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肺がん(中分化型腺がん)/胸部エックス線検査&CT検査
影の質感と形、濃淡、位置で骨や血管、感染症とを峻別する

監修:森山紀之 国立がんセンターがん予防・検診研究センター長
取材・文:黒木要
発行:2009年6月
更新:2013年4月

  
森山紀之さん

もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断

患者プロフィール
カゼをこじらせたわけでもないのに咳がとれない、と気がかりだった47歳の男性Hさん。職場の肺がん検診で、「要再検査」となり、指定された病院にて精密検査を受けたところ、肺がんの疑いがあるということで、国立がん研究センターを紹介された。右の肺の上葉(上のほう)にがんが発見された

まぎらわしい影の見分け方

胸部エックス線写真を、ご覧ください。矢印で示された箇所が、がんの存在する場所です。

私たちの目には靄がかかったように見える白い影は、その下のほうにも、また脊椎の反対側にもいくつも見られます。一見しただけでは、区別はつきません。どこが、違うのでしょうか?

「エックス線写真では、直進するエックス線に対して厚みがあるほど濃い白となって写ります。腫瘍はまさしくそうなのですが、矢印で示した腫瘍はまだ薄く、質量が比較的乏しく、中には一部空気を含んでいます。そのせいで、靄がかかったような薄い白となっているのです。同様に、厚みのある骨や血管も白く写ります」 森山さんによると、矢印で囲まれている腫瘍以外の白い影は、その骨と血管の影であるといいます。物理的に太い骨や血管は白く写るのですが、その他の要素で骨や血管が白く写ることがあります。たとえばエックス線の照射方向に、垂直に近い角度で走向している血管や、背骨付近で大きく湾曲している肋骨部分は、照射されたエックス線に対しては厚みがあり、濃い白となって写るのです。それらの中には、私たちのように検査写真を見慣れていない者には、腫瘍のように見えるものがあります。

この検査写真にも、それがたくさん現れているのです。

中分化型腺がんの胸部エックス線検査写真
中分化型腺がんの胸部エックス線検査写真
解説イラスト

矢印で示された箇所が、がんの存在する場所

よく見ると輪郭が見える

それらのまぎらわしい影は、どうやって腫瘍と峻別するのでしょうか。第1のポイントは、影の質感と形にあります。

「矢印で囲まれた影をよく見るとなんとなく丸い感じがして、おぼろげながら輪郭を描くことができます。写真の読影に慣れた医師だと、それが奥行きを持った球体に見えるはずです」

第2のポイントは、影の濃淡にあります。

「円の中央付近は、濃い白の部分と抜けたような黒い部分があります。さらによく見れば、円の中の影の白さは均一でなく、濃い部分と淡い部分の寄せ集めであることがわかります。これは腫瘍の厚みが不均一であったり、がん細胞の密度が違うからで、エックス線写真ではそれがそのまま反映され、腫瘍ががんであるか、炎症などの痕であるかを区別するとき、重要な手がかりとなるのです」

胸部エックス線検査写真で、がんとまぎらわしい影を呈するものとして結核などの炎症性病変の瘢痕があります。すぐに治る感染症では目に見える瘢痕は残らないのですが、結核などは肺の組織が広範に繊維化して、白い影となって写ります。

「ただ感染症の瘢痕の影は、一般にのっぺりとした白で、がんのように不均一ではありません。輪郭もギザギザとした感じはあまりなく、ほぼ峻別することができます」

腫瘍の位置も重要な情報

中分化型腺がんのCT検査写真
中分化型腺がんのCT検査写真
解説イラスト
矢印で示された箇所が、がん。
CT写真でより顕著に表現された

第3のポイントは、影の位置にあります。肺は解剖学的に左9右10それぞれの区域にわかれており、S1~S10の名称がついています。ただし、左肺にはS7はありません。

「肺の炎症は1つの区域に収まっていることがほとんどなのですが、がんは区域に関係なく、増殖していきます。影が区域を跨っているのであれば、がんである可能性が高くなります」

もちろん検査写真には区域の境界線は描かれておりませんが、医師たちのアタマの中にはそれがちゃんと存在しており、腫瘍がS1~S10のどの区域にあるのか、どこに跨っているのか、写真を通して見えているのです。

写真のがんと思しき影は、明らかに区域を跨いでいるのだそうで、これも診断する際の有力な情報となっているのです。以上のポイントは、CT(コンピューター断層撮影装置)写真ではより顕著に表現されています。

「複雑な濃淡のある白い影、ギザギザとした輪郭、それを囲んだ筋状の靄のかかったような影が特徴的です」

以上の検査を含めて、Hさんのがんは肺の他の区域および全身への広がりはないものと認められ、手術によって切除されることになりました。退院後、Hさんはほぼ元の暮らしぶりを回復しています。


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