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骨転移、進行非小細胞肺がん1次および2次以降の治療 肺がん診療ガイドライン改訂! 進行肺がん治療などで、薬剤の処方例が追加

監修●江口研二 帝京大学医学部附属病院副院長・腫瘍内科教授
取材・文●伊波達也
発行:2013年11月
更新:2019年9月

  

「ガイドラインは検査・検診や緩和ケア分野の理解・利用にも役立ててください」と江口研二さん

分子標的薬イレッサの登場以降、遺伝子変異を標的としたいくつかの治療薬が登場し、治療の選択肢が増えている肺がん治療。その影響から、診療指針となるガイドラインの改訂も頻繁になっているという。現時点での改訂ポイントを専門医に聞いた。

最新治療とはガイドラインの標準治療

がんにおける最新治療というと、マスコミで報道されているような試験的な最先端治療を思い浮かべる人が多いと思うが、そうではない。各種がんの診断・治療に精通した専門医が、治療の選択肢として選ぶのは、標準治療といわれるエビデンス(科学的根拠)が認められた治療法である。

要するに、がん治療の最前線における最新治療とは、その時点での標準治療を意味することをしっかり認識しておく必要がある。そのような標準治療や診断法、エビデンスレベルなどを整理して提示しているのが、診療ガイドラインだ。

ガイドラインには、各種がん学会で専門医たちによって検討が重ねられた上で作成される。その根拠となるのは、日本をはじめ、世界中で有効と認められた臨床試験の結果報告。昨今、がんの診断および治療法の研究は日進月歩であるため、常に臨床現場における治療や臨床試験結果は精査され、定期的なガイドライン改訂に反映されている。

自分の治療を知るにはガイドラインを活用しよう

■図1 『よくわかる肺がん』西日本がん研究機構HP(http://www.wjog.org/)より購入またはダウンロードができる

日本肺癌学会の『肺癌診療ガイドライン』は、2005年より作成されている。ここ数年はほぼ毎年改訂されており、現在の最新版は2013年版だが、2013年7月には、さらにいくつかの項目が部分的に改訂された。その背景について、ガイドラインの検討統括委員で、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科教授の江口研二さんは次のように話す。

「肺がん治療は、2002年に分子標的薬であるイレッサが登場して以来、大きく変化を遂げ、治療の選択肢が次々に増えていくにつれて、ガイドラインの改訂の間隔は短くなってきています。当初は、印刷物として発刊していましたが、改訂が頻繁になってきたため、昨今では、一部改訂にも迅速に対応できるように電子媒体に代わってきています」

ガイドラインは、日本全国の肺がん治療に携わる医師が、診療を行う上での指針として使うため、常に最新情報を反映させたものが必要なのだ。

昨今は、患者さんも自分の病気についてしっかり勉強して、自分にとって適切な治療を受けようという傾向が強くなってきたため、一般の人々も学会のホームページでガイドラインを閲覧したり、ダウンロードできるようになっている。

「肺がんについては、西日本がん研究機構(WJOG)が、患者さん向けに『よくわかる肺がん』というQ&A形式のガイドブックを発刊しています。日本肺癌学会公認のガイドブックとして承認されています。12年版のガイドラインに基づいて作られていますが、患者さんにとってとてもわかりやすい内容になっていますので、ぜひ活用していただきたいと思います」(図1)

イレッサ=一般名ゲフィチニブ

維持療法についてはアリムタが有効

■図2 肺癌診療ガイドラインの推奨グレード出典:肺癌診療ガイドライン2012(日本肺癌学会)より一部改変

さて、2013年版の一部改訂とはどのような内容なのだろう。

「日本肺癌学会のホームページで肺癌診療ガイドラインのページを見ると、『2013年7月更新』と記載されている項目が今回改訂されたものです。いずれも医師向けの専門的な話になりますが、ご自分に関係する箇所が改訂されていると思われる場合には、参考資料として、内容は主治医に詳しく説明してもらえば良いと思います」

■図3 維持療法(maintenance)の定義出典:肺癌診療ガイドライン2013(日本肺癌学会)より一部改変

トピックスとされる「Ⅳ期非小細胞肺癌1次治療」、「Ⅳ期非小細胞肺癌の2次治療以降」、「骨転移、脳転移、胸部照射」についてみていきたい。

「Ⅳ期非小細胞肺がんの1次治療における話題は、維持療法におけるアリムタの有効性についてです。今回、非小細胞肺がんⅣ期の患者さんに対する、アリムタ+シスプラチンの治療後に、維持療法としてアリムタを投与することが有効であるというのが、『パラマウント(PARAMOUNT)試験』という国際ランダム(無作為)化比較試験の結果によって認められ、ガイドラインの推奨グレードがC1からBとなりました」(図2)

維持療法とは、初回治療で投与した治療薬に含まれる薬剤を、その後休薬せずに投与し続ける方法だ(図3)。「パラマウント試験」では、アリムタ投与群とプラセボ(偽薬)投与群を比較したところ無作為化からの全生存期間(OS)中央値で13.9カ月対11.0カ月と、アリムタ群が有意に延長した。

そのため、ガイドラインでは①PS(パフォーマンス・ステータス)が0-1に対するプラチナ製剤併用療法4コース後、病勢増悪を認めず毒性も忍容可能なものに対してアリムタあるいはタルセバによる切り替え維持療法を考慮してもよい②PSが0-1に対するシスプラチン+タルセバ併用療法4コース後、病勢増悪を認めず毒性も忍容可能なものに対してタルセバによる継続維持療法を行うよう勧められている(図4、図5)。

「『パラマウント試験』はグローバルな試験であるため、この試験単独の結果のみで推奨グレードがアップしました。しかし、より厳密には、複数の大規模比較試験で同じような結果が検証されたもので検討することも大切です。また、維持療法の評価は医療経済的視点も考慮すべきだと思います」

 

■図4 Ⅳ期非小細胞肺がんの1次治療出典:肺癌診療ガイドライン2013(日本肺癌学会)より一部改変
■図5 PS(パフォーマンス・ステータス)の定義

PS
0 無症状で社会活動ができ、制限をうけることなく発病前と同等にふるまえる
1 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできる。たとえば軽い家事、事務など
2 歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助がいることもある。軽労働はできないが、日中の50%以上は起居している
3 身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している
4 身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている

*PS(パフォーマンス・ステータス):患者の全身状態を日常生活動作のレベルに応じて0~4の5段階で表した指標。米国の団体ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)が提唱したもので、世界的に広く使われている
出典:肺癌診療ガイドライン2013(日本肺癌学会)より一部改変

アリムタ=一般名ペメトレキセド シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ タルセバ=一般名エルロチニブ

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