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肝がん・腹部超音波
3センチを超える腫瘍で現れてくるモザイク模様の画像
もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断
患者プロフィール
73歳の男性。腹痛があり、近くの病院で腹部超音波を施行したところ、偶然、肝がんが疑われる所見が現われ、国立がん研究センターへ。
再度、腹部超音波を実施したところ、直径4.8cmの肝がん(肝細胞がん)が発見された。原発性肝がんの豊富な血流を捉えるカラードップラー(超音波検査の一種)でも、その存在が確認された
お腹の中の赤ちゃんの様子を見るときにも使用
超音波検査は皮膚の表面から、人の耳には聴こえない高い周波数の音波を当てて、その反響の様子をモニターに表し、身体の中の状態を見る検査です。
お腹の中の赤ちゃんの様子を見る検査として有名です。
胎児を見るのによく使われるということは、安全である証しといえます。放射線の被曝もないし、大がかりな装置も要らず、入院することなく外来で行える簡便さもあって、各診療科で、なくてはならない検査となっています。
腹部の臓器の検査で、この超音波を使うのが腹部超音波検査で、“お腹の聴診器”と比喩的に言う場合もあります。その原理は簡単です。
音波は実が詰まった臓器ではよく伝わり、実のない胃や肺、腸では伝わりません。ですから腹部超音波検査でターゲットとなる臓器は、肝臓や胆嚢、膵臓、腎臓などの臓器になります。
「それらの臓器に病変ができると、大きくなる、萎縮する、あるいは形がいびつになる、表面に凹凸ができる、内部が硬くなるなどの変化が生じます。そこを音波が通るとき、正常な臓器の場合とは違う画像になり、この変化を捉えるのです」(森山さん)
たとえば肝がんでは、ある程度大きくなると、特徴的な画像が表れます。
モザイク模様と影
そのひとつがモザイク模様です。色調や形状が異質の物体を寄せ集めたような模様を寄せ木細工模様=モザイク模様と言いますが、その不協和音のような模様が現れるのです。
「腫瘍の大きさが3センチを超える大きさになるとよく現われる画像パターンです。右の検査画像にはくっきりとその様子が出ており、腫瘍の大きさと合わせて、ひと目で肝がんとわかります」(森山さん)
肝臓の中に黒い点があちこちに点在していますが、これも目安で2番目の特徴です。
特徴的な画像パターンの3番目は、側方低エコー帯と呼ばれる黒い帯状の筋です。
右の写真は上腹部からエコー(超音波)を当てているのですが、肝がんの左右の辺縁から下のほうに向かって黒い筋が延びているのがわかります。この筋は直進するはずの超音波が乱れて屈曲するような場合に現われます。画像としては影のように表現されるのです。
その他にもいくつかのパターンがありますが、それらの情報だけでは肝がんであることが不確かなケースが少なからずあります。そういうときには超音波検査の一種であるカラードップラーがよく使われます。
音響の差異をカラー化して表現するのですが、たとえば血流の具合を見ることができます。肝細胞がんは血流が豊富で、これを捉えるのです。写真下の赤い点がその血流を表しています。動画としても表現することもできます。
「この赤い点が現われたら、原発性の肝細胞がんが高率で疑われます」(森山さん)
ちなみに他臓器から転移した転移性肝がんは血流が豊富ではないため、このように赤くはなりません。
なお、今回の症例写真はわかりやすい特徴の現われているものを選んでいるのですが、肝がん(肝細胞がん)を見つける超音波検査は、通常、ハイリスク患者である肝硬変やウイルス性肝炎に罹患している人を対象に、定期的に行うのが一般的です。そうやって発見される早期の肝がんの画像所見は、経験豊富な医師でないと見逃すことがあるので、症例数の多い医療施設を選ぶことが肝心です。
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