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不安や悩みを吐き出して力を抜けば、再度力を入れられる
患者とともに創る「乳がん女性のためのサポートプログラム」

監修:小松浩子 聖路加看護大学教授
取材・文:池内加寿子
発行:2008年3月
更新:2014年8月

  
小松浩子さん 聖路加看護大学教授の
小松浩子さん

乳がん女性の心のケアの必要性が叫ばれるなか、聖路加看護大学では、乳がん女性を対象としたサポートグループを定期的に開催。
患者さんの体験や知恵を分かち合う話し合いに医療者が伴走し、患者さんにもサポートプログラムの運営にも参加してもらいながら、より患者さんのニーズに沿った取り組みを行い、成果を挙げています。そのサポートプログラムを見てみましょう。

サポートプログラムをスタートさせた理由

写真:リラクゼーション法が録音されているカセットテープや冊子など
リラクゼーション法が録音されているカセットテープや冊子など

乳がん治療は日進月歩で進み、手術後の入院期間は短縮され、化学療法も外来で行われることが多くなっています。患者さんが医療者とコンタクトをとる時間が少なくなっている一方で、ホルモン療法などの長期にわたる治療中に、治療法や副作用、心の問題で人知れず悩むケースは少なくありません。

聖路加看護大学教授の小松浩子さんは、乳がん女性へのサポートの必要性を感じて、5年前からサポートプログラムの実践と研究をスタートしました。

「じつは13年ほど前から、がん全般の患者さんを対象とするサポートグループ『がんとともにゆっくり生きる会』を開いていましたが、乳がん体験者は、外来や在宅での治療期間が長く、体調や精神状態を自分で調整をしなければならないのに、どうしても子どもや家庭生活を優先しがちです。
日々苦闘している女性たちが、主体的・効果的に治療を継続し、充実した生活を送れることを目的として、乳がん体験者だけを対象としたサポートプログラムを始めたのです」

当初は、外来で化学療法を受ける人のために、副作用と上手につきあい、自分の歩調に合わせて生活するための冊子やビデオなど、学習ツール中心のセルフケアキットなどを作ってケアに利用していました。

治療と生活の両方の間を揺れながら走っている患者さんのために、ちょっと羽を休める心の止まり木のような場が必要だと考えて、試行錯誤を重ねながら、現在のプログラムに到達したそうです。

参加した人は通常のケアのみの人よりQOLが高い

図:サポートプログラム

乳がんサポートプログラムは、乳がん体験者同士7、8人が輪になって和気藹々と、テーマに沿って自由に話し合い、リフレッシュ・リラックスする活動です。

「乳がんの患者さんが小グループのなかで、がん体験にまつわるいろいろな思いを他の患者さんとやり取りすることで、知恵や元気や勇気などを伝達し合い、分かち合います。自分自身が語ることによってふだんおさえていた気持ちを解放でき、また他の人の声に耳を傾けることで自分の状況を客観的に知ることができるなど、個人もグループも非常によい状態になっていくといわれています」

このサポートプログラムのベースになっているのは、精神医学・臨床心理学の分野で「集団精神療法」「グループ療法」などと呼ばれている方法です。

1981年にデイヴィッド・スピーゲル博士が乳がん患者を対象に行った研究では、グループ療法に参加した群は、参加しない群に比べて不安やうつ状態が低下し、さらに1989年には、グループ療法参加群の生存率が高かったと発表しています。それ以来、世界各国や日本でも「支持的感情表出型グループセラピー」「認知行動グループセラピー」などさまざまな理論にもとづくグループ療法が行われるようになりました。

「化学療法を受ける乳がん患者さんを対象として5年前に行った私たちの調査でも、サポートプログラムに参加した人は通常のケアを受けた人より、化学療法終了直後の身体的機能が高く、また化学療法終了後3カ月目のQOLも高かったとの結果が出ています」

参加者はベテランから新人までさまざま

この結果を受けて、2004年からサポートプログラムを本格的に始動し、忙しい患者さんでも参加しやすいように、月1回土曜日に90分ずつ開催しています。

参加者は、聖路加国際病院で治療中または経過観察中の患者さんが中心ですが、他院からの希望者も受け入れ、毎回30名ほどが集まっています。この1年間の参加者の延べ人数は300人余(重複あり)で、年齢は20代後半から70代までと幅広く、手術後化学療法やホルモン療法を受けている人、手術後定期健診のみの人、再発・転移がある人など病状や治療法もさまざまです。サポートプログラムへの参加歴もそれぞれ異なり、3年間参加を続けているベテラン参加者や、治療を始めたばかりの新人参加者が混在しています。

「1グループの人数が多すぎると十分に話せない人が出てくるので、30名の参加者なら、7~8名ずつ4~5グループに分かれて話し合います。
話し合うテーマは、治療期の人を対象としていた初期には『治療について(治療法選択の悩み、副作用への対処法など)』『医療者との関係(上手なつき合い方など)』『家族との関係』などを設定しましたが、現在は『友人や同僚との関係』『生き方について(病気になって失ったもの、得たもの)』『これからのこと(再発などの不安、気分が落ち込んだときの対処法ほか)』などを加えて8テーマに増やしています。また、治療についての質問も多いので、体験や知恵を分かち合う場とは別に年に2、3回学習会を開催し、2本柱で運営しています」

学習会で今までに取り上げたテーマは、「リンパ浮腫」「セクシュアリティ」「ホルモン療法」などです。2月の学習会では、参加者の要望が多かった「再発」について、聖路加国際病院ブレストセンター長の中村清吾さんがレクチャーし、好評でした。

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