適切な症例選択で開腹手術と遜色のない治療が
安全性と根治性を備えた肝胆膵領域の腹腔鏡下手術
本田五郎さん
胃がんや大腸がんに比べ、普及が遅れている肝胆膵領域の腹腔鏡下手術。腹腔鏡下手術用に開発された新しい手術器具が登場したことで、手術に要する時間は開腹手術に比べて長くなるものの、適切な症例を選ぶことで、安全性や根治性において、開腹手術と遜色ない結果を残せるようになっている。肝胆膵がんにおける腹腔鏡下手術の現状について、専門家に伺った。
新しい医療器具の登場により 開腹手術と同じことが可能に
腹腔鏡下手術が広く行われるようになっている。腹壁に数カ所の小さな孔を開け、そこから腹腔鏡と手術器具を挿入する。そして、腹腔に二酸化炭素(炭酸ガス)を入れて膨らませ、内部を映し出したモニターを見ながら、手術を行うという方法である(写真1)。
がん医療の分野でも、胃がんや大腸がんなどの手術は、腹腔鏡下で行われることが増えてきた。肝胆膵領域でも行われているが、胃がんや大腸がんの腹腔鏡下手術ほどは普及していない。
がん・感染症センター都立駒込病院の肝胆膵外科では、腹腔鏡下手術にも意欲的に取り組んでいるが、この手術を行うようになったきっかけについて、同科医長の本田五郎さんは次のように語っている。
「腹腔鏡下手術用の新しい手術器具が開発されたことが大きいです。腹腔鏡下手術が安全にできるかどうかを判断する大事な基準は、開腹手術で行うのとほぼ同じことが、腹腔鏡下でも行えるのか、ということだと思います。私はそういう基準で判断していますが、腹腔鏡下手術用の新しい器具が登場してきたことで、これなら安全にできると判断しました」
新しい器具とは、例えばシーリングデバイスだという。ある程度までの太さの血管であれば、数秒挟むだけで結紮したのと同じ状態になり、切断もできる器具が登場したのだ。血管の結紮は、腹腔鏡下ではものすごく時間がかかるが、これを使えばスピードを落とさずに手術できる。こうした医療器具の進歩で、肝胆膵領域の腹腔鏡下手術は、一部の医療機関で行われるチャレンジングな治療ではなく、一般的な治療として行われるようになってきた。
「初めて行われたのはもう20年前くらいになりますが、普及し始めたのは、肝臓の手術が8年ほど前から、膵臓では、膵体尾部切除が10年ほど前から、膵頭十二指腸切除は4年ほど前からです」
傷が小さいことで 手術直後の元気さが違う
腹腔鏡下手術と開腹手術には、どのような違いがあるのだろうか。
「切開する大きさが違います。肝臓の開腹手術を行う場合、肝臓は大きな臓器ですし、それが肋骨の中に入っているため、かなり大きく切開する必要があります。当院で右葉側の手術を行うときは腹部を縦に切開しますが、へその下まで切らないと肝臓の手術はできません。一般的には腹部を横に切り、脇のほうまで30~40㎝ほど切開します(写真2)。肋骨の間を切り、肋骨を開く方法もあります。左葉側の手術では、お腹の中央付近の手術ですので、比較的小さな切開でも可能なことがあります。腹腔鏡下手術なら、5~15㎜の穴を5カ所ほど開けるだけです」(写真3)
痛みは患者さんの感じ方にもよるし、切った部位にもよるので、一概には言えないが、手術後の患者さんの状態には、大きな差があるという。
「あくまで印象ですが、手術を終えた患者さんのくたびれ方が違います。開腹手術では大きく切開して、筋肉が引っ張られたりしますから、それだけ体力的な侵襲があるということでしょう」(表4)
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