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膵がん術前補助療法 進行がんの予後を大きく向上させる期待の効果が明らかに がん細胞の完全切除を目指す膵がんの術前化学放射線療法

監修●高橋秀典 大阪府立成人病センター消化器外科副部長・膵臓外科チーフ
取材・文●植田博美
発行:2013年10月
更新:2019年9月

  

「膵がん手術は難易度が高いので、症例数の多い病院を選ぶことも大切です」と話す高橋秀典さん

膵がんの手術は体への負担が大きく、術後の再発や転移も多い。そこで、がんそのものだけでなく再発しやすいとされる周辺部位にも放射線を照射し、同時に抗がん薬治療も行う「術前化学放射線療法(術前CRT)」が注目されている。この治療を2002年から行い、300例の実績をもつ大阪府立成人病センター消化器外科の高橋秀典さんに話を聞いた。

がん細胞の〝トゲ〟を縮めて完全切除を目指す

膵がんの特徴は、CT画像で確認できるがんの周辺に、顕微鏡レベルで認められるがん細胞が広範囲に伸びていることだ。

この広範囲に伸びたがんについて、大阪府立成人病センターの高橋秀典さんは、次のように話す。

「患者さんにはよく、膵がんを海にいるウニに例えて説明するのですが、たとえばCTには2cmのがんとして映っていても、それはいわばウニの本体であって、周りには目に見えないトゲが広がっているのです(潜在的局所進展)。トゲは本体より大きく伸びていることも多いので、手術でがんを取ってもトゲは残ってしまう。膵がんが手術しても再発しやすいのは、このためなのです」

しかし、たとえば2cmあったトゲが術前に5mmに縮まれば、がん本体とともにトゲも残さずに切除しやすくなる。つまり、手術までにトゲをできるだけ縮小させようというのが、術前化学放射線療法の1つの狙いだ。

「トゲは均等に伸びるわけではなく、伸びやすい方向がある程度わかっています。それは、膵臓の周りにある動脈と、膵臓の背側です。当センターでは、がん本体だけでなく、それらの一帯にも放射線を照射し、全体の縮小化を図ります」

膵がんを手術で完全に取り切れたことを病理組織学的には、R0切除(完全切除)という。これは、手術でがんを取った後の膵臓の断面(切除断端)を顕微鏡で調べて、がん細胞が残っていない状態のことだ。

大阪府立成人病センターの場合、R0切除率は実に99%だという。一般に、術前化学放射線療法をせずに手術をした場合のR0切除率は50~80%である。

「がんを縮小させて取り切りやすくすることを局所効果といいますが、これが、術前化学放射線療法の最大のメリットといえるでしょう」

がん細胞を〝なかったこと〟にできる

高橋さんは、術前化学放射線療法にはもう1つ、患者さんの治療選択肢が増えるという大きなメリットがあると話す。

「膵がんの中には性質の悪いものがあって、大手術を乗り切っても数カ月後に再発や転移が見つかることも多いのです。今は化学療法が進歩していますから、場合によっては手術を選択しないほうが、体力を落とさずにQOL(生活の質)をそれなりに保ちながら過ごすこともできるでしょう。術前化学放射線療法は3カ月間をかけて行います。その間にがんの進行や転移の有無などを再検査するなかで、手術を受ける価値があるかどうか、患者さん自身が選択する機会をもつことができるのです」

そして3つめのメリットは、全身治療を早期に受けられることだ。

膵がんは、発見された時点ですでに肝臓や肺に転移している可能性が高い。そしてそれは前述のトゲと同様に、目に見えない細胞レベルの転移(微小転移)であることも多いのだ。

「CT画像では膵臓だけにがん細胞がとどまっているように見えていても、実際は全身に広がっている場合があります。しかし抗がん薬はがん細胞が小さいほどよく効きますから、目に見えないほど小さい時点で治療すれば、そのがん細胞を〝なかったこと〟にできるかもしれません。

当センターでは、抗がん薬を最大投与(Full-dose)で投与し、全身に散らばっているがん細胞を早期から治療します」

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