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進行大腸(直腸)がん 内視鏡検査+注腸エックス線検査
内視鏡+注腸エックス線検査で「進行がん」を見抜く
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
62歳の男性Qさん。半年ほど前から、便に血が混じるようになる。長年患っている痔疾の出血と思い、いつものように様子をみることにしたものの、痔が悪化しているという自覚に乏しく、改善する様子もないので、近くの病院にて受診。進行した直腸がんが見つかった。国立がん研究センターを紹介され、精密検査をして、肝臓への転移も発見された
がんのサインが隠れてしまうケース
大腸がんを含め、消化管に発生するがんでは、潰瘍などができて出血することが珍しくありません。その出血は、微量であれば便に付着しても肉眼では見えにくく、気付かないことがほとんどです。しかし、微量の出血でも拾うことができる「便潜血反応検査」では発見することが可能です。住民健診や職場健診では、自覚症状のない人を対象にがん検診がよく行われますが、その一環でこの検査を受けられた人も多いでしょう。これに対し、進行した大腸がんから出血する場合は、量も多くなりがちで排便時に気付きやすくなります。
消化管に潰瘍などができて出血し、肛門より排出されることを下血といいます。
「下血は疑うべきサインの1つですが、Qさんのように痔疾を持っている人ではその出血だと思い込んで、結果的にがんが隠れてしまい、発見が遅くなってしまうケースがあります」
Qさんの診察を担当した医師は、これまでの症状の経過を聞き、大腸がんを疑いました。すぐに内視鏡検査が行われ、直腸にがんが発見されたのです。直腸がんは、大腸がんの約4割を占める頻度の多いがんです。
段差がつくように腸管が細くなるのも特徴
「Qさんの直腸がんは肛門の辺縁から2センチほどのところから始まっており、腸管の全周をぐるりと覆うように広がっていました。内視鏡の画像では、見えているところ全部ががんで、あたかもがんがトンネルをつくっているかのようです」
本来、大腸の内腔は円形ですが、画像ではとくに左右からの隆起が顕著で内側に迫っており、内腔がいびつになっています。
また、がんに侵された粘膜はどの部分も充血しています。
「ここを便が通過すれば、こすれてあちこちから出血するでしょう。画像の左側下方では、出血の痕跡も見えます」
画像の左側では粘膜が陥没しており、潰瘍の痕であることを思わせます。大腸がんの典型的な所見がひととおり揃っていることになります。
Qさんは次に注腸エックス線検査を受けました。がんの存在する位置や、奥行き、広がり方などを確認するときによく行われる検査です。
「画像では矢印で囲まれたところががんに侵された部分ですが、段差がつくように腸管が細くなっています。注腸エックス線検査の大腸がん所見で、もっともわかりやすい特徴です」
内視鏡と注腸エックス線検査の所見を併せて、Qさんの直腸がんは早期がんではなく、進行したがんであることが、ほぼ確実となりました。そうであれば遠くの臓器への転移も心配になります。
内視鏡検査画像。見えているところすべてががん
注腸エックス線検査画像。矢印で囲まれたところががんに侵された部分
進行大腸がんでは肝転移の有無を調べる
CT検査画像。矢印で囲まれたところが肝転移部分
大腸がんの遠隔転移でもっとも多い臓器は肝臓です。Qさんは、次に肝臓のCT検査を受けました。その結果、肝臓の右葉という部分に7~8センチ大の肝転移が発見されました。
「それとは別に、肝左葉にも転移が見つかりました。ただ、肝臓以外の臓器に遠隔転移は認められなかったので、大元の大腸がんは手術で取るという治療方針が決まりました」
一般にがんの遠隔転移があれば、画像上ではたとえ1箇所にしか存在していなくとも、目に見えないがんが複数の臓器へ転移している可能性が高くなります。手術では取りきれないので、抗がん剤による全身療法を行うのが普通です。
「しかし大腸がんは比較的大人しい性質で、肝転移だけでとどまっていることがよくあります。そのことが検査で確認できれば、大元の大腸がんの治療は、取りきることを目指す手術が行われます」
ただQさんの直腸がんは進行して肛門を閉める括約筋にも広がっていたので、肛門を温存することができずに人工肛門をつくりました。小腸の一部を皮膚から露出し、パウチをつけてそこに便を溜めるものです。最近は人工肛門の機能が向上し、管理も楽になって、仕事をするにしろ、運動をするにしろ、制約が大幅に軽減されています。
なおQさんの肝転移は広範囲に及んでいるので、手術で取ることはせず、抗がん剤によって増殖の抑制を目指す治療を今も続けています。
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