もりやま　のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断

患者プロフィール
55歳の女性Kさん。入浴中に左の乳房のしこりに気付き、近くの病院にて受診。がんの疑いが強いということで、国立がん研究センターを紹介され、マンモグラフィ検査を受けたところ、3cm大のがんが見つかった

乳腺専用のエックス線検査機器

Kさんが国立がん研究センターで受けたマンモグラフィ検査とは、乳腺の病気を見つける専用のエックス線検査機器です。透明なプラスティックの板で乳房を片方ずつ挟んで圧迫し、撮影します。このとき、痛むこともあります。視診や触診で見逃しがちな小さいがんも見つけられることが、最大の特徴です。

アメリカでは乳がんで亡くなる人が減ってきていますが、この検査機器による検診が普及したことが大きく貢献しているとされています。一方、患者も亡くなる人も増え続けている日本でも、乳腺科のある病院やがん診療拠点病院を中心に、この検査機器を導入する施設は増えつつあります。

ただ、住民検診や職場検診などでは、普及が充分でないこともあり、まだこの検査機器で検査を受ける人が少ないのが実情です。

さて、Kさんの検査写真をご覧ください。しこりはご自身でも触れることができたくらいですから小さくはなく、3センチの大きさでした。

この大きさですと、マンモグラフィではこのようにくっきりと写ります。

マンモグラフィ検査写真

乳腺は淡く、がんは濃い白色

「乳がんのマンモグラフィ画像では、典型といってもよい特徴がいくつも現われています。第1の特徴は白い色の濃さです」（森山さん）

こう言いつつ、森山さんは写真の中のしこりを指差しました。

乳がんは、乳汁を産生する乳腺や乳腺から乳汁を乳頭に運ぶパイプである乳管に発生します。

「その乳腺もマンモグラフィでは白く写るのですが、乳腺は色が淡く、がんの濃い白とは明らかに違います。また、しこりをよく見ると濃い白の中にも場所によって濃密なところ、若干薄いところがあります。このモザイク模様も、がんのエックス線画像の特徴です」（森山さん）

第2の特徴は、がんから何本も突き出されているように見える棘状の突起です。

「この突起をスピキュラというのですが、栗の棘やウニの棘にたとえることができます。がんが周囲の組織に浸潤していく形であり、あたかも触手を伸ばしているようでもあります」（森山さん）

良性の腫瘍は多くがくっきりとした輪郭を持つ円形で、このようなスピキュラを持つことはないのだそうです。したがってこの棘が現われている場合は、容易に良性腫瘍と悪性腫瘍の区別がつくと森山さんは補足します。

不整形に見えるしこりの形

第3の特徴は、しこりの形です。

おおざっぱに見ると円形に見えますが、楕円形のようでもあります。

「これは円形というより、画像診断医の目には多角形というか不整形に見えます。完全な円形からいびつになるほど、つまり形がくずれるほど、がんである可能性が強くなります」（森山さん）

いわれてみれば、向かって左下では形が崩れていて、いくつも角や凹凸があります。なるほど、円形でも楕円形でもありません。目を凝らしてみると、厚みも右側が厚く、その部分と比べて左側が幾分薄いことにも気付きます。

靄がかかっているような輪郭

第4の特徴が、輪郭の形状です。医師は、「辺縁」というときもあります。

「上部も下部も、そして左右も全体的に靄がかかっているようではっきりしていません。周囲との境界が、不鮮明です。とくに、左側の輪郭はぐしゃぐしゃとなっています。このように辺縁＝輪郭が不整形であることも、がんの大きな特徴です」（森山さん）

このようにマンモグラフィでがんであることが、ほぼ確実になったので、その後はがんの広がりを調べる検査がいくつか行われました。

それらの結果を総合して、次のような治療方針が決まりました。

Kさんの乳がんは冒頭で触れたように3センチの大きさで、大きさだけを見れば、しこりを中心に乳房を部分的に切る乳房温存手術が可能かと思われました。

しかし、腋の下のリンパ節にがんは広がっており、乳房内にも目に見えないがんが広がっている可能性が高いということで乳房を全部切除する手術を受けました。その後、再発を防止する目的のホルモン療法を開始し、今も続けています。手術から2年経ちましたが、今のところ再発はありません。