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副作用を抑えるがんのクロノテラピー(時間治療) 
夜間に抗がん剤投与の治療が進行大腸がんや卵巣がんに効果

監修:嶋田紘 横浜市立大学医学部第2外科教授
監修:吉山友二 共立薬科大学臨床薬理助教授
取材・文:松沢 実
発行:2004年2月
更新:2013年4月

  

進行大腸がんの
クロノテラピーに取り組んでいる
横浜市立大学医学部第2外科教授
嶋田紘さん

がん細胞の分裂・増殖の日内リズムを利用する

[骨髄細胞のDNA合成の日内リズム]

このように骨髄細胞は昼間さかんに分裂・増殖する。だから、
昼間抗がん剤の治療をすると副作用が強まることが予想される

がんの化学療法の分野で最近、夜間の抗がん剤投与など生体リズムに着目した時間治療(クロノテラピー)が大きな注目を浴びている。

周知のように、がん細胞を殺傷する抗がん剤は、正常細胞に対しても毒性を持っているものがほとんどだ。抗がん剤の投与量を増やせばがん細胞の死滅がはかれるが、正常細胞にも毒性がもたらされるので投与には限界がある。クロノテラピーは、がん化学療法のこのジレンマを克服する重大なカギになるのだ。

人間の身体の中には体内時計が存在し、さまざまな身体の中の働きは体内時計に基づいて1日24時間の日内リズムを刻む。たとえば、1日のうちで体温や血圧がもっとも低下するのは早朝だが、昼になるにつれ高まっていく。最高になるのは夕方で、その後、低下し、再び朝方に最低になる。

正常細胞が分裂・増殖する日内リズムも体内時計に基づき、朝から昼に向かって活発化し、夕方から夜にかけて低下し、真夜中にもっとも沈静化する。一方、がん細胞の分裂・増殖リズムは一定しないが、真夜中、寝ているときは盛んになり、昼間は低下することのほうが多い。この時間のずれを上手に利用すれば、正常細胞への毒性を極力抑え、抗がん剤の投与量を増やしてがん細胞により大きなダメージを与えることができる。実際、横浜市立大学医学部付属病院第2外科では、進行大腸がんに対してクロノテラピーによる術前化学療法を行い、良好な治療実績をあげている。

術前化学療法=手術の前に化学療法を行い、がんを縮小させてから手術を行う

夜の午後10時から抗がん剤を投与し徐々に増やす


進行大腸がんに対する化学療法のキ ードラッグ

横浜市大病院では、肝臓に転移した進行大腸がんの患者20人を対象に、手術による肝転移巣の切除を目的とした抗がん剤による肝動脈注入療法(肝動注)を行った。そのうち4人の患者にクロノテラピーによる肝動注、16人の患者に通常の肝動注を行い、両者の治療効果を比較検討した。ちなみに肝動注とは、太股のそけい部の動脈からカテーテル(細い管)を挿入し、その先端を肝動脈まで到達させ、がんの肝転移巣に直接抗がん剤を大量に投与する方法だ。

「肝動注に用いる抗がん剤は5-FU(一般名フルオロウラシル)+アイソボリン(一般名レボホリナートカルシウム)です。クロノテラピーによる肝動注は、夜の午後10時から抗がん剤を投与し、徐々に増やして、翌朝の午前4時に最大投与量となるように薬剤投与速度を設定しました。その後、次第に投与量を減らし、昼前の午前10時に終了するように投与しました」と同大医学部第2外科教授の嶋田紘さんは説明する。

通常の肝動注を受けた患者のうち、半数(8人)はさらにブリプラチン(一般名シスプラチン)を加えて3剤併用の投与をした。

抗腫瘍効果が上がれば生存率の低下を防ぐ

「クロノテラピーの治療効果はめざましいものでした。副作用が抑えられたことから、通常の肝動注に比べて1.5~2.0倍の量の抗がん剤を投与することができたのです」(嶋田さん)

抗がん剤の投与量が増えれば、当然、抗腫瘍効果も上がる。事実、腫瘍の縮小率が50パーセント以上にのぼる効果を示した患者は、通常の肝動注を行ったグループで16人中6人(38パーセント)に対して、クロノテラピーを行ったグループでは4人中3人(75パーセント)だった。反対に、悪心や嘔吐、白血球の減少等の副作用の発現率は、グレード3(重篤な副作用)以上が通常の肝動注グループで13~25パーセント認められたのに対して、クロノテラピー・グループでは1人もいなかった。

「肝動注を行った20人の患者さんのうち、結局、手術可能となり肝転移巣を切除できたのは12人。その中でも術後、予後が良好となったのが、腫瘍が半分以下に縮小した患者さんでした」(嶋田さん)

つまり、クロノテラピーによる抗腫瘍効果が上がれば生存率(累積生存率)の低下を防ぎ、再発率(残肝無再発率=残った肝臓に再発していない患者の割合)も抑えられるというわけだ。

68歳の木原澄江さん(仮名)が横浜市立大病院第2外科でクロノテラピーによる肝動注を受けたのは昨年(2003年)4月。原発巣の大腸がんは手術で切除したが、肝臓へ飛んだ転移巣は手術できないほど巨大だったことから抗がん剤治療を始めた。

「木原さんの左葉の肝転移巣は直径13センチくらいの大きさでした。しかし、クロノテラピーによる肝動注を始めたら、次第に転移巣が縮小し、4カ月後には4分の1になったのです。右葉の転移巣も手術可能なほど小さくなりました」(嶋田さん)


木原さんは大腸がんの多発性肝転移。CTでも左葉の肝転移巣が直径13cmほどある(写真左、黒い影の部分)のがわかる。
クロノテラピーによる肝動注療法をしたところ、4カ月後には4分の1ほどに小さくなった(写真中央)

腫瘍マーカーのCEA(がん胎児性抗原)の値は、36.3から8.1まで急速に下がっていった。木原さんはその後、肝臓の右葉の転移巣を再手術で切除し、左葉はラジオ波焼灼療法で焼き、現在も元気に外来に通ってきているという。


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