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群馬県で投与第1号の肺がん患者 肺がん情報を集め、主治医にオプジーボ治療を懇願する
群馬県高崎市に在住の森雅人さん(50歳)は、脱サラして忙しく働いていた40代半ばの2015年1月、肺がんステージⅢaの告知を受けた。実際には、副腎に遠隔転移していたためステージⅣになる。
標準治療の抗がん薬治療を受け、一旦は著効したが、体力は消耗していく。
その頃、免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボが肺がんに保険適用になることを知っていた森さんは、オプジーボを使ってくれるよう主治医に、2度にわたって申し出た。
それは血痰から始まった
がんの中で年間死亡者数1位。毎年8万人弱が亡くなるのが肺がんだ。肺がんは早期では自覚症状が乏しく、発見された時点で約7割は手術不能のステージⅢ、Ⅳに進行してしまっている。そうすると根治(こんち)治療は望めなくなる。薬物療法により延命を図っていくしかないのだ。
しかし、近年、肺がん、とくに85%を占める非小細胞がんの薬物療法は、進行・再発がんに対して目覚ましい進歩を遂げている。
2002年に、*イレッサという分子標的薬が登場して以来、EGFR、ALK、ROS1などの遺伝子変異を標的とする治療薬が次々に登場して、長期延命も望めるようになってきた。しかし、それでも、特定の変異遺伝子のない野生型に分類される患者は、従来の抗がん薬による治療しか選択肢がなく、なかなか長期予後(よご)が望めなかった。
そこに登場したのが、免疫チェックポイント阻害薬だ。その詳細については、特集1の中で取り上げているが、従来の分子標的薬と違い、特定の遺伝子変異を標的にするのではなく、患者自らの免疫機能を利用した画期的な治療薬だ。
2015年12月には、*オプジーボという薬が肺がんの治療(切除不能な再発非小細胞肺がん・切除不能な進行非小細胞肺がん)に対して保険適用となり、その後、2017年2月には*キイトルーダ、そして、2018年1月には、抗ヒトPD-L1ヒト化モノクローナル抗体薬、*テセントリクが使えるようになった。
オプジーボは年間1,750万円という高額な医療費がかかる点での議論もあるが、現在、徐々にその効果の恩恵を受け、延命している患者が増えているのは確かだ。
ここでは、実際にオプジーボ治療中の肺がん患者さんの例を紹介しよう。オプジーボが肺がんの保険適用になった直後に治療開始、その後、2年あまり予後を維持しながら、日常生活を送っているのは、群馬県高崎市在住の森雅人さん(50歳・自営業)だ。
森さんは、2014年の夏頃から、痰に血のようなものが混じっているという自覚症状に気づいていた。しかし、当時、脱サラして自営業となり4年目という状況下で、忙しさにかまけてそのまま放置していた。
「それまで医者知らずで、医者にかかったこともないという健康への過信もありました。国保の検診もスルーしていました」
森さんはそう話す。ところがこの年の暮れ頃、〝尋常じゃない〟くらい血痰(けったん)が出るようになり、年明けの2015年1月28日に近所のクリニックを受診した。
本当は進行性非小細胞肺がんのステージⅣ
「肺のレントゲン(X線)写真の白く抜けた部分を見た瞬間に、医師はまずい状況であることを私に話し、すぐに呼吸器専門のクリニックに紹介状を書いてくれました」
次のクリニックで、CT検査を受け、肺がんの告知を受けた。肺がんのタイプや進行度、転移の有無など、治療方針を決める精密検査をするため、地域のがん診療拠点病院の呼吸器内科を紹介された。
そこでMRI、超音波、そしてPETなどあらゆる検査を受け、左上葉(じょうよう)の非小細胞肺がんの腺がんであることが判明した。腫瘍の大きさは7cm弱になっていた。PETにより左の副腎への転移も疑われた。
「転移と判断した場合には、ステージⅣで、全身化学療法しか選択できなくなると言われました。しかし、その当時私はラグビー選手のような体型で、日常生活の体調の度合いもよく、年齢的にも体力的にも治療に耐えられると判断され、転移でない可能性も考慮して、肺がんを叩く治療が適応できるステージⅢaと診断されました。そして2月より、*パラプラチンと*タキソールの併用療法を8クールと、放射線治療2Gy(グレイ)×30回の化学放射線療法を受けました」
通常は嘔吐(おうと)、しびれ、脱毛、食欲不振といった副作用に悩まされるが、森さんは副作用もなく治療を継続でき、5月の診断では、7cm弱だった腫瘍は2cm弱まで縮小し、しかも腫瘍はスカスカの残り滓(かす)のような形状になっており、〝限りなく寛解に近い部分奏功 (PR)〟と評価された。
「今から考えると、この初回治療がうまくいったことが、後々のオプジーボの治療を可能にし、現在の予後につながったと思います」
そう森さんは振り返る。
この時点で副腎の腫瘍の精密検査も受けたが、肺がんの転移なのか褐色細胞腫かの判別がつかず、手術で摘出することとなった。2015年8月、腹腔鏡下での手術を行うことができる大学病院に入院したが、手術2日前のCTで、2.5cmだった腫瘍が7cmに増大しており、腹腔鏡下での手術を断念して、元の病院に戻った。
副腎の腫瘍切除手術は中止となり、同年8月、セカンドラインである、*シスプラチンと*アリムタによる治療が開始された。4クールの予定だったが、3クール終了時で増悪したため、パラプラチンとアリムタという薬の組み合わせに変更した。しかし、プラチナ製剤へのアレルギー反応により治療は中止された。
同年11月、サードラインの*タキソテールによる治療を開始するが、2クール終了時点で増悪し、2015年の12月に、主治医より治療中止の打診を受けた。
「もう治療戦略が尽きたということです。このときが一番つらかった。PS(全身状態)も2以上になっていて体調も極めて悪く、外来診療へ行っても院内では車椅子でした。もうこのまま死ぬのかと思いました」
まさに心身ともに弱りきった状態だった。その後も、がん性疼痛により救急搬送される状況を重ねたり、院内で倒れたり、モルヒネ投与によりうとうとする時間が長かったり、あらゆる症状に見舞われ続けていた。
「緩和ケア、在宅での死などについても考えていました。エンディングノートもつけていましたよ」
*商品名イレッサ=一般名ゲフィチニブ *商品名オプジーボ=一般名ニボルマブ *商品名キイトルーダ=一般名ペムブロリズマブ *商品名テセントリク=一般名アデゾリズマブ *商品名パラプラチン=一般名カルボプラチン *商品名タキソール=一般名パクリタキセル *一般名シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダなど *商品名アリムタ=一般名ペメトレキセド *商品名タキソテール=一般名ドセタキセル
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