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子供に親のがんをどう伝え、どう支えるか
子供のいるがん患者支援と米国で開発された「チャイルド・ライフ・プログラム」の中身

レポート:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
撮影:向井歩
(2008年10月)

写真:キャンサー・サバイバー・フォーラム「子供に親のがんをどう伝え、どう支えるか」

乳がんのセルフサポートグループ、VOL-Netと製薬会社のノバルティスファーマ株式会社との共催によるキャンサー・サバイバー・フォーラム、「子供に親のがんをどう伝え、どう支えるか」が7月19日に開催された。
がん患者が増える中で、子供に親のがんを伝えるべきなのか、伝えるとすれば誰が何をどう伝え、どう支えればいいのか。日本では、ようやく患者への情報提供が行き渡ったところで、子供への情報提供まではまだ手が届いていないのが現状だ。
この分野の牽引車、米国MDアンダーソンがんセンターのマネージャー、マーサ・アッシェンブレナーさんが立ち上げたKNIT(Kids Need Information Too)プログラムとその影響についてまとめる。

子供だって知りたい

マーサ・アッシェンブレナーさんは、カリフォルニア州立大学で児童発達学を学んだチャイルド・ライフ・スペシャリスト。13年前から、MDアンダーソンがんセンターの小児がん病院でチャイルド・ライフ・プログラムのディレクターとして勤務してきた。12年前、子供が4歳の時、乳がんと診断されて治療。当時は、アメリカにもまだ子供がいるがん患者に対する支援システムはなかったという。そこで、自らの体験を元に、KNITプログラムを立ち上げ、3年前からはそのマネージャーとして活動している。

KNITとは、Kids Need Information Tooの略。文字通り、子供だって知りたい、子供だって情報が必要なんだ、といった意味だ。講演に先立って、まず実際にがんになった親とその子供が何組か登場し、ともにがんを乗り越えた経験がビデオ上映された。親の病気が何であるかを知り、がんについて話し合い、また治療内容を含めて親が知っていることを子供に正直に話すことによって、不安や無用な誤解をもたせずにすむこと、親が前向きな姿勢を見せることで、人生の他の困難と同じように子供は親のがんという事実を乗り越えていくことが紹介された。

中でも、子供は生活が変わることがストレスになるのでできるだけいつもどおりの生活を続けること、そして「死んじゃうの」という子供の必死な質問に対しては、「私は死なないつもりよ」と答えるという解説が印象的だった。

親、人間に対する信頼を失う

マーサ・アッシェンブレナーさん
MDアンダーソンがんセンターの小児がん病院でチャイルド・ライフ・プログラムのディレクターをしているマーサ・アッシェンブレナーさん

続いて、マーサさんの講演が行われた。

彼女自身、自分ががんになるとは思っていなかったという。しかし、がんという病気は時に長期間の治療を必要とし、家族にもさまざまな影響が及ぶ。子供は、そこで必ず「何かが起きている」ことに気づくものだ。生活リズムの変化かもしれないし、親の体の異常や感情のゆらぎかもしれない。

ここで、もし事実を伝えず、沈黙を守ったらどうなるのか。子供はつらい事実を知らずに自由でいてほしいという考え方もある。しかし、マーサさんは言う。子供は自分を中心に考えるので、親に何か起これば、それは自分のせいだと思う。治療のために家をあけることが多くなれば、自分が悪い子だからだと思う。何かが起きている、その何かがわからないから恐怖が大きくなるのだ。人格形成においても、発達段階で親が何も話してくれなければ親に対する信頼を失い、ひいては人間に対する信頼を失いかねないという。

そこで、このプログラムでは診断から治療中、終末期まで支援を行う。基本的には子供の年齢に応じて、発達に応じたアプローチをする。といっても、その関わり方は慎重だ。最初はマーサさんのほうから患者に話しかけ、反応を見ながら、親のほうに子供に話す準備ができているかどうかを見ていく。まだ、子供について触れることができない人もいるが、ほとんどの人はやっと1番気になっていることを助けてくれる人が来たと喜ぶそうだ。

わかりやすく正確に伝える

では、どのように子供に伝えるのか。

マーサ・アッシェンブレナーさんの講演
ブドウの房でわかりやすくたとえるがんという病巣

がんに対する誤ったイメージを払拭するために、子供ががんという病気をどう理解しているか確かめておくことも必要だ。その上で、重要なのが「3つのC」を伝えること。「病気」というあいまいな表現ではなく、「がん」(Cancer)であると伝えることが大事だ。風邪などとは違う難しい病気であることを理解してもらうためだ。さらに、がんはうつらないこと(Catchy)、だからお母さんと同じアイスクリームを食べても大丈夫なこと、そしてがんは誰のせいでも何をしたから起こるわけでもないこと(Caused)を伝える。子供が自分のせいだと思うことをきちんと否定しておくことが大切なのだ。案外大きな子供でも、「自分が心配させたから免疫が低下してがんになったのだなどと、自分を責めることがある」という。

さらに、がんがどのようなものか、ブドウの房を引用して病巣のイメージを話したり、転移の様をハイウェイにたとえて説明する。「子供に伝える」といっても、ほとんど大人に話すのと同じレベルで、きちんと理解してもらうという姿勢が徹底している。

子供に安心感を与える

これだけ具体的に話した場合、子供の反応はどうなのだろうか。

6歳未満の小さな子供の場合は、わかったというだけで、病気と死を関連づけて考えることもないかもしれない。しかし、6歳から12歳ぐらいになると、親の死についても尋ねてくるし、がんや治療についても率直にいろいろな質問をしてくることが多い。ここで、死ぬつもりはないし、がんが消えるように強い薬も受けていること、質問に対しては誠実にできるだけ具体的に答える。

最も扱い難いのはティーンエイジャーで、この年の子供にとってまず大事なのは友人や自分のこと。自分の生活への影響を考えて、時には利己的な怒りをみせたり、秘密にされたことに怒ることもある。この年の子供には、「今度一緒に病院に行く?」など、行動の選択肢を与えることが大事だという。

治療内容を説明する時には、化学療法、放射線治療など正しい言葉を使い、化学療法ならテレビゲーム、放射線治療はレーザーなどにたとえてわかりやすく話す。テレビゲームで悪者をやっつけるように、抗がん剤が成長の早い悪者をやっつける。ところが、髪の毛も成長が早いので、一緒にやっつけられて髪の毛が抜けてしまうといった具合だ。これで、髪の毛が抜けるのはがんのせいではなく、治療のせいであることもわかってもらえる。 大切なことは、何かあれば必ず教えることを約束して、子供に安心感を与えることだ。たとえば、何かあってお迎えに行けない場合も、事前にわかっていれば子供は対応できる。子供にも心の準備が必要ということなのだろう。

さらに、学校の先生やベビーシッター、友人など、長く一緒に子供といる人や支援をしてくれる人にも事情を話して、協力を頼んでおく。このあたりもともすれば、周囲にがんという病気を隠そうとする傾向がある日本とは事情がだいぶ異なるようだ。


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