• rate
  • rate

大腸がん、膵臓がん患者さんが悪液質タイプから脱却し、免疫老化まで改善か
栄養成分EPAを軸にした新機軸の栄養療法

監修:三木誓雄 三重大学大学院医学系研究科消化管・小児外科准教授・病院教授
取材・文:常蔭純一
発行:2010年1月
更新:2013年4月

  

三木誓雄さん 三重大学大学院医学系研究科
消化管・小児外科 准教授・病院教授の
三木誓雄さん

がん患者の体内では絶えず炎症が起こっている。実はこの炎症ががん細胞の増殖と関係しており、この炎症を抑えることで今注目を集めているのが栄養成分EPA(エイコサペンタエン酸)だ。現在、このEPAを中心とした栄養療法で、がんと免疫栄養療法に関する研究を進めている三重大学では、栄養療法の可能性の高まりを感じさせる研究データが相次いで集まってきているという。

がん細胞の増殖の原因は炎症性サイトカイン

予後の悪い、がん悪液質()型と呼ばれるタイプのがんをあらかじめ発見し、栄養療法によって予後のよいタイプのがんにすることで、化学療法、放射線療法、手術療法など、より効果の高い治療を積極的に行っていく。近い将来、このような栄養療法が、がん治療を支える1つの柱になるかもしれない――。

がんの栄養療法を長年にわたって研究を続けている三重大学大学院医学系研究科消化管・小児外科准教授・病院教授の三木誓雄さんの研究内容について、昨年11月号で紹介したが、さらにより進んだデータが集まってきたという。まずは、がんの免疫栄養療法について説明しよう。

一般にはあまり知られていないが、がん細胞の周囲では絶えず炎症反応が繰り返されている。

この炎症反応はがん細胞から放出されるインターロイキン6(IL6)という炎症性サイトカイン()によって引き起こされているもので、がん細胞の増殖を強力に促進する。

「炎症反応が拡大すると全身の代謝機能が衰えて栄養の利用効率が悪化するとともに、生体の筋肉組織ががん細胞によって分解され、エネルギー、栄養源として取り込まれます。研究でがん患者の2人に1人は体重が減少することがわかっていますが、その重要な原因の1つにこの炎症反応の進行、拡大があります」

さらに炎症反応を促進するIL6には、局所でエネルギー源が不足すると、その補給のために血管新生因子をその場で産生する作用もある。つまり炎症反応が進行すると、宿主である生体は衰弱を続け、がん細胞だけが活発に増殖を繰り返すことになる。こうした炎症反応の強いがんは専門的に悪液質タイプのがんと呼ばれ、予後の悪いことで知られている。

がん悪液質=悪性腫瘍の進行に伴って、栄養摂取の低下では十分に説明されない、るいそう、体脂肪や筋肉量の減少が起こる状態
サイトカイン=細胞から放出され、種々の細胞間相互作用を媒介するたんぱく質性因子の総称。免疫、炎症、生体防御において重要な役割を担っている

[がんにおける「炎症」と「筋肉たんぱく量減少」のしくみ]
図:がんにおける「炎症」と「筋肉たんぱく量減少」のしくみ

患者の栄養状態から4タイプにがんを分類

そのことでわかるように、個々のがんの予後は炎症反応の強度によって予見が可能という。

英国グラスゴー大学外科学教授のマクミランさんは、炎症が起こったときに産生されるCRPというたんぱく質の量と、その人の栄養状態を物語るアルブミンという血中たんぱく量を基にがんのタイプをがん悪液質という観点から3タイプに分類した。三木さんは、この分類をさらに日本人に合致するように4タイプに整理しなおしている。

つまり、炎症反応の強度を物語るCRPが正常値の0.5ミリグラム/デシリットル未満で、栄養状態を示唆する血中アルブミンが3.5グラム/デシリットル以上の場合は正常のA群、CRPは正常で、アルブミンが低い場合は通常の低栄養状態のB群、そしてアルブミンは正常だがCRPが高い場合はがん悪液質の予備軍というべきC群、そしてCRPが高く、アルブミンが低値の場合は、すでに炎症が急激に進行している悪液質タイプと判断されるわけだ。

現実の予後もこれらのタイプによってまったく異なっており、ステージ(病期)4の大腸がん患者でA、B群の平均生存期間が36カ月なのに対して、C、D群ではわずか8カ月にとどまっている。こうした悪液質およびその予備軍は、あらゆるステージを含めた大腸がん患者の約3割に相当し、同じ傾向は他の固形がんにも共通するという。

[CRPとアルブミン(Alb)を用いたがん悪液質の評価]
図:CRPとアルブミン(Alb)を用いたがん悪液質の評価

出典:Glasgow 大学McMillan教授の考案したGlasgow Prognostic Scoreを改変

がん細胞周辺の炎症はブレーキが全くかからない状態

私たちの体内では、正常細胞の周囲でも炎症が起こることが少なくない。その場合はある段階で反応が終息するのに、なぜ、がん細胞の場合は反応が拡大するのか――。そこで、がん細胞周辺で起こっている炎症反応について説明してもらった。

「がん細胞からはさまざまな腫瘍増殖因子が放出されますが、そのなかにインターロイキン1(IL1)というものも含まれています。IL6はこのIL1によって産生が促されますが、実はIL6はその作用を抑えるIL1RAという抗炎症性サイトカインの産生も促します。通常の炎症では、この2種類のサイトカインのバランスがとれているため組織の修復が終わると炎症も消失するのです。ところが、がん細胞周辺の炎症の場合は、IL6だけが産生される状態が続いています。クルマにたとえれば、アクセルを踏みっぱなしでブレーキが全くかからない状態が持続しているのです」

細胞の増殖同様、炎症反応も暴走が続く結果、がんはどんどん肥大し続けているわけだ。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート3月 掲載記事更新!