HPV+ | 7.6% | HPV+ | 細胞診+ | 12% | |
HPV- | 0.2% | HPV+ | 細胞診- | 6% | |
細胞診+ | 4.7% | HPV- | 細胞診+ | 0.9% | |
細胞診- | 0.4% | HPV- | 細胞診- | 0.2% |
米国では毎年、1万1000名が子宮頸がんと診断され、4000人が子宮頸がんのために死亡している。そして、多くの子宮頸がんの原因は、HPV(ウイルス)であることがわかっており、米国では30歳以上の女性に対して、子宮頸がん発見のために細胞診検査だけでなく、HPV検査を行うことが推奨されている。日常臨床では、一般に1年おきに検査が行われている。
この度、米国国立がん研究所のホルムズ・カトゥキさんたちの研究によって、細胞診検査よりもHPV検査のほうが有用であること、HPV検査で陰性であれば、検査は3年に1度でよいと考えられることなどが示された。
カトゥキさんたちは今回、30歳以上の女性で、03年~05年の間にHPV検査、細胞診検査を受け、09年まで追跡して調査された33万1818名の女性について、検査結果と、5年間の子宮頸がん発症や前がん状態との関係を調査した。
それによれば、年間の子宮頸がん発生数は女性100万人あたり、(1)細胞診検査陰性の場合、7.5人、(2)HPV検査陰性で3.8人、(3)HPV検査陰性で、細胞診検査も陰性の場合3.2人であった。
5年後の子宮頸がん発症のリスクをみたところ、HPV検査陰性の場合、細胞診検査陰性で0.2パーセント、陽性であっても0.9パーセントとあまり上昇しない。
一方、HPV検査陽性の場合には、細胞診検査陰性であっても6パーセントとリスクが高く、細胞診検査陽性の場合には12パーセントと、リスクがほぼ倍になることが示された。
これらの結果からカトゥキさんは、「HPV検査で陰性の場合には、5年間の子宮頸がん発症リスクは非常に低く、かつ細胞診検査でも陰性だった場合にはリスクはさらに低い。HPV検査陰性の場合には、3年以内に再度検査を受ければ、安全だと考えられる」とした。
また、HPV検査陽性の場合には細胞診検査を加えることでさらにリスクの高い患者を同定できるとし、「HPV検査は手技も簡単で、陽性・陰性がはっきり示される。まずはHPV検査を行い、陽性だった場合に限って細胞診検査を行うという方法を考慮してもいいのではないか」との見解を示した。
タキソールによる神経障害バイオマーカーを同定
タキソール(*)は、さまざまながんの化学療法に用いられている。副作用として約3分の1の患者に生じる末梢神経障害は、痛みやしびれを引き起こすだけでなく、化学療法の用量制限や治療中止の原因ともなり、重症になれば身体機能を大きく制限する。
今回、インディアナ大学のブライアン・シュナイダーさんらの研究によって、こうした末梢神経障害を著しくひき起こしやすい患者には、遺伝子の変異があることが明らかになった。
これまで、タキソールの用量やスケジュールによって、末梢神経障害の発現リスクが異なることと、臨床的なリスク因子として、高齢であることや糖尿病が知られていたが、末梢神経障害発症のバイオマーカーが報告されたのは今回が初めてのことである。
シュナイダーさんらは、E5103という試験で、タキソールを含む化学療法を受けた2204名の乳がん患者を対象に、遺伝子変異と、神経障害との関係を調査した。
追跡期間15カ月までの間に、613名にグレード2~4の神経障害が認められた。そして神経障害を起こす可能性は、特別な制御遺伝子の中にある2つのヌクレオチド(*)が、両方とも正常な場合には27パーセント、片方が正常で片方が異常の場合には40パーセント、2つともが異常の場合には60パーセントであることが示された。
この研究ではまた、高齢患者やアフリカ系アメリカ人が、より末梢神経障害を起こしやすいこともわかったため、現在、これらの患者群における遺伝子異常について、さらなる研究が進められている。またタキソールの投与スケジュールを変えることで、こうした患者群における神経障害を減らすことが可能かどうかについても、研究が進められている。
シュナイダーさんは、「この知見が再確認されれば、患者が神経障害を起こすリスクが高いのかどうかを、治療を推奨する前に知ることができ、タキソールを省いたり、他の薬剤を使用したスケジュールに変えることも可能になる。またこの遺伝子についての知見は、神経障害発症のメカニズムを明らかにして、毒性のない薬剤開発を行う上でも有用である」と述べた。
*タキソール=一般名パクリタキセル
*ヌクレオチド=核酸のこと。DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)の構成単位
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