良い医療は、患者と医療者と行政が協力しあうことから始まる
患者よ! 声を上げよう。患者本位の医療の実現に向けて

文:山崎文昭 NPO法人日本がん患者団体協議会(JCPC)理事長
発行:2005年5月
更新:2019年7月

  
山崎文昭さん
日本がん患者団体協議会理事長の
山崎文昭さん

日本のがん医療の現状は、欧米の水準と比べて大きく遅れを取っている。

腫瘍内科医数は圧倒的に不足し、世界の標準的な抗がん剤が、未承認や保険適応外で治療を受けられない現実がある。

日本のがん医療は今、大きな転換を迫られている。

しかし、今までのように医者任せ、行政まかせでは患者本位の医療は望めない。

よりよいがん医療を求めるには、患者自身が声を上げ、患者・医療者・行政が三位一体となって医療改革を行うことが必要だ。

がん患者会11団体が検討会に要望書を提出

写真:「がん医療水準均てん化の推進に関する検討会」

「がん医療水準均てん化の推進に関する検討会」で発言する国立がん研究センターの垣添忠生総長。 右奥が山崎さん

『がん医療水準均てん化推進に関する検討会』という名称の検討会が厚生労働省内に設置されています。

誰でも知っているように、病院間にはがん医療格差が存在していて、平均以下の治療成績の病院が平均成績になると、がん患者の6.5パーセントがさらに救われ、これは年間がん患者60万人のうち4万人 (日経メディカルによる)だそうです 。国民の誰もが良い病院にかかりたいと願っているのに情報もなく、医療格差も公然の秘密として放置されてきました。良い病院に行くことができれば助かった数が4万人では、国民は納得できるはずがありません。がん医療全体の成績向上(均てん化)は、がん患者会すべての大きなテーマです。

この問題に対して、全国のがん患者会(11組織)がネットワークを作り、共同して活動をして行こうということになりました。このネットワークで、がん病院の治療格差解消に対する要望書を提出しました。それを元に厚生労働省と2度ほど意見交換会を行い『お互いの方向性はほぼ一致』という結論を携えて、その一員として僕は3月7日にがん医療水準均てん化推進に関する検討会の起草委員会によるヒアリングを受けました。報告書起草委員会とは、がん医療水準均てん化推進について総括する報告書を作成する委員(6名)のことです。

患者会代表とのディスカッションは情報公開について絞って話し合われましたが、僕は前半は何も発言をせずに聞いていました。委員に対して話したいことも無いし、反論も無かったからです。一番最初の発言は、彼らが言いたいことを言った後に発言しました。

「みなさまにお願いですが、問題点の指摘や現状の把握は分かっているので結構です。どうやってこの問題を解決するか、前向きで具体的な戦略についてお話し合いをしましょう」

たまたま座長が国立がん研究センターの総長だったので、日本のナショナルセンターとしてのホームページによる情報公開についてお聞きしました。彼は最初に「患者さんに満足いただける情報を提供しているとは思っていない」と前置きをしつつ「毎月180万ビューのアクセスがある」、「専任者はおらず、ボランティアで職員に頑張って貰っている」という内容のお話しをされました。僕が「最近はいつサイトを見ましたか?」とお尋ねすると、「更新したら見ています」というお返事でした。そこで「では、公開されているプロトコル(治療計画)はいくつですか?」と聞いてみると「詰問されても困ります」と言ってムッとしてしまいました。

「詰問している訳ではありません。医療提供者と患者の情報公開に対する定義を1つにして論議しないと、意味がないと言いたかっただけです」と手短に説明しました。問題が分からずに何もしなかったのならば問題点を指摘してあげれば済みますが、それを知っていて放置するのは確信犯です。

今会議の冒頭で僕は「このがん医療機関の格差は、薬害エイズと全く同じ構造だ」と指摘しましたが、このことを指して述べたのです。国立がん研究センターには毎年予算が計上されて交付されているはずです。それでサイト管理の専任者を置くことも出来るでしょう。言い訳だけをしていたら、いつになっても進みません。日本のがん医療が遅れている原因を見たような気がしました。

[均てん化検討会へ提出した要望書 ※共通要望内容]

  • 厚生労働省内にがん治療関連の本部を作り、情報・政策を一本化する
  • がん医療水準均てん化の推進に関する検討会を5回のみの検討会ではなく、情報収集・検討機関として恒常的に設置するものとする
  • がん情報を提供する情報センターの設置。運営に有識者、患者を参加させ、患者に役に立つものを作ること(ガイドライン、全国成績、施設別データ、臨床試験リストなどをデータベース化し、インターネットにて公開)
  • 認定医を2つの学会が作ろうとしているが、一本化させる
  • 政府は5年でがん死亡者を20パーセント減らすと公約している。今回の均てん化で見込まれる成果の具体的な数値を出す
  • 検討会には、受益者としての医療消費者の代表を入れる
  • 全がん協調査を、対象をがん拠点病院に拡大、また、匿名でなく実名開示する
  • 診療報酬に格差をつける。質の良いがん診療へは診療報酬加点を実施。それを想定した実施案の早期とりまとめ
  • がん専門スタッフトレーニングセンターの設置(臨床腫瘍医、専門看護師、放射線物理士などの育成)

全体をまとめて方向性を打ち出す役割

他の検討会に参加しても同じですが、この手の会議はメールでやり取りすれば済んでしまうような内容を時間を使って討議する無駄な会議です。そもそも会議の叩き台は事務方(厚生労働省)が作り、会議(2時間ぐらい)は各委員がそれに対して質疑応答するだけなのですから。

これらの会議を効果的にするのには、最初に役割をハッキリと決めることからスタートすべきです。各委員は国内でも有数の頭脳ですから、検討会自体は全体をまとめ方向性を打ち出すコントロールセンターとまずは位置付けます。改善案等の意見はその下部組織として2つぐらいのグループを作り、それぞれに問題点の指摘と戦略的な対応策を出させる。それもコスト優先、スピード優先、効果優先と3つの要素に対して対策を3つぐらいに絞って提出させればベストです。また、患者会や医療機関も公募により提出可能にすれば、なお面白いですね。

これらの中からどれを選択するか、または再編してベストの戦術を打ち出すか、その機能を提供するのが検討会だと思っています。

欧米と日本の同時承認が根本的解決策

国内で使えない薬は国内未承認薬と適応外に分かれます。とても分かりにくいですが、国内未承認薬とは日本で承認されていない(販売されていない)薬です。適応外とは、日本では保険の承認は疾患ごとに決められるので、胃がんで承認になった薬は胃がんにしか使えず、その他のがんには適応外で使えないことをいいます。肺がんに保険診療として使うには別途肺がんに対する承認が必要になります。よって、国内にその薬があり、海外でその疾患に対して治療薬として使われていたとしても、日本で適応していなければ使えないという事実があります。

この問題に対して、2002年4月より活動を開始しました。抗がん剤を作っている全ての製薬企業を訪問し承認申請をお願いしたり、厚生労働省とヒアリングを重ね、2003年末には、抗がん剤併用療法に関する検討会設置を厚生労働省が決定し、状況は大きく改善されました。

国内には無い未承認薬については、これまでは患者さんが個人輸入して使用しているのが現状で、それは混合診療となり、これまで保険が利いていた医療も含めて全額自己負担となってしまいます。

がんは放置すれば必ず命にかかわる疾患ですから、国内承認薬で全ての治療をやり尽くしてしまった患者さんなら、海外で実績のある薬ならば使ってみたいと思うのは自然です。しかし、治療代が高額になることや、未承認薬を使った治療がどこへの病院で受けられるのか、必要な情報が全く提供されていませんでした。

この問題に対しても以前より働きかけを行なっており、今年になってやっと行政も『未承認薬使用問題検討会』を立ち上げました。この検討会が発足したのは嬉しいのですが、欧米で承認される薬の後追いでは、いつになっても薬における欧米と日本の格差は縮まりません。

根本的に解決をするには、欧米諸国と日本が同時承認する方法以外にはありえません。そのためには欧米と同時に日本で臨床試験を行うか、欧米の臨床試験に日本人を参加させてそのデータで承認審査を行なうなどの仕組みを作ることが必要でしょう。

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