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胃がん(潰瘍浸潤型)・腹部エックス線検査/内視鏡検査 胃壁の湾曲部のカーブが大きく広がっていることに注目

監修:森山紀之 国立がんセンターがん予防・検診研究センター長
取材・文:黒木 要
発行:2009年3月
更新:2020年3月

  
森山紀之さん

もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断

患者プロフィール
35歳の女性Wさん。2カ月ほど前から上腹部に痛みを感じるようになり、近くの病院でエックス線検査を受け、胃がんの疑いが強いとの診断を受けた。国立がん研究センターを紹介され再検査を受けたところ、潰瘍を伴った進行がんが発見された。手術で切除した後、抗がん剤の治療を受けた

胃角部の湾曲が広がってしまうタイプ

Wさんの胃がんは5層から成る胃壁の1番深くまで侵食した進行がんでした。

胃内腔の粘膜に発生したがんは、増殖するにつれ、その下の粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜(腹膜)という順に潜りこんでいくのですが、Wさんのそれは胃壁の最下層の漿膜にまで達していたのです。その割に痛みが出るのが遅く、受診のわずか2カ月前に自覚したのだそうです。

自覚症状はがんを早く発見するサインとしては当てにならない、といいますが、その典型例といってよいでしょう。

さて検査画像ですが、まずエックス線写真をご覧ください。病変のある場所は胃が大きく湾曲している胃角部と呼ばれる部分です。

「まず、目に付くのは、この湾曲のカーブの度合が広がっているということです。健常な胃では収縮するとその間隔がずっと狭く、くっつくようになるのですが、大きく広がって写っています。これを開大といい、胃がんが胃角部に存在する場合によく見られる特徴です」

なぜ胃角部の間隔が開くのでしょうか? 森山さんはさらに説明します。

「胃角部のカーブを地図の入江に見立てると、最深部を中心に白っぽい層が見えます。これは胃壁が厚くなっていることを表しています。がんの成長に比例して、胃壁も厚くなっているのです。胃角部の大きな広がりは、これによって起こります」

がんは健常な組織と比べればとても硬く、ゴツゴツとしているのですが、胃角部でがんが成長し、これだけ胃壁が厚くなれば、正常な部分の胃が収縮しても硬いがんの部分はつっぱった状態になり、十分に収縮しきれない、すなわち開大という現象が起こるのだそうです。

エックス線写真の2番目の特徴として、カーブの線の具合にも注目して欲しい、と森山さんはいいます。

「湾曲=入江はなだらかな曲線ではなく、部分部分で直線的です。これも、がんが存在していることを疑わせる有力な所見です」

エックス線写真
エックス線写真解説

エックス線写真。赤線で印した胃が大きく湾曲している胃角部と呼ばれる部分に病変がある

なだらかな裾野を持った潰瘍浸潤型

次に、内視鏡の画像を見てみましょう。

進行した胃がんによく見られる現象ですが、この写真でも中央に潰瘍が存在します。その周囲が堤防のように盛り上がって、あたかも火山の火口のような形状になっています。

「胃がんは肉眼的に見て、その形状から進行具合をおおよそ察することができるのですが、潰瘍を伴うタイプには2つあって、堤防の隆起(立ち上がり)が急できつく、健常な粘膜周囲との境界がはっきりしているものを2型、堤防が富士山の裾野のようになだらかで、周囲との境界が不明確なものを3型と呼んでいます。Wさんの胃がんは3型で、一見すると典型的な2型より小さく見えるので、経験の浅い医師だと軽く見る場合があるかもしれません」

3型の隆起の境界は健常組織と見分けが付きにくいのですが、ベテラン医師はそうでもないようで、森山さんはその輪郭をペンの先で次々と示していきます。そのポイントを結ぶと、イラストで示した輪郭になるのです。

輪郭をなぞるコツとしては稜線を面としてとらえ、周囲と比較しながら見ていくと、微妙な凹凸があって、あたかも地図の等高線のような線が見えるのだといいます。

「ここが痩せているでしょう。ここも……」という表現をしつつ、森山さんはペン先で谷に当たる凹んだ部分を示してくれますが、私たちがその部分を見つけるのは少し難しいかもしれません。

Wさんはこの後、CT(コンピュータ断層撮影装置)検査などで全身のチェックをして、遠くの臓器への転移=遠隔転移が認められなかったので、手術でがんを切除しました。近くのリンパ節に数個飛び火をしていたので、補助療法として抗がん剤治療を行ったそうです。

内視鏡画像
内視鏡画像。胃がんの中央に潰瘍が存在する
解説イラスト
矢印が胃がん、中央に潰瘍が存在


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