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薬物療法が奏効して根治切除できれば長期生存が望める ステージⅣ胃がんに対するコンバージョン手術

監修●久森重夫 京都大学大学院医学研究科消化管外科学講師
取材・文●柄川昭彦
発行:2023年4月
更新:2023年4月

  

「近年の薬物療法の進歩に伴い、どのようなステージⅣの患者さんであっても、コンバージョン手術を行える可能性はあります」と
語る久森重夫さん

手術できないステージⅣの進行胃がんでも、薬物療法が奏効することで、根治手術を行える可能性があります。そのようにして行われる手術を「コンバージョン手術」といいます。

では、コンバージョン手術とはどのようなもので、その手術を受けた患者さんの長期成績は、どのようなものなのでしょうか。京都大学医学部附属病院で行われた胃がんのコンバージョン手術の治療成績について、同大学大学院医学研究科消化管外科学講師の久森重夫さんに解説していただきました。

胃がんの「コンバージョン手術」とは、どのようなものですか?

胃がんでステージⅣと診断された場合、基本的に手術ではがんを完全に取り切ることができないので、化学療法(薬物療法)が行われるのが基本です。肝臓や肺への転移や腹膜播種といったいわゆる遠隔転移があるときは、顕微鏡レベルの微小ながんが全身に広がっているため、見えているがんを外科的手術で切除しても、それだけではがんを取り切ったことにはならないと考えられます。そこで、こうした切除不能進行胃がんに対しては、薬物療法が行われることになるのです。

現在は、切除不能の進行胃がんに対して、従来の細胞障害性抗がん薬に加えて分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬による治療も行われています。これらの薬剤が使われるようになる以前は、切除不能進行胃がんと診断された場合、その後の生存期間はあまり長くありませんでした。新しい薬剤が使われるようになることで、それが大きく変わってきたのです。

かつては初診でステージⅣと診断された場合、抗がん薬による薬物療法を行っても、生存期間の中央値は13~15カ月程度でした。1年余りで半分の方が亡くなるという状況だったのです。しかし近年、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになって、状況がずいぶん変わってきました。遠隔臓器や腹膜に広がっていた転移巣が消失したり、制御された状態になったりすることで、最終的に根治手術を目指せるケースが、少なからず報告されるようになってきたのです。

こうした患者さんにコンバージョン手術を行うことで、その後、長期にわたって、再発することなく元気に過ごされているという症例も報告されるようになりました。私が治療した患者さんの中にも、そういう方が複数人います。

診断時に切除不能と判断されていたステージⅣの進行胃がんでも、薬物療法が奏効して、結果的に根治手術が目指せる可能性があります。このような患者さんに、根治を目指して行われる手術のことを「コンバージョン手術」(conversion surgery:変更手術)といいます。治療方針を変更して行う手術という意味になります。

コンバージョン手術を行うタイミングはいつがいいのでしょうか?

かつて進行胃がんに対する抗がん薬の選択肢が少なかった時代には、がんの減量を目的として、胃切除術が行われることがありました。がんによる出血や狭窄などの症状がある場合、手術には症状を緩和するという意義があります。

しかし、そうした症状がないにも関わらず、がんを減らす目的で行われる手術の効果は、明らかではありませんでした。現在では、このような手術は推奨されていません。

2016年に、「REGATTA試験」という第Ⅲ相無作為化比較試験の結果が報告されています。ステージⅣの進行胃がんの患者さんを、「薬物療法単独群」と「胃切除+術後薬物療法群」の2群に分け、全生存期間(OS)を比較した臨床試験です。

結果は、手術を行ったほうが全生存期間は短くなるというものでした。胃がんでは、取り切れないのがわかっていて、少しでもがんを減らそうと手術してから薬物療法を行うより、薬物療法のみを行ったほうが成績はよかったのです。

「REGATTA試験」の結果は、薬物療法単独群の全生存期間中央値が16.6カ月、胃切除+薬物療法群が14.3カ月で、胃切除+薬物療法群の優越性は示されなかったと報告されています。根治切除を目指せない患者さんに対する、がんの減量を目的とした手術の意義は見いだせなかったのです(表1)。

手術で胃を切除すれば、それによって体力を奪われますし、手術後は食事量も減ります。胃があるときは食事もとれて治療に耐えられる体力があったのに、手術をしたことで体力がガタっと落ちてしまうことがある。胃切除手術を行えば、それ相応の代償を払うことになりますから、コンバージョン手術を考える場合も、慎重に検討して判断することが大切になります。

京都大学医学部附属病院では、消化管外科、消化器内科、腫瘍内科、放射線科などがユニットを作り、定期的にカンファレンスを行って治療方針を判断しています。たとえば進行胃がんで薬物療法を行っていた患者さんが、薬物療法が非常によく効いてがんが縮小した場合、がんを取り切れるかどうか、ユニットの医師たちが話し合って判断していくのです。とくにコンバージョン手術を行うかなどの場合は、このように集学的治療が重要になります。

そしてもう1つ重要なのが、いつコンバージョン手術を行うかということです。

薬物療法も長く続ければ薬物への耐性が出てきます。その再増悪直前のタイミングで行うのが1つの目安という考えもありますが、コンバージョン手術の至適タイミングは、学会でも議論になる重要な問題点の1つです。

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