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期待されるこれからのがん免疫療法

エビデンスとともに適応拡大へ 免疫チェックポイント阻害薬

監修●北野滋久 国立がん研究センター中央病院先端医療科
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年10月
更新:2019年7月

  

「将来的にがん免疫療法に適した人、そうでない人の予測ができる時代が来ることが期待されます」と語る北野滋久さん

がんの免疫療法というと、「エビデンス(科学的根拠)のない民間療法」と引き気味になってしまう患者さんや医療関係者もいるのではないだろうか。しかし近年、新しい作用機序をもつ免疫療法薬と従来の化学療法薬との比較試験で、免疫療法薬の優位性が証明され、保険適用されるなど様相が変わってきた。最新のがん免疫療法である「免疫チェックポイント阻害薬」とはどのようなものか、専門家に伺った。

従来のがん免疫療法薬とは全く異なる作用機序

「今までのがん免疫療法とは違います。誰が見ても本物と思える薬剤がやっと登場しました。〝第4のがん治療〟と堂々と言える時代の扉が開いたと思います」

国立がん研究センター中央病院先端医療科の北野滋久さんは、腫瘍内科医でもあり、免疫療法の進化を歓迎している。

これまでがん免疫療法というと、手術、抗がん薬、放射線に続く〝第4の治療〟と言われて大学や大きな医療機関で研究や臨床応用が続けられる一方、民間の誇大とも取れるPRも氾濫していた。

結果的に「患者さんを煽るだけの効果のない治療法」というイメージをぬぐい切れずにいたが、その大きな理由は臨床試験でエビデンスが得られていないことだった。

「2011年に大きく時代が変わりました。米国で臨床試験結果に基づく新しい作用機序の免疫療法薬が承認されたのです」

承認されたのは、「免疫チェックポイント阻害薬」だ。11年3月に「進行性・手術不能の後期悪性黒色腫(メラノーマ)」に対して抗CTLA-4抗体のヤーボイがFDA(米国食品医薬品局)に承認された(日本では2015年7月承認。適応は「根治切除不能な悪性黒色腫」)。北野さんは当時、この薬剤の臨床試験から承認までを主導した世界有数のがん治療施設であるメモリアル・スローンケタリング・がんセンター(ニューヨーク)に留学しており、身を持ってその一部始終を体験した。

CTLA-4:細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(T細胞の活性化を抑制する調節因子) ヤーボイ=一般名イピリムマブ

がん細胞により抑えられていた免疫機能を復活させる

免疫チェックポイント阻害薬を説明する前に、がん免疫療法を整理してみよう。免疫療法薬は抗がん薬とは違い、がん細胞の作用で低下している免疫機能を復活させたり、さらに賦活化させたりすることでがん細胞を死滅させようという薬剤だ。現在、開発が進んでいるがん免疫療法は「がんワクチン療法」「Tリンパ球養子免疫療法」「免疫チェックポイント阻害薬」に分けられる。

がん免疫療法には、T細胞の免疫活性反応を増強させる方法と免疫能が抑制されてしまう反応を遮断する方法の2つがあり、がんワクチン療法とTリンパ球養子免疫療法は前者に、免疫チェックポイント阻害薬は後者に当たる。

がん細胞の〝策略〟の上を行くブレーキ解除作用

免疫チェックポイント阻害薬の作用機序を見てみよう。PD-1のようなT細胞の活性を制御する受容体をチェックポイントと呼ぶが、その種類はたくさんある。元来行き過ぎた免疫反応の暴走を止めるためのブレーキ機構であり、例えばウイルスなどの異物(非自己)に感染するとT細胞はそれを排除するために活性化するが、異物がなくなった後に、その免疫応答を終息に向かわせるものである。がん細胞は正常細胞と性質が異なるため、ヒトが持つ免疫システムにより異物と認識されてリンパ球であるT細胞に排除されてしまう。

そこでがん細胞は、その免疫システム(免疫監視機構)を巧みにかわす〝技〟を身につけてしまう。例えば、ある種のがん細胞ではPD-L1というタンパクを細胞膜上に発現させ、このタンパクがT細胞上に発現するPD-1という受容体に結合することでT細胞の活性を抑制する。PD-1はT細胞が活動し過ぎて自分の体を傷つけないようにする働きがあるが、がん細胞はこれを〝故意に〟利用して攻撃を低下させるのだ(図1)。

図1 免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1/抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体)の作用機序

免疫チェックポイント阻害薬は、他の免疫系細胞からのブレーキやがん細胞の触手がチェックポイントに届かないようにしてT細胞の攻撃性を維持するというものだ。11年に米国で承認されたヤーボイはCTLA-4というチェックポイントに作用するが、14年7月には、日本で世界に先駆けてPD-1に作用する免疫製剤オプジーボが「根治切除不能な悪性黒色腫」の治療に対して承認された(その後、米国でも同年12月承認)。

また、T細胞に発現する受容体には、活性抑制につながるものだけではなく、活性化につながるものもあり、それらへのアプローチの研究も続いている(図2)。

図2 T細胞の活性化を制御する補助刺激(活性・抑制)分子群

PD-1:免疫応答調節のシグナルを介する免疫受容体(活性化リンパ球に発現する受容体で、生体防御と自己免疫疾患の両方に必須なTリンパ球の過剰な活性化を抑制する) PD-L1:抗原提示細胞やがん細胞の表面に存在するタンパク質(T細胞のPD-1受容体に特異的に結合するリガンドとして、免疫応答を制御する働きをもつ) オプジーボ=一般名ニボルマブ

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