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個人情報保護法によってカルテの取り扱いはこう変わる

坂本 団 大川・村松・坂本法律事務所。大阪弁護士会所属
(2005年5月)

  
坂本団さん
医療問題に詳しい弁護士の
坂本団さん

医療事故が多発するなかで、現場でカルテが改ざんされているのではないかとの批判がある。

2005年4月から個人情報保護法が施行されることによって、医療機関はカルテや看護記録、レセプト(診療報酬明細書)など、医療情報を原則開示しなければならなくなった。

開示の義務化で医療の信頼性を高め、患者本位の医療につながるのではないかとの期待も高い。

医療問題に詳しい坂本円弁護士に、法の骨子と患者が気をつけるべき具体策を解説いただいた。

自分のカルテを、なぜ見ることができないの?

写真:「カルテ改ざん」に関するシンポジウム
2005年3月12日に大阪府立労働センターで行われた、「カルテ改ざん」に関するシンポジウム。「『個人情報保護法』医療情報の扱いはこう変わる」のテーマで坂本弁護士が講演した

2005年4月から、個人情報保護法が全面的に施行されます。これにともない、カルテなど診療記録の取り扱いが変わります。

本来、カルテに書いてある内容が、患者にとっての個人情報であることは明らかです。「自分の情報を見る権利」は、憲法上のプライバシー権の内容として保護されていることです。

ところが、おかしなことに、これまで日本では、「自分のカルテ」を見ることが難しかったのです。医師の間では、カルテが“医師のメモ”であって、“何を書いてもいい”、場合によっては“適当に書き直してもまあいいか”という意識さえもあったのではないかと思います。昔から伝統的に、「患者に見せる必要はない」「見せられない」とよく言われていたのです。

自分に対してどんな医療行為がなされてきたのか、今後どんな治療を行うことになるのか。それらを患者がきちんと把握し、治療を主体的に選択するためには、「自分のカルテ」に記載されている内容を知っておく必要があります。

2003年9月に厚労省が「診療情報の提供等に関する指針」を出したものの、患者が「自分のカルテ」を見るのに非常に苦労する状況は変わりませんでした。

ですから、カルテの開示については、法制化して、開示を義務化することが必要だと考えられていました。

一方、国外に目を向けると、アメリカでは、患者が自分の医療記録を閲覧する権利が連邦法などで認められています。ドイツでも、「患者が医師に対して医療記録の閲覧請求権を有する」ことを連邦裁判所判決が認めています(1982年)。

一切の診療記録開示は、法律上の「義務」に

個人情報保護法ができたきっかけは、いわば“外圧”です。

1995年、EU(ヨーロッパ連合)が「個人データ保護指令」を出します。この中で、EU加盟国に対し、他国との間で個人情報のやりとりをする際には、自分の国と同程度の個人情報の保護法制を整えているといえなければ、その国との間で個人情報のやりとりをしてはいけない、と定めました。

EU加盟国と取引ができなくなるおそれから、日本は大慌てで2003年5月、個人情報保護関連4法を作りました。実は個人情報保護法は1種類の法律ではなくて、その対象が、公的なものか、あるいは民間のものなのか、などによって、4種類に分かれています(表1参照)。

[表1 個人情報保護法の適用範囲について]
  • 行政機関個人情報保護法…国の機関が対象
  • 独立行政法人個人情報保護法…独立行政法人が対象
  • 個人情報保護条例…公立病院が対象
  • 個人情報保護法…私立病院が対象(ただし、5000件以上のデータ保有)

この第25条に、個人情報を取り扱う事業者は、本人から個人データの開示を求められたとき、すみやかに開示しなければならないと明記されています(表2参照)。この「個人データ」に、カルテやX線写真、ビデオテープ、その他一切の診療記録が含まれるのは、明らかです。開示は法律上の「義務」となります。

[表2 個人情報保護法]
  • 第25条
    個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示(当該本人が識別される保有個人データが存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない(以下省略)
  • 同第3項
    開示等の求めは、政令で定めるところにより、代理人によってすることができる
  • 同第4項
    個人情報取扱事業者は、前三項の規定に基づき開示等の求めに応じる手続を定めるに当たっては、本人に過重な負担を課するものとならないよう配慮しなければならない

口頭での開示拒否にあったら、文書での回答を請求する

開示の請求手続きは、本人はもちろん代理人でもでき、請求する理由をたずねたり、多額の手数料をとったりすることを禁止しています(第29条第2~4項)。具体的には、病院の窓口に行き、請求します。費用はコピー代程度です。少なくとも5年前までのカルテが、病院に保存されています。

当面は、患者が病院の窓口で追い返されるなど、混乱も予想されます。その場合、文書で請求し、回答を文書でもらうようにします。病院側は原則として文書で回答しないといけないことになっているので、もし口頭だけで患者を追い返すと、そのことだけでも違法となります。窓口でのやりとりを録音しておくといいでしょう。

病院がカルテなどを開示しない場合、厚労相が監督する権限を持っています。

1つは「報告の徴収・助言」。ある病院について、カルテを出してくれないという苦情が寄せられると、厚労相が病院に報告を求めます。それに対して病院がウソの報告をすれば、30万円以下の罰金という罰則が用意されています。

さらに「勧告・命令」があります。違反を是正するよう勧告ができ、これに従わない場合は命令を科します。なおかつ違反状態が続くと、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。

また、法律違反は損害賠償請求の対象となります。病院側が慰謝料を払わなければならないのは、明らかです。

“抵抗勢力”には、カルテをどんどん活用することで対処

ただし、問題点もあります。

1つは、個人情報保護法が対象にしている個人情報は「生存する個人に関する情報」なので、遺族からの請求が難しいのではという懸念です。

しかし、一般的には死者からの開示請求は考えられないことから、個人情報保護法にはこう規定されているに過ぎません。医療情報は、死者についての情報であると同時に、「生存している遺族自身に関する情報」でもあります。このような解釈を定着させていかなければならないと思っています。

もう1つは、個人情報を保有している数が5000件以下の小規模な事業者が「個人情報取扱事業者」から除外され、法律上の開示その他の義務を負わないことです。

しかしながら、医療情報が患者にとって重要なのは、大病院でも小さな医院でも同じ。規模にかかわらず、きちんと開示するよう要求する必要があります。

法律ができても、誰も使わなければ、カルテが書き直される現状や書き直しても構わないという医師の意識は変わりません。日常的に「自分のカルテ」を見るなど、どんどん活用してほしいと思います。

今後、開示に抵抗する病院が出てくる可能性があります。それを許さないためには、問題事例については苦情申し立てをして、きちんと指導させていく。そんな事例をどんどん作っていくのがカギだと考えています。

(構成/塚田真紀子)

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