「食わず嫌い」でなかったから辿り着いた自分にベストな治療法 自らの足で調べ、前立腺がんの治療法を選択した元巨人軍の角 盈男さん(58歳)

取材・文●吉田健城
撮影●向井 渉
発行:2015年1月
更新:2018年3月

  

すみ みつお
1976年にドラフト3位で読売巨人軍に指名を受け、翌年入団。78年に新人王獲得。その後、ヤクルト及び巨人の投手コーチを歴任、ヤクルト投手コーチ時代には球団日本一に貢献する。現在野球評論家の傍らタレント活動としてバラエティ番組に数多く出演すると共に、講演活動、野球教室など幅広く活動している

前立腺がんは治療法が多い分、どの方法にすべきか、迷う患者さんは多い。現役時代巨人軍のストッパーとして活躍した角盈男さんもその1人だ。ではそこからどうやって自分にベストな治療法を選べばいいのか。角さんの場合も紆余曲折があった……。

採取した12カ所の組織のうち8つからがん細胞

読売巨人軍時代、長嶋茂雄さんと一緒に

読売巨人軍時代には、抑えのエースとして活躍した

日本に野球の名選手はたくさんいるが、型破りな球歴を誇る野球人はそう多くない。その代表格が角盈男さんだ。巨人軍に入団し、1978年に新人王に輝いたが、制球難に苦しんだため思い切って3年目にオーソドックスな上手投げからサイドハンドのサウスポーに変身。これが功を奏して日本を代表するストッパーにのし上がった。

その角さんが前立腺がんを告知されたのは2014年2月末のこと。見つかったきっかけは、告知のひと月前(14年1月)に受けた人間ドックだった。

「現役時代の後援者で、現在も深い付き合いがある友人が、大阪で人間ドックを受けることにしたので、お前も一緒に受けろと誘ってくれたんです。それで検査を受けたところ、PSA(前立腺特異抗原)の数値が9.8ng/mlありまして……。そこで翌月、検査を受けた病院から紹介された都内のT総合病院で詳しい検査を受けることになったんです」

触診、エコー等の検査を受けた結果、前立腺がんの疑いがあると判断されたため、角さんは2泊3日で検査入院。生検を行ったところ、採取された12カ所の組織のうち、8つからがん細胞が見つかった。

「医師から『生検で採った細胞から、がんが見つかりました』と言われたのですが、自覚症状がないこともあってピンと来なくて、『それって、がんなんですか?』って聞き返したんです。そしたら『立派ながんです』と言われて。どこか人ごとのような感じでした」

角さんは医師から、治療法として手術と2種類の放射線治療などがあることを伝えられた。

「放射線治療は、①外から放射線を照射するタイプと、②小線源を前立腺内に留置して内から照射するのと外から照射するのを組み合わせるタイプの2種類があるという説明を受けました」

手術は、角さんの中では選択肢として考えられなかったという。

「親しい友人から、手術は術後に尿失禁になって大変な思いをするケースがあると聞かされたからです。それに手術を受けるとなると一定期間入院しないといけないし、退院後も、すぐには以前の生活に戻れない。僕には向かないと思いました」

ホルモン療法とセットになった重粒子線治療

角さんが最終的に選択したのは、3つの選択肢以外のものだった。

重粒子線治療である。

「自分では当初、内と外から当てる放射線治療にしようかなと思っていたのですが、色々勉強していくうちに、重粒子線治療という先進医療があることを知ったんです。調べていくうちに、ピンポイントでがんを攻撃できる優れた治療法だということがわかりました。保険が利かないので治療費が300万円もかかるのがネックなんですが、幸い女房が先進医療特約付きのがん保険に入ってくれていたので、自腹を切る必要がないこともわかり、それならやらない手はないと思ったんです」

数日後、角さんはT総合病院の医師に書いてもらった紹介状を携えて、千葉市にある放射線医学総合研究所の重粒子医科学センター病院を訪ねた。ひと通り検査を受けたあと、医師から治療方針に関する説明を受けたが、聞かされた内容はイメージしていたものとはやや異なるものだった。

「医師から、重粒子線治療の前にホルモン療法を行う必要があると言われまして。こっちとしては、すぐに重粒子線治療を受けられるとばかり思っていたのですが……」

5月から始まったホルモン療法

重粒子医科学センター病院ではホルモン療法を受けられない。そのため角さんは、重粒子医科学センターの医師が書いた紹介状を持って、今度はT総合病院で5月からホルモン療法を受けることになった。

「ホルモン療法は注射と飲み薬を併用しますが、治療はお腹に注射を1本打ってもらえば、あとは飲み薬の処方箋を出してもらうだけなのですぐに終わります。それでも待ち時間が長くて、午前中ずっと待って昼過ぎにようやく順番が回ってくる感じです。病院には役割分担があるとわかっていても、1カ所で治療を受けられないものかと、思わずにはいられませんでした」

その後の診察で、ホルモン療法を秋口まで続けたあと、10月に重粒子線治療を開始することが決まった。

友人から知ったトモセラピーという治療法

そんな折、角さんは友人からトモセラピーという治療法を紹介された。はじめ角さんはセラピーという言葉を聞いて似非メンタルセラピー系の怪しい治療法ではないかと疑ったという。しかしよく聞くと、ホルモン療法を併用しなくてもよい上、がんのある病巣に絞って照射する、体に優しい治療法であることがわかった。

角さんは興味を持ち、すぐにトモセラピーを行っているクリニックに連絡し、直接行って、詳しい話を聞くことにした。

応対した院長の医師は、角さんにトモセラピーの概略、既存の治療法より優れている点、治療の具体的な流れなどをわかりやすく説明してくれた。

「自分に合っている治療法ではないか」、角さんの思いはさらに強くなったという。

トモセラピーは検査(CTスキャン)と放射線照射を同一機器(装置)で行うことができる最新の放射線治療法である。正常細胞をほとんど傷つけることなくがんに照射できるのがウリで、様々ながんの治療に用いられているが、前立腺がんは大きな治療効果が期待できるがん種の1つにあげられている。

トモセラピー=最新鋭の放射線治療であるlMRT(強度変調放射線治療)を行うために開発された、CTのような形をした高精度放射線治療装置。CTと同様、体を輸切りにした画像を撮影できる一方、強い放射線を発射することもできるため、CTの撮影をした直後にがんを狙い打つピンポイント放射線治療を行うことができる

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