• rate
  • rate
  • rate

切除可能膵がん 新たな治療戦略の可能性

手術をより確かなものにする、膵がんの術前術後補助化学療法

監修●中郡聡夫 東海大学医学部消化器外科教授
取材・文●町口 充
発行:2014年12月
更新:2015年2月

  

「術前補助化学療法は、切除のボーダーライン例に対するメリットがとくに期待されます」と話す中郡聡夫さん

膵がんは見つかった時点ですでに進行がんであることが多く、手術ができても再発・転移する割合が高い。そこで様々な補助療法が検討されており、術後の補助化学療法(アジュバント療法)については有効性が明らかになっている。現在は術前補助化学療法(ネオアジュバント療法)が有効か否かの臨床試験が行われているところだ。

手術後の再発を防ぐ術後補助化学療法

膵がん治療の目安となる「膵癌診療ガイドライン」では、治療の手順である「治療アルゴリズム」が
図1の通り示されている。それによれば病期(ステージ)がⅣbでも、遠隔転移がなく、膵臓の近くにある動脈などの大血管にがんが浸潤していない場合、手術切除が可能。ところが実際には、見つかった段階で手術が可能なのは全体の2割ほどでしかなく、手術で切除できたとしても多くの場合、再発や転移を起こし、根治するのはさらにその1~2割ほどといわれる。東海大学医学部消化器外科教授の中郡聡夫さんは次のように語る。

「そこで、治療成績を上げるために様々な方法が検討されています。再発予防のための術後補助化学療法についてはすでに臨床試験でその有効性が証明され、現在は、内服の抗がん薬であるTS-1を半年間服用する治療が推奨されています」

図1 膵がん治療のアルゴリズム
図2 術後補助化学療法の比較(JASPACO1試験、全生存期間)

(米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム[ASCO GI]2013)

従来はジェムザールを用いた術後補助化学療法が推奨されていたが、2013年10月、「膵癌診療ガイドライン」が4年ぶりに改訂され、TS-1の投与が標準治療となった。日本の多施設共同臨床試験の結果、従来のジェムザール単独療法群の2年生存率が53%だったのに対して、TS-1単独投与群は70%と、明らかな有意差を示したためだ(図2)。

「切除不能の進行がんではジェムザールとTS-1とはほぼ同等の効果なのに、術後補助化学療法ではTS-1のほうがかなりいい。その理由ははっきりわかっていませんが、TS-1のほうが奏効率(Response Rate:RR)が高いことが関係しているのかもしれません」

奏効率とは、延命効果というより腫瘍を小さくする直接の効果を表すものなので、目に見えない形で残った微小ながんにTS-1が効果を発揮し、再発を防ぐ働きをしていることが考えられる。

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム ジェムザール=一般名ゲムシタビン

がんを抗がん薬で小さくしてから手術

術後の化学療法に効果があるなら、手術の前にも化学療法を行い、がんを小さくしてから手術してはどうか。実際、その臨床試験も始まっている。

中郡さんによれば、膵がんに対する術前補助化学療法には、大きく分けて2通りあるという。

1つは、切除可能と診断された膵がんに対し、手術前にできるだけがんを小さくする補助療法として計画的に化学療法を行うもの。

もう1つは、切除不能と診断されて化学療法を行ったところ、がんが小さくなり、手術による切除に持ち込むことができたというものだ。この場合、手術を目的に行ったわけではないが、結果からみて術前に化学療法を行ったことになる。

いずれの場合についても今のところ生存率を向上させるとのエビデンス(科学的根拠)はないが、前者については東北大学教授の海野倫明氏が中心となり、有効性・安全性に関する全国規模の臨床試験が行われている。東海大学もこの臨床試験に参加している。

対象となるのは遠隔転移がなく、完全切除(R0切除)が可能と判断された症例。術前補助化学療法としてジェムザール+TS-1療法(GS療法)を行う群と、現在の標準療法である手術だけを行う群に割り付けてのランダム化比較試験で、目標症例数は360例、2017年までの予定だ。

なお、両群とも術後は補助化学療法を実施し、TS-1を半年間服用する。

R0切除=手術でがんを取った後の断面(切除断端)を顕微鏡で調べて、がん細胞が残っていない状態のこと

ボーダーライン膵がんも対象に

中郡さんはこの全国規模の臨床試験に加えて、東海大学独自の臨床試験も行っている。

「全国規模の試験は進行例を入れず、確実に切除できる症例が対象ですが、われわれが行う試験では、遠隔転移はないが局所で進行して動脈などへの浸潤が疑われるため、切除が可能か不可能かの判定が難しい切除境界膵がんであるボーダーライン膵がん(Borderline Resectable 膵がん)も対象に入れています」

腹部には上腸間膜動脈や腹腔動脈などがあり膵臓に接している。がんが大きくなってこれらの動脈を巻き込むように成長すると、動脈に浸潤してがんはますます広がっていくことになる。

そこで判断の基準として、がんがこれら動脈の半周(180度)以上を取り巻いていれば、がんが浸潤していると判断して切除不能の局所進行膵がんと診断される。一方、動脈の半周以下なら、切除できる可能性はあるものの切除可能か不可能かの判断が難しいため、ボーダーライン膵がんと呼んでいる。

ボーダーラインにあるなら、何とか少しでもがんを小さくすれば手術による切除の可能性は高まるはずだ。中郡さんらが取り組むのが、こうしたボーダーライン膵がんも含めた術前補助化学療法であり、切除可能膵がんへ術前補助化学療法と切除不能膵がんに化学療法を行って切除の可能性を探るという前述の2つの補助化学療法を合わせた方法といえる。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!