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進行した分化型甲状腺がんの治療に用いるチロシンキナーゼ阻害薬

ネクサバール(一般名:ソラフェニブ)分化型甲状腺がんの治療薬

監修●杉谷 巌 日本医科大学付属病院内分泌外科部長
取材・文●伊波達也
発行:2015年6月
更新:2015年9月

  

一般名:ソラフェニブ
承認:2008年1月
適応:根治切除不能、または転移性の
腎細胞がん、切除不能な肝細胞がん、
根治切除不能な分化型甲状腺がん

手術による切除が、分化型甲状腺がん治療の第一選択です。切除後は補助療法として、放射性ヨウ素治療、甲状腺ホルモン治療が行われます。進行が遅く、切除できれば予後も良好な場合がほとんどですが、中には治療に抵抗する例が少数ながらあります。そのような場合に用いる治療薬が、昨年(2014年6月)甲状腺がんに対する薬剤で初めて保険適用になった分子標的薬のネクサバールです。

どんな薬?――ネクサバール

図1 ネクサバールの効果

(Brose, M. S. et al.、2014)

ネクサバールは、根治切除不能の分化型甲状腺がんで、放射性ヨウ素内用療法が有効でない場合に適応となる分子標的薬です。2009年から2011年に実施された国際共同第Ⅲ相試験(DICISION試験)でネクサバールとプラセボ(偽薬)が比較されました。これによると、無増悪生存期間(PFS)の中央値が、プラセボ5.8カ月に対し、ネクサバール10.8カ月と、ネクサバールの効果が証明され、結果、2014年6月に保険承認されました(図1)。

ネクサバールは、腎細胞がんや肝細胞がんで既に承認されていた薬で、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)という分子標的薬の1つです。

最近の分子生物学的研究によって、甲状腺がんにおいても、がんの増殖・進行に関わるシグナル伝達に関与する様々な分子(RASやBRAFなど)に突然変異が起きていることや、腫瘍を栄養する血管新生に関わる血管内皮増殖因子(VEGF)の発現が増加していることがわかってきました。ネクサバールには、VEGFや血小板由来成長因子(PDGF)の受容体であるVEGFRやPDGFRを標的として腫瘍血管の形成を阻止したり、BRAFやRETなどシグナル伝達系にかかわる分子を阻害して、腫瘍増殖を食い止める働きがあります。

ネクサバール=一般名ソラフェニブ

基本を知ろう!分化型甲状腺がんの治療

分化型甲状腺がんは、乳頭がん、濾胞がんに分類され、一般的に予後の良好ながんです。

治療の第1選択は手術で、大半の場合は手術のみで完治しますが、1割程度、遠隔転移を起こしたり、頸部に再発を繰り返すハイリスクがんがあります。ハイリスクがんは高齢者に多く、激しい転移や甲状腺周辺の臓器への浸潤を伴います。しかし、この場合でも、10年生存率は70%近くあります。たとえ遠隔転移があっても、小さな肺転移のみの場合には、10年生存率は約80%です。ハイリスクといっても、多くは非常にゆっくりと進行するのです。

ハイリスクがんと考えられる人には、まず手術で甲状腺を全摘したうえで、補助療法として放射性ヨウ素(アイソトープ)治療を実施し、甲状腺ホルモン薬を用いた甲状腺ホルモン抑制療法を行います。

放射性ヨウ素治療は、ヨウ素131のカプセルを内服する治療です。再発や転移の場所にヨウ素が取り込まれれば(集積)、そこで放射線が出ることで、病気の治療になります。分化型甲状腺がんについては、これまで明確なエビデンス(科学的根拠)のある化学療法はありませんでした。

ネクサバールによる治療

根治切除不能な再発や転移がある場合、放射性ヨウ素治療を行って、病巣に集積があれば半年~1年ごとに繰り返します。しかし、集積がない場合も多く、また、集積しても病巣が大きくなってしまう場合もあります。

ネクサバールが適応されるのは、このように放射性ヨウ素の効果が認められないうえ、再発や転移が確実に進行してしまう場合です。標準的な治療を一通り実施して、それでも奏効しない抵抗性の強い症例で、放っておくとがんによるつらい症状が出現すると予想されるときに初めて検討される治療なのです(図2)。

図2 甲状腺がん治療でのチロシンキナーゼ阻害薬治療の位置づけ

5学会(日本臨床腫瘍学会、日本甲状腺外科学会、日本内分泌外科学会、日本甲状腺学会、日本頭頸部外科学会)連携による「甲状腺癌に対するチロシンキナーゼ阻害剤の適応患者選択指針」より

ネクサバール治療は、錠剤を1回2錠、1日2回服用します(図3)。

図3 ネクサバールの服用法

ネクサバールの投与によって、腫瘍が完全に消失するという可能性はあまりありません。悪化しない状態を維持していくことが目標になります。

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