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悪性線維性組織球腫/CT検査
皮下脂肪ほど黒くないが、全体に黒っぽく濃淡がある点を疑う

監修:森山紀之 国立がんセンターがん予防・検診研究センター長
取材・文:黒木要
発行:2008年12月
更新:2013年4月

  
森山紀之さん

もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断

患者プロフィール
57歳の女性Xさん。1年ほど前より左足付け根部分の痛みが強くなり、次第に歩行しづらくなってきた。その3カ月後にはまったく歩けなくなった。近くの病院へ行くと整形外科に回され、軟部腫瘍の疑いがあるとして、国立がん研究センターを紹介された。CT検査をしたのちに、針生検査を行い、悪性線維性組織球腫であることがわかった

痛みなどの自覚症状に乏しい腫瘍

筋肉や脂肪などの軟部組織にできる腫瘍を軟部腫瘍といいます。良性と悪性があって、悪性のほうは肉腫と呼ばれます。がんではあるのですが、内臓にできる“がん”と区別するために、このような呼び方をします。

肉腫にはさまざまな種類がありますが、比較的多い悪性骨肉腫でも、日本全国で年間200例ほどしか見つかりません。したがって肉腫は珍しい“がん”といえるでしょう。

その中で悪性線維性組織球腫はわりと頻度が高く、50歳代以降の中高年に多く発生します。発生しやすい部位としては、腹壁、骨盤壁、胸壁などがあげられますが、全身のいたるところにできる肉腫です。

「一般に軟部腫瘍は大きくなればコブを形成して皮膚が盛り上がったりするので、その場合は受診のきっかけになりやすいのですが、悪性線維性組織球腫は時としてとてもやわらかくて、臓器の隙間を這うようにして大きくなります。初期では痛みなどの自覚症状はほとんどないので、発見が遅くなりがちです」(森山さん)

仮に受診をしたとしても、肉腫の診断に慣れている医師でないと、腫瘍の存在に気付かなかったり、良性腫瘍と区別がつかずに経過を見ていく方針にするケースが多いのではないかと推測されています。

腫瘍が浸潤して骨が破壊されているとみる

ただXさんのケースでは、ご本人が受診を躊躇していたと思われる形跡が検査画像から見てとれるそうです。検査画像は恥骨より少し上のCTの横断面なのですが、これを見つつ、森山さんは次のように指摘します。

「検査画像では骨が白く、脂肪が黒く写っているのですが、向かって左の右足の大腿骨頭およびその内側の坐骨がくっきりと写っています。ところがその対称にあるべき左側の大腿関節部と坐骨は、一部しか写っていません。残りは腫瘍が浸潤して破壊されてしまっているとみることができます」

浸潤とはがんに組織が侵食されている様をいいますが、悪性線維性組織球種には浸潤性の高いタイプが一部あり、手慣れた医師では、この画像およびXさんの年齢を考慮して、悪性線維性組織球種を疑う、と森山さんはいいます。

他にも、悪性線維性組織球種を疑う要素があるそうです。

「腫瘍が大腿骨頭や坐骨、筋肉の間に入り込んでおり、相当やわらかいタイプであることがわかります。色は皮下脂肪ほど黒くはありませんが、全体に黒っぽく、しかもその黒さに濃淡があります。これも肉腫の一種であることを想像させます」(森山さん)

CT検査画像
CT検査画像。向かって右の矢印が腫瘍
説明イラスト

腫瘍内部の濃淡も手がかりに

腫瘍は巨大化すると、栄養が充分に行き渡らない部分が出てきて壊死したり、休眠状態になったりします。画像ではその部分は黒っぽいなかでも、周囲と比べて幾分濃くなるのだそうです。Xさんの検査画像では、大腿骨頭の下方にそれが広範に及んでいることが見てとれます。

「ただし肉腫は種類が多く、画像所見ではおおよその察しはつくのですが、特定することはできません。Xさんの場合、滑膜肉腫や筋肉にできる肉腫、脂肪肉腫との区別が必要でした。肉腫の確定診断は細胞や組織の一部を採取して、顕微鏡で覗く病理学検査によって行います」(森山さん)

その結果、Xさんの腫瘍は悪性線維性組織球種と診断されたのです。診断を受けて、再度、複数のCT検査画像を検討し、治療方針が決定されました。

「Xさんの場合、比較的悪性度の高いタイプでしたので、転移を防ぐために左骨盤の3分の1の切除、そして左足付け根からの切断になりました。かなり大きな手術となりましたが、その甲斐あって手術後2年経った時点でも転移はなく、元気に過ごされています」(森山さん)


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