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早期胃がん/上腹部エックス線検査・内視鏡検査
胃角部の広がりでがんを疑い、胃壁のデコボコなどで確認する
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
64歳の女性Cさん。以前から、ときどき腹部の不快感を覚えていたが、1年ほど前より上腹部いわゆるみぞおち付近が痛むようになった。食後1時間ほど経ってからのことが多い。1ヵ月経っても痛みが退かないので、近くの病院で受診。腹部のエックス線検査および内視鏡検査をして、胃がんの疑いがあるということで国立がん研究センターを紹介された。再検査のうえ、胃潰瘍を伴った早期がんが発見された
重要な着眼点は、胃角部の広がり
胃中央の湾曲した部分=胃角部に白い皺のような線が密集している
不快感がときどき起こる、食後1時間ほどからみぞおちに痛みが生ずる、痛みがなかなか退かない……といったCさんの自覚症状は、典型的とは言えませんが胃潰瘍を思わせるものです。
「上腹部のエックス線写真を見ると、胃中央の湾曲した部分=胃角部に白い皺のような線が密集しており、病変が存在していることがわかります。胃潰瘍は胃角部に多発しますので、それだけでも胃潰瘍を疑うに足り、内視鏡検査を足すことで、胃潰瘍を発見するのは、そう難しいことではありません。ただ……」
森山さんは、そう言って話を続けます。
「問題は胃潰瘍だけなのか、ということです。ベテランの医師であれば、このエックス線写真を見て、胃潰瘍とともに胃がんの存在を疑います」
重要な着眼点として胃角部の広がりがある、と言います。
「がんは硬いので、それが胃角部にできると周囲が引っ張られて、湾曲している部分の角度が広がるのです」
胃角部のがんでは、進行すればするほどその広がりは大きくなるそうです。
「Cさんの場合も広がりは小さくはないのですが、胃潰瘍が合併しているので強調されているとみることができます」
がんに引っ張られて、稜線がいびつに
チューブが触れている胃の襞の稜線がいびつでデコボコしている
次に内視鏡による画像を見ると、赤くただれた粘膜が現われ、なんとなく胃潰瘍の存在がわかります。ただし、そこにがんがあることはほとんどわかりません。エックス線写真では、胃潰瘍と進行した胃がんの合併が疑われたのですが、内視鏡画像では胃がんは進行していないようです。それにしても、どこに胃がんが存在しているのでしょうか?
そこで森山さんは、内視鏡のチューブが触れている胃の襞の稜線に注目するように言います。「稜線がいびつでデコボコしています。よく見れば、左の上部からなだらかに下りてきている線が、隆起したりへこんだりしているのがわかります」
がんができると、周囲が引っ張られていびつになるのは、先ほど紹介した通りで、胃がんを疑う根拠の1つとなります。
2番目に着目して欲しいのは、イラストの点線で示した凹みだと言います。
「その部分だけを見てもわかりにくいのですが、全体を視野に入れつつ見ると、そこが凹んでいるのがなんとなくわかるのではないでしょうか」
粘膜がんでも潰瘍が伴うと内視鏡では切除できない
以上の所見から、Cさんの胃がんは陥凹型で胃潰瘍を伴っているタイプと診断されました。
胃がんは隆起を伴っているものもありますが、こうやって凹んでいるタイプも少なくはないそうです。大きさは5.5×3.6センチで、粘膜にとどまっている粘膜がんでした。
「粘膜がんであれば、通常は内視鏡で簡単に切除できるのですが、潰瘍を伴っていると、そこにがんがぽろぽろと落ちていることがあるので、取り切れない心配があります。そこで潰瘍を伴った粘膜がんでは、通常の開腹手術による胃の3分の2以上の手術をします」
幽門部を残す手術で、胃全摘後に目まいや動悸などの症状が出るダンピング症候群の後遺症を大幅に減らすことができます。Cさんもこの手術を受け、がんは治癒。元気に暮らしているそうです。
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