経口的栄養補助、消化酵素補助(補充)剤、在宅経腸栄養など方法は様々ある
体重を維持してこそ治癒につながる がん治療には「栄養」が欠かせない
と話す大村健二さん
かつては胃がんなど消化器系の手術で臓器を切除すれば、体重が減ってやせ細るのは当たり前とされていた。しかし、今はそれが誤りで、治療中に体重を減らさないことが治癒につながるとわかっている。また消化器系以外でも、化学療法や放射線療法を行う上で適切な栄養摂取が欠かせなくなっている。
体重測定は がん治療の大前提
がんの治療を行う大前提として、「患者さんの体重を測っていただきたい」と語るのは埼玉県上尾市にある上尾中央総合病院の外科・腫瘍内科顧問で、栄養サポートセンターセンター長でもある大村健二さんだ。
体重を測る理由は、それによって栄養が足りているかどうかがわかるからだ。
胃がん、食道がん、膵がんなど、とくに消化器系の手術後は、栄養摂取を工夫しないとほとんどの人で体重が減ってしまう。臓器欠落症状が起きるからだ。食べたものを溜めておくリザーバー機能が低下して、十分な量の食事が摂れなくなるし、例えば膵臓を切除すると消化液を分泌できなくなり消化能力が落ちてしまう。
「昔は、亜全摘という胃の5分の4を取るような手術を行うと、体重は10%減り、全摘すると15%減ると言われ、それが当たり前とされていました。しかし、その考えは誤りで、体重を減らさないようにしないといけません。なぜかというと、体重減少は骨格筋の減少につながるからです」
つまり、体重減少を抑えて筋肉が減らないようにして、身体機能を維持することが重要になっているのだ。
体重が減らない人ほど 化学療法を継続できる
身体機能を維持すれば、十分な治療を行うことができ、効果も期待できる。
神奈川県立がんセンター消化器外科の吉川貴己さんらは、胃がんの術後補助化学療法における*TS-1の投与継続について検討を行った。その結果、体重が15%以上減少した症例では、治療途中での投与の中止割合が有意に高かったことを明らかにしている。
また、除脂肪体重(全体重のうち体脂肪を除いた筋肉や骨、内臓などの総量で、一般的には筋肉量を意味する:lean body mass)の減少が5% 以上の人では、TS-1の投与中止が有意(P=0.031)に高率だったことも突き止めている(図1)。
さらに大村さんによると、胃がんは術後1~2年後に再発する例がみられるが、それまでに体重を回復・維持することが重要だという。再発がなければそのままQOL(生活の質)が保てるし、仮に再発したとしても化学療法をしっかり行えるからだ。
ただし、栄養指導を行っても十分な食事ができずに体重減少を防げない場合も少なくない。そのようなときはONS(経口的栄養補助)が有効という(図2)。
「胃の手術をしたあとは1回の食事摂取量が減るため、3度の食事では足りず、1日に5回も6回も食べる必要があります。それが面倒になると食事の量が減ってしまい、1日2,000㎉必要な人が7割の1,400㎉しか摂れないと、確実に体重が減ってきます。食事で必要量の7割しか食べられないのなら、残りの3割は食事の合間にONSで摂取すればいいのです」
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
自宅で経腸栄養する方法もある
しかし、化学療法の副作用により嘔吐や腸炎症状が伴うような下痢が続くときは、経口摂取は無理なので、その場合は点滴に頼るしかない。点滴に使う輸液にも様々な種類があり、出血時に適した輸液、発汗などで軽い脱水症状のときに適した輸液、水と電解質だけの輸液、栄養成分の入った輸液、検査データが揃う前に使用する輸液など、状況・症状によって使い分ける必要がある。
ところが、「医師の中にもその区別がついていない人が多いので、要注意です」と大村さんは指摘する。
また、膵臓の手術で消化能力が低下した人には、*リパクレオンという消化酵素補助(補充)剤が登場しており、こうした薬の助けを借りて食事すれば栄養不足を避けることができる。
まずは、食べ方を工夫して、ゆっくりよく噛んで時間をかけて食べること。ただ、それでも食べられない、十分なカロリーが摂れずに体重がどんどん減っていくという人もいる。そのような場合に大村さんが勧めるのは、在宅の経腸栄養だ。
空腸瘻栄養法は、手術で腹部に穴をあけ、空腸にチューブを挿入して栄養を投与する。病院で空腸瘻を造り、在宅で夜寝ている間に800~1,000㎉を投与し、昼間は器具を外す。残りの800~1,000㎉を食事で摂る。そうすれば昼間半分しか食べられなくても不足分を夜に補うことができる。これも1つの有効な対策と言えるだろう。
*リパクレオン=一般名パンクレリパーゼ
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