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新薬や免疫チェックポイント阻害薬も1次治療から 胃がんと診断されたらまずMSI検査を!

監修●室 圭 愛知県がんセンター副院長/薬物療法部部長
取材・文●菊池亜希子
発行:2024年2月
更新:2024年2月

  

「MSI-Hか否かは予後や術後補助化学療法の成績、1次治療の免疫チェックポイント阻害薬の効果に大きく影響しますので、胃がんと診断されたらすぐ、MSI検査をすべきと考えます」と話す室さん

昨年(2023年)10月、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2023)において、胃がん薬物療法の今後の方向性を示唆する試験結果がいくつか報告されました。免疫チェックポイント阻害薬を1次治療から追加する試験と新たな分子標的薬のアップデート試験で明らかな有効性が確認されたのです。それらの試験結果と今後の胃がん薬物療法の展望について、愛知県がんセンター副院長/薬物療法部部長の室 圭さんに話を聞きました。

HER2陽性胃がんの1次治療が変わるのでしょうか?

胃がんの薬物療法(1次治療)は現在、細胞傷害性抗がん薬を用います。肺がんなど多くのがん種で免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が登場する中、胃がんではICI単剤による臨床試験においてなかなか良い結果が出ない状況が続いてきたからです。そんな中、従来の標準治療にICIを追加する形の複数の臨床試験で有効性が確認されたことが、昨年のESMO 2023で報告されました。

その1つが「第Ⅲ相KEYNOTE 811試験」の3回目中間解析結果です。

局所進行または切除不能のHER2陽性、胃・食道胃接合部がんの1次治療として、化学療法(フルオロウラシル+シスプラチン or カペシタビン+オキサリプラチン)+抗HER2抗体薬ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)にICIのキイトルーダ(同ペムブロリズマブ)を上載せすることで無増悪生存期間(PFS)が延長したことが報告されました。

無増悪生存期間(PFS)中央値は、キイトルーダ群(化学療法+ハーセプチン+キイトルーダ)10.0カ月 vs. プラセボ群(化学療法+ハーセプチン+プラセボ)8.1カ月。PD-L1発現1%以上(CPS1以上)に限ると、キイトルーダ群10.9カ月 vs. プラセボ群7.3カ月。奏効率などサブグループ解析でもキイトルーダ群優位の結果でした。ただ、CPS1未満においてはキイトルーダ群の有効性は確認されませんでした(図1)。

「対象がHER2陽性胃がんなので、現在の標準治療は化学療法+ハーセプチンです。抗HER2療法の進化によって、ハーセプチン以外にADC薬のエンハーツ(一般名トラスツズマブ デルクステカン)も使えるようになり、3次治療とはなりますがかなり好成績が得られています。今回、1次治療として、化学療法+ハーセプチンにキイトルーダを加えることでHER2陽性胃がんはさらに生存延長が期待できる集団になったのです」と愛知県がんセンター副院長/薬物療法部部長の室 圭さんは指摘します。

また、「HER2陽性では、PD-L1の高発現(陽性)例が多いことがわかっています」と室さん。実際、KEYNOTE 811試験に参加したHER2陽性患者さんの約8割でPD-L1が1%以上発現していました。つまり、HER2陽性はICIが奏効しやすい状況にあると言えるのです。

「HER2陽性胃がんに対して、キイトルーダを上載せする療法は、CPS1以上という括りで欧米ではすでに承認されています。現在まで、第Ⅲ相試験でPFSでの有効性が示された段階ですが、日本は今春にはOSの最終解析が出て承認申請が行われるでしょう。順調に進めば来年には承認されると思います。その際には欧米と同様、おそらくCPS1以上という条件がつくのではないかと想定しています」(室さん)

ただ、胃がんにおけるHER2陽性は2割ほど。約8割のHER2陰性胃がん薬物療法(1次治療)の標準治療は、化学療法単独、もしくは化学療法+オプジーボ(一般名ニボルマブ)です。現在、HER2陰性の切除不能または転移性胃がん・食道胃接合部がんの「第Ⅲ相KEYNOTE 859試験」で有効性が示されたことを受けて、1次治療として化学療法+キイトルーダが承認申請されており、今年中には承認される見込みです。

MSI-H陽性はオプジオーボ+ヤーボイ併用が有効?

進行・再発胃がんにおけるもう1つの話題は、MSI-H陽性の進行胃・食道胃接合部がんの1次治療として、オプジーボ+ヤーボイ(一般名イピリムマブ)の2種類のICI併用療法に高い有効性が示されたことです。ESMO 2023で、室さんが第Ⅱ相医師主導治験〝NO LIMIT〟の主解析結果を発表しました。

「2週おきにオプジーボ、6週おきにヤーボイを投与し、最後の登録者が1回目の投与を受けてから18週経過した時点で主解析に入りました。副作用や病勢進行のため投与を中断したケースも含め、奏効率62%、完全奏効率10.3%という期待通りの結果となりました」と室さん。腫瘍縮小がほとんどの患者さんで認められ、その多くで効果が持続的だったそうです(図2)。

ただ、NO LIMIT試験の登録者は29人と、非常に少ない症例数での試験でした。「そもそも進行(ステージⅣ、再発例の)胃がんのMSI-Hは非常に少なく、5%強ほどです」と室さん。2年の歳月をかけて935人をスクリーニングした結果、MSI-H陽性率は5.6%。そのうち、29名がNO LIMIT試験に参加したのです。とはいえ、「日本人に多い胃がんでの5.6%という数値は、決して無視できない数です」と室さんは指摘します。

MSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性)=MSI-High を示す細胞はDNAの修復システムに異常があり、細胞に多くの遺伝子変異が起こり、がんが発生しやすい状態と考えられる

なぜ胃がんとわかったらすぐMSI検査を?

「ステージⅣ・再発胃がんのMSI-Hは5.6%ですが、ステージⅡではおよそ15%、ステージⅢではおよそ10%程度と報告されていて、早期になるほどMSI-Hの頻度が高いことがわかっています。また、早期のMSI-Hは予後がよく、再発しにくい。そしてICIの効果が非常に高い集団と言えるのです」と室さんは述べた上で、次のように強調しました。

「進行胃がんの場合、MSI-Hならば最初から必ずICIを使うという戦略を早く全国共通にしなければいけません。1次治療前のMSI検査に関して、日本ではまだ一部の施設でしか行われていない状況です。さらに、MSI-Hか否かは胃がんの自然予後や術後補助化学療法の選択、将来的には周術期のICIを用いた治療にも影響します(後述)ので、私は、現在の大腸がんの状況と同様に、1次治療前と言わず、胃がんと診断されたらすぐMSIを検査すべきと考えます」

周術期にも、今後は免疫チェックポイント阻害薬?

近い将来、周術期治療にもICIが登場してくると思われます。ESMO 2023では、切除可能な胃・食道胃接合部がんを対象に、周術期の化学療法にイミフィンジ(一般名デュルバルマブ)を追加投与する「第Ⅲ相MATTERHORN試験」の中間解析結果も報告されました。

MATTERHORN試験は、術前にFLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)4回+イミフィンジ2回投与後、手術を経て、術後に再びFLOT4回+イミフィンジ2回、その後はイミフィンジを4週おきに10回投与するイミフィンジ群と、術前術後にFLOT+プラセボを投与するプラセボ群に、患者を1:1に割り付けて行われました。

主要評価項目は無イベント生存期間(EFS)、副次評価項目は完全奏効(pCR)率と全生存期間(OS)と設定。今回、中間解析で報告されたpCR率では、イミフィンジ群19% vs. プラセボ群7%と、イミフィンジ群の明確な有効性が示されました。

「主要評価項目EFSの結果が今年度中には出てくるかもしれません。順調に進んで良い結果が出れば、近い将来、胃がんの周術期治療にもICIが使えるようになるでしょう。再発を少しでも防ぎたい我々医師にとっても、周術期からICIを使えることは非常に大きく、期待しています。加えて、MSI-Hであるなら、ICI併用治療は非常に高い効果(高いpCRと良好なEFS)が期待できると思います」と室さんは話します。

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