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患者のためのがんの薬事典

イクスタンジ(一般名:エンザルタミド)去勢抵抗性前立腺がんの新たな一手

監修●湯浅 健 がん研有明病院泌尿器科担当副部長
取材・文●星野美穂
発行:2014年8月
更新:2014年11月

  

ホルモン療法後に治療抵抗性を示す、去勢抵抗性前立腺がんには、これまで抗がん薬のタキソテールでしか打つ手がありませんでした。そこに新たな一手として登場したのが、抗アンドロゲン薬のイクスタンジです。タキソテールの治療効果が消失した患者さんにも、生存期間を延長するなどの効果が確認されています。

去勢抵抗性前立腺がんとは――これまでの治療

前立腺がんは、男性ホルモン(アンドロゲン)に依存して増殖することがわかっています。ですから、アンドロゲンを抑えることでがんの増殖を止めることができます。

そのために使われるのが、アンドロゲンの1種であるテストステロンの分泌を抑えるLH-RHアゴニスト製剤(ゾラデックス、リュープリンなど)やLH-RHアンタゴニスト製剤(ゴナックス)、アンドロゲンの作用を阻害する抗アンドロゲン薬(カソデックス、オダイン)などのホルモン製剤です。

進行期前立腺がんの初期の治療では、これらの薬剤をそれぞれ単剤、または併用して使用します。ところがホルモン療法を続けていると、徐々に治療に抵抗性を示すがん細胞が増え、治療効果が消失してしまうことも、また知られています。これは「去勢抵抗性」と呼ばれています(図1)。

図1 去勢抵抗性前立腺がん治療のイクスタンジの役割

去勢抵抗性は、前立腺がんの患者さんの多くに起きてくる現象です。病態にもよりますが、骨転移した人では平均2~3年くらいで去勢抵抗性が起こります。しかし、個人差も大きく、中には10年以上もホルモン療法が効果を示すケースもあります。

去勢抵抗性を示した場合、抗がん薬のタキソテールが使用されます。しかし抗がん薬は副作用が強いことなどもあり、使用に抵抗を示す患者さんも少なくありません。そのため、ときに効果を示すこともある女性ホルモンや副腎皮質ステロイドなどを使用することもあります。これらのホルモン療法や、抗がん薬を使用しても治療効果が薄れてきたときに、これまで次の手がありませんでした。

ゾラデックス=一般名ゴセレリン リュープリン=一般名リュープロレリン ゴナックス=一般名デガレリクス カソデックス=一般名ビカルタミド オダイン=一般名フルタミド タキソテール=一般名ドセタキセル

どんな薬?――イクスタンジ

◎3つの作用でアンドロゲンを阻害

今年(2014年)5月、去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として発売されたイクスタンジは、その次の一手となることが期待されている、新しい抗アンドロゲン薬です。

既存の抗アンドロゲン薬は、分泌されたアンドロゲンが受容体に結合するのを阻害します。

イクスタンジはその作用に加え、受容体に結合したアンドロゲンががん細胞の核内に移行することも阻害します(図2)。さらに、アンドロゲンとがん細胞のDNAが結合するのを阻止し、がん細胞が増殖できないようにするのです。

つまり、従来のアンドロゲン薬はアンドロゲンと受容体の結合を阻害するだけであったのが、イクスタンジはさらに2つの作用でアンドロゲンのDNAとの結合を阻害するのです。そのため、強力に男性ホルモンを抑えて、がん細胞を死滅に導きます。

図2 イクスタンジの作用

◎イクスタンジの効果と作用

図3 去勢抵抗性前立腺がんに対するイクスタンジの効果(全生存率)

Scher HI, et al. N Engl J Med 2012. DOI:10.1056/NEJMoa1207506.

イクスタンジの承認にあたっては、海外で行われた臨床試験の結果が評価されました。

AFFIRM試験と呼ばれる海外の第Ⅲ相臨床試験は、ホルモン治療を受けて去勢抵抗性となり、タキソテールの治療後がんの病勢進行が認められた患者さん1,199例を対象に行われました。

主要評価項目は全生存期間(OS)です。イクスタンジとプラセボを比べた結果、全生存期間の中央値は、イクスタンジ群が18.4カ月、プラセボ群が13.6カ月であり、イクスタンジ群に有意な全生存期間の延長を認めました(図3)。死亡リスクも、プラセボ群と比較して37%低下しています。

また、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)値が再上昇するまでの期間は、イクスタンジ群が8.3カ月、プラセボ群3.0カ月、画像診断上の無増悪生存期間(PFS)の中央値は、イクスタンジ群8.3カ月、プラセボ群2.9カ月と、いずれも有意な差がありました。

このAFFIRM試験はタキソテール使用後の患者さんに対するものでしたが、タキソテールの使用歴がない患者さんでイクスタンジの効果を検討した臨床試験の結果も公表されています。

ホルモン療法だけで治療し進行が認められた転移性前立腺がんの患者さん1,700例を対象としたPREVAIL試験では、プラセボ群と比較して統計学的に有意な生存期間の延長が認められました。

また、画像診断による増悪またはリスクを81%低下させました。さらに、イクスタンジの投与を受けた患者さんでは、プラセボの投与を受けた患者さんと比較して、抗がん薬による治療開始までの期間を17カ月遅らせることができたとの試験結果も出ています。

イクスタンジ=一般名エンザルタミド

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