治癒力を引き出す がん漢方講座
第11話 抗がん剤の副作用を軽減する漢方薬

福田一典
発行:2007年1月
更新:2013年4月

  
福田一典さん

ふくだ かずのり
銀座東京クリニック院長。昭和28年福岡県生まれ。熊本大学医学部卒業。国立がん研究センター研究所で漢方薬を用いたがん予防の研究に取り組むなどし、西洋医学と東洋医学を統合した医療を目指し、実践。

抗がん剤で正常組織もダメージを受ける

抗がん剤はがん細胞だけでなく、骨髄細胞や免疫組織や消化管粘膜など細胞分裂の盛んな組織にもダメージを与えます。その結果免疫力の低下や、白血球や血小板の減少、貧血、食欲低下、下痢、吐き気、脱毛などさまざまな副作用が起こります。

抗がん剤治療による吐き気や白血球減少などの副作用を抑える治療法(支持療法)も進歩してきましたが、体力や抵抗力を高めるという観点からはまだ十分ではありません。たとえば、制吐剤を用いて、抗がん剤による吐き気を止めることはできますが、吐き気だけを止めても食欲が亢進するわけでも、消化吸収機能が高まるわけでもありません。骨髄の幹細胞に直接働きかけて白血球減少を食い止める薬もありますが、栄養状態の悪化や体力の消耗がひどくなれば、白血球の数は正常でも体の抵抗力はなくなります。

西洋医学的な支持療法を使用して目にみえる副作用だけを対処していても、いつのまにか消化管機能の低下や失調で、食事が取れなくなり、抵抗力がなくなってしまうということはよく経験されます。

抗がん剤治療中は、正常組織のダメージの回復のためにタンパク質は通常の50パーセント以上が必要になり、ビタミンやミネラルも通常よりも多く必要になります。したがって、栄養価の高い食事が推奨されています。このような食事療法に加えて、滋養強壮作用や組織の血液循環や新陳代謝を良くする漢方治療を適切に利用することにより、抗がん剤の副作用を軽くすることができます。

抗がん剤治療の副作用を軽減する漢方治療

抗がん剤による骨髄・免疫組織・消化管粘膜などの障害は、漢方医学的観点からは主として「気血の損傷(=生命エネルギーと栄養状態の低下)」、「脾胃の失調(=消化吸収機能の異常)」、「肝腎の衰弱(=諸臓器機能の低下)」などと考えられます。

したがって、漢方医学的な治療原則は、健脾(=消化吸収機能の改善)・補気(=体力・気力の補給)・補血栄養状態の改善)による正気(=体の抵抗力)の保持と、駆オ血(=組織の血液循環の改善)による組織修復の促進が基本になります。

具体的には、十全大補湯・人参養栄湯・補中益気湯などの補剤に、血液循環を良くする駆犬血薬を加えた処方です。治療前の体力の虚実がどうあろうとも、抗がん剤治療を行うことにより気血は損耗して基本的に不足状態(=虚)に傾くため、補気剤や補血剤などの補剤の使用が中心になります。体液の消耗があるときには滋陰剤(体液を補い体を潤す薬)、炎症反応や諸臓器の障害があるときには清熱解毒剤(抗炎症作用や解毒作用を持つ薬)などを併用していきます。骨髄のダメージによる貧血や白血球・血小板の減少には、高麗人参・黄耆・霊芝・女貞子・地黄・当帰・枸杞子・鶏血藤・阿膠などが有効と報告されています。肝臓障害には柴胡・鬱金・茵チン蒿・山梔子・五味子・半枝蓮・甘草などが用いられます。

日本ではエキス製剤を用いた臨床的検討が多く報告されています。骨髄機能の低下に十全大補湯や人参養栄湯、腎障害に柴苓湯、肝臓障害に小柴胡湯・茵チン蒿湯、全身倦怠感や食欲不振には補中益気湯、吐き気に小半夏加茯苓湯、下痢に五苓散・半夏瀉心湯、神経障害に牛車腎気丸など多くの漢方薬が化学療法の副作用対策に有効であることが報告されています。

このように抗がん剤治療の欠点を、症状に応じた適切な漢方治療で補うことは、がんの統合医療において有効な手段といえます(図参照)。

駆オ血:オは病だれに於
茵チン蒿:チンは草かんむりに陳

図

抗がん剤は正常組織にダメージを与えることによって様々な副作用を引き起こす。適切な漢方治療を併用することによってダメージの回復を促進し、症状の改善や副作用の軽減が期待できる

細胞保護作用をもつ柴胡剤

抗がん剤は正常細胞を障害して、腎臓や肝臓や消化管などの臓器障害を引き起こすことがあります。

このような副作用に対して、細胞保護作用や抗炎症作用のある柴胡を含む漢方薬の有効性が報告されています。腎炎やネフローゼ症候群などの腎疾患に使われる柴苓湯が、シスプラチン(商品名ブリプラチンもしくはランダ)の腎障害に対して予防・改善効果があることが報告されています。シスプラチンは腫瘍の縮小効果の高い抗がん剤ですが、腎障害や吐き気などの副作用によって使用が制限されることがあります。

一方、柴苓湯には抗炎症作用・活性酸素の消去や生成抑制などの抗酸化作用・細胞膜の安定化などによる細胞保護作用、血小板凝集の抑制、腎血流改善、利尿作用などの薬理作用が報告されており、薬剤による腎障害を予防・改善する効果が動物実験で示されています。そこでシスプラチンの腎臓障害に対する柴苓湯の効果が臨床例で検討されました。

その結果、柴苓湯がシスプラチンの腎障害を改善することが証明され、嘔気や嘔吐などの消化器症状に対しても有効という報告がなされています。

柴苓湯の使用目標(証)である悪心、嘔吐、尿量減少、浮腫、タンパク尿、食欲不振は、シスプラチンの副作用症状と類似しています。抗がん剤の種類によって発生する副作用の症状は異なりますが、それぞれの症状に合わせた漢方薬を用いると、個々の抗がん剤の副作用に対して有効に対処できると考えられます。

例えば、タキソール(一般名パクリタキセル)に特有な副作用として、関節痛、筋肉痛、しびれなどがあります。これらの副作用に対して鎮痛剤、抗炎症剤、ステロイド剤などが試みられていますが、効果が十分とはいえません。関節痛や筋肉痛に使用される芍薬甘草湯や桂枝加朮附湯などが有効という報告があります。しびれに使う牛車腎気丸の有用性も報告されています。このように、証に合わせた漢方治療が抗がん剤の副作用症状の改善に役立つことがあります。

自己判断でのハーブや漢方薬の使用は危険

前回、手術前のハーブの使用は問題があることをお話ししました。抗がん剤治療中も、ハーブや漢方薬の使用には多くの注意点があります。

抗がん剤治療中は、高麗人参やニンニクや生姜のようなものでも、多量の摂取は危険であると警告されています。その理由は、これらが、薬物代謝酵素の活性に影響したり、血小板凝集を阻害する作用があるからです。この問題点については次回詳しく解説しますが、抗がん剤治療中は、自己判断で漢方薬を使用するのは危険です。がん治療や漢方薬に詳しい医師や薬剤師に相談して利用するべきです。

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