患者のためのがんの薬事典
ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)HER2陽性乳がん治療のベースとなる薬剤
HER2陽性の乳がんは予後が比較的悪いといわれていました。しかし、2008年にハーセプチンが登場したことにより、生存率、再発率は大きく改善。現在ではHER2陽性乳がん治療の必須の薬剤となっています。最近次々に登場したHER2陽性乳がん治療薬を上乗せして使用することで、さらなる治療効果がもたらされています。
どんな薬?――ハーセプチンの特徴
*ハーセプチンは、がん細胞にある「HER2タンパク」と呼ばれる特定の標的を狙って攻撃する薬で、「分子標的薬」の1つです。この薬が使えるのは、検査によりHER2陽性と診断された患者さんです。
このハーセプチンは、HER2タンパクを目印にがん細胞のみを攻撃します(図1)。従来の抗がん薬は、正常細胞とがん細胞の区別ができず、がん細胞とともに正常細胞まで攻撃してしまうため、脱毛や吐き気、白血球減少などの副作用が出やすいという特性があります。がん細胞のみを攻撃するハーセプチンは、従来の抗がん薬よりもこうした副作用が少ないといわれています。
進行・転移のある乳がんの治療成績は、ハーセプチンの登場により、大きく向上し、手術後の再発率も大幅に低下しました。
ハーセプチンは現在、術前・術後補助療法、および再発・転移・進行乳がんの治療に用いられ、乳がん治療のベースとなっています。
*ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
代表的なレジメン❶――抗がん薬+ハーセプチン+パージェタ(進行・再発乳がん)
ハーセプチンは、進行した乳がんや手術後に再発・転移した乳がんの、がんに伴う症状を和らげたり、進行を抑えたりする目的で使用します。
ハーセプチンは単独で使用した場合の効果は認められておらず、原則としてタキサン系抗がん薬(*タキソテールや*タキソール)と併用して効果を発揮する薬です。
化学療法を実施していない転移乳がん患者さんを対象に実施された海外の臨床試験では、無増悪生存期間(PFS:がんが悪化しなかった期間)の中央値がタキソテール単独群で6.1カ月だったのに対し、ハーセプチンとタキソテールを併用した群では11.7カ月と5.6カ月延長していました。全生存期間(OS)中央値も、タキソテール群では22.7カ月でしたが、ハーセプチン+タキソテール群では、31.2カ月という結果でした(図2)。
さらに、新しい分子標的薬である*パージェタを加えた3剤併用療法における臨床試験の結果が明らかになりました。
ハーセプチンとタキソテールを併用した患者さんと、それにパージェタを加えた3剤を使用した患者さんを比べると、無増悪生存期間の中央値が、3剤併用群では18.5カ月で、2剤併用群の12.4カ月を6.1カ月上回りました。
全生存期間は、試験開始後3年の時点で、2剤併用群では50%、3剤併用群は66%という結果でした。
こうした臨床試験の結果から、最近ではハーセプチン+タキソテールにパージェタを加えた3剤併用療法が、進行・再発乳がんの治療の第一選択の標準療法になっています。
《投与法》3週間ごとに、パージェタ、ハーセプチン、タキソテールの順番に点滴で投与します。吐き気止めとして5-HT3受容体拮抗薬や*デカドロン(副腎皮質ステロイド薬)も点滴します。
初回治療は、アレルギーなどの反応をみるために時間をかけて投与しますが、問題がなければ2回目以降は投与時間を短縮することができます。
3週間を1サイクルとして治療します。進行・再発乳がんの治療として使用する場合、効果が見られている間は継続して使用します。
*タキソテール=一般名ドセタキセル *タキソール=一般名パクリタキセル *パージェタ=一般名ペルツズマブ
*デカドロン=一般名デキサメタゾン
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